国内の砒素汚染問題の現状 ~ 政府からは忘れられ、ドナーたちの意欲も少なく~
2017年05月05日付 Prothom Alo紙


(4月21日付)(報告作成 シシル・モロル記者)

国内で現在、3200万人の人々が基準値を超える砒素を含む水を飲んでいるが、この問題に対して政府は重きを置いていない。砒素を含まない水の供給について、現在フィールドレベルの明確な計画はされていない。
 保健庁とプロトム・アロの調査により、こうした現状が浮かび上がってきた。2012年、WHOはバングラデシュでは毎年砒素中毒により4万3千人の人々が亡くなっていると発表した。保健庁はこの死者数に関して賛同しかねるとしているが、かといって同庁が情報を持っているわけではない。
 記者は基準値を超える砒素が検出されている地域を訪ねたのだが、政府のプロジェクトとして砒素中毒の患者たちにビタミン、抗酸化剤酸化、軟膏などが配られているのを目撃することはなかった。
 「砒素の問題は以前と全く変わっていないことは統計が証明しています」水問題の専門家として知られるBRAC大学の前副学長、アイヌン・ニシャト氏はプロトム・アロ紙にこう語った。残念なことに、この問題に携わっている政府の責任者たちが、問題の存在を忘れてしまっているということだ。さらにアイヌン・ニシャト氏によれば、ドナーたちの意欲が減退してしまったためにNGOも砒素問題への取り組みをやめてしまっている。
 国際NGO「ウォーターエイド」のカントリー・ディレクター、カイルル・イスラム氏は、砒素問題への取り組みの計画立案・実行の責任者たちが前向きでないため、フィールドレベルでの砒素問題対策は未だに脆弱であると指摘する。同氏はプロトム・アロ紙の質問に答えて次のように語った。「安全な水の供給と処理については、バングラデシュは大きな発展を遂げました。また砒素問題解決のための