英EU離脱問題:キャメロンは自ら墓穴を掘ったのか?
2016年06月17日付 Prothom Alo紙


英首相デヴィッド・キャメロンは自ら墓穴を掘ったのかどうかは6月23日に明らかになる。その日、英国がEUのメンバーとして残るか、それとも離脱するのかが国民投票を通じて決められる。英国の有権者にこの国民投票実施を約束したのはキャメロン首相自身だ。最新の世論調査によると、離脱派が優勢となっている。しかし、前回の総選挙のときに行われた世論調査はすべて実際の結果とは違っていて、その理由を探るため国を挙げての調査が行われたことを付記しておく必要があろう。ただし、調査機関がそのことからどれほど教訓を得たのかについてはまだ検証はおこなわれていない。

英国EU離脱の恐れは高まり、金融市場はすでに不安定化している。ポンドは値下がりしており(在英のバングラデシュ人が実家にポンドを送れば、家族が手にすることのできるタカが減っている)、株価は下がり始め、多国籍企業は危機回避のために、さまざまな種類の代替措置を考えている。イギリス国内にある資産を国外に移すことを検討している企業も少なくない。なぜならこのままでは資産価値が目減りする可能性があるからだ。2月の段階では投資家や金融市場官憲者たちの間で、国民投票ではEUからの離脱に票が集まるだろうとの観測があった。そのため、過去数か月間は、多少の不安定さはあったものの、ポンドと株価はあまり動かず、息をひそめているような状況だった。しかし、先の火曜日には、ロンドンで主要な株価指数FTSEが6000以下に下がった。株式は平均で2パーセント値下がりした。オズボーン財務大臣は、英国がEUを離脱しひとりで歩む決断をすれば増税と国家予算削減をしなければならないと警告を発することを余儀なくされた。銀行家たちも、銀行融資の金利が上昇し、10%を超える事態になると警告した。国内需要は減少し、その結果不景気となり持ち直すには10年もかかるだろうという話もあった。建設業や住宅ビジネスに関わる人々は、住宅の価格はおよそ20パーセント下がる可能性があると語った。大学への研究用助成金は10%カットされるとも予想され、研究者たちは憂慮している。

英国にとって、6月23日はブラックデーの再来となる可能性がある。国民投票が実施されるのは木曜日で、その結果が金融市場にどんな影響を及ぼすかが分かるのは翌日金曜日になる。これ以前にイギリスが体験したブラックデーは1992年9月16日水曜日だった。ブラックウェンズデーつまり黒い水曜日の名で知られるこの日は、イギリスがポンドの為替レートを維持できなくなったため、ついにヨーロッパの統一通貨制度であるERM・欧州為替相場メカニズムからの離脱を宣言した日だ。しかし、そのせいで英国経済は長いこと苦しむことになった。その黒い水曜日のときも財務大臣の顧問だったのがデヴィッド・キャメロンだ。当時のジョン・メージャー首相の内閣で財務大臣を務めていたのはノーマン・ラモントだった。それで英国のあの黒い水曜日といえば、みながノーマン・ラモントを思い出すのだが、当時顧問の地位にいたデヴィッド・キャメロンが今は先導役を務めているのだ。そのキャメロンの指導のもと、英国は再びブラックデーを迎えようとしているのだろうか。国民投票の結果がもしEU離脱となったら、キャメロンにとっても別れの鐘が鳴り響くことになるかも知れない。キャメロンの政党・トーリー党(保守党)の内部でも、100人ほどの国会議員がキャメロンを追い出そうと躍起になっている。こうした議員たちは、キャメロンがほかの欧州諸国との関係を維持しようとするあまり、トーリー党の保守的政治の理想に対する裏切り行為を行なっていると考えている。
 
英国は島国であるため、地理的にヨーロッパと少し離れている。ひとつの海峡がヨーロッパ本土とイギリスを隔てている。しかし、40年以上もの長きに渡る政治的なつながりも英国をとどめておくことはできないのかというのが現在の大きな問題だ。英国はヨーロッパにおいて、ある種の暗黙のリーダーとして指導力を発揮してきた。国際政治でパワーバランスを維持するために、資本主義社会の最大勢力アメリカの最も近く頼りになる同盟国として、英国の役割はヨーロッパの他の国よりもはるかに重要だ。そのため、バラク・オバマをはじめとする先進7か国のグループ・G7の指導者たちは、大っぴらに、かつ強くイギリスのEU残留を訴えている。G7の公式な声明でさえも、国民投票の結果がもし離脱になれば、その結果として国際的な安定が失われる恐れがあるとしている。ヨーロッパの指導者も離脱反対だ。ほぼ全員が結びつきを維持しようと躍起になっている。

しかし、それなら英国の多数の国民は(世論調査によれば)なぜ離脱を望んでいるのだろうか。このひとつの主要な答えは、英国(正しくはイングリッシュ)の民族的なプライドにある。かつての植民地時代の統治者気質、「我々こそが最も優れているのである」精神が大きな触媒の役割を果たしている。欧州委員会が商取引の指針を決定したり、人権規定遵守を義務付けたりすることに、イギリス人は常に誇りを傷つけられてきた。保守派がEUから離脱し、自らの運命を自らの手に取り戻すことを主張しているのはそうした理由による。ヨーロッパからの離脱を「British + exit」 で「ブレグジット」と言う代わりに「グレート(ブリテン)+エグジット」で「グレグジット」とも言うこともできる。しかし、英国がEUから離脱することにより深刻な経済的な危機の可能性が指摘されていることを考え合わせると、「大きな離脱」の意味で「グレグジット」という言葉が歴史に刻まれることになるかも知れない。

グレグジットにせよブレグジットにせよ、それは数千マイル離れた我が国に影響はあるのだろうか。新聞の報道によれば、より多くのバングラデシュ系イギリス人が国民投票に参加し、離脱反対に一票を投じるよう呼びかけるために、バングラデシュの閣僚の一人がロンドンを訪ねたという。与党アワミ連盟のソイヨド・アシュラフル・イスラム事務局長は長年にわたってロンドンで暮らした経験があり、当然在住の邦人たちに一定の影響力を持っている。他国の選挙に影響を及ぼそうとする試みが望ましくない介入であるか否かはこの際あまり意味を持つまい。南アジアの各国の指導者たちがほぼ一様に、英国はEUにとどまって指導力を発揮すべきだと公然と述べているからだ。英連邦の他の国の中では、オーストラリア、ニュージーランドあるいはカナダといった国々も同様の呼びかけを行なっている。

英国在住のバングラデシュ人の多くは、レストラン事業で大きな存在感を示している。しかし保守派あるいは右派の政治家たちが移民反対を唱えているため、バングラデシュ人が経営するレストランではここ数年、人手不足の状態が続いている。BBCでかつて政治部エディターを務めたニック・ロビンソンは、5月26日付の「Who will cook you Indian curry? 誰がインドカレーを作ってくれるのか」と題した記事で、最近は毎週2~3軒のインド料理店が閉店している、と書いている。インド料理店のバングラデシュ人経営者たちは、シェフからはじまって店のすべてのスタッフに同国人を採用したがる。しかし保守党政権による移民受け入れ策が厳しさを増すなか、現在バングラデシュからスタッフを迎えることはほとんど不可能になっている。英国の閣僚や政治家が示した解決策は、EU加盟国の中でもっとも貧しいルーマニアの出身者たちを代わりに雇用せよ、というものだ。そのためレストランの経営者たちの多くは、EUからの離脱により有能な人材やプロの職人たちの人材不足が起きれば、南アジア出身者たちの運命は良い方向に変わるかも知れないと考えている。インド、パキスタンそしてバングラデシュ人たちに再び移民の機会が与えられるかも知れない、とニック・ロビンソンは考えている。ブレグジットキャンペーンを行なっている人々の中には、そのような考え方を国民に示そうとしている人もいる。インド系イギリス人で保守党所属の政治家、プリティ・パテルはそうした人たちのひとりだ。ただ、プリティの主張にインド人たちは楽観的になることができても、バングラデシュ人たちはそうはいかない。なぜなら、イギリスの医療業界でインド出身者たちは医師または専門的な医療従事者として大きな部分を占めており、この流れが変わるための理由は何もないのだが、バングラデシュ人が経営するカレーショップにはそのような機会が実質的にないと言えるからだ。

英国とバングラデシュの間の商業的関係の基盤は植民地時代にさかのぼる。しかしEUの誕生で、英国の商業・貿易・投資のすべてはEUの政策および法律によることになった。英国がEUから離脱することになれば、英国との間の経済関係、政治関係を新たに構築しなければならない。それは一朝一夕にできるものではない。結果として移行の間は不確実で不安定な時期がかなり「続くことになるだろう。英国がもし離脱による経済不況に陥れば、その影響が我が国にも及ばないとは誰も言いきれない。しかしこのドラマのもっと悲劇的な結末は、英帝国が瓦解した場合だろう。なぜなら、スコットランドの独立派は今回本気で連合王国を離れる道を歩み始めるかもしれない。英連邦戦略研究所の最新の研究レポートは、ブリグジットがもたらす早期の影響として、スコットランドと北アイルランドの将来についてそのような予測をしている。

カマル・アハメド(ジャーナリスト)

Tweet
シェア


この記事の原文はこちら
原文をPDFファイルで見る

 同じジャンルの記事を見る


(翻訳者:成澤柚乃)
(記事ID:571)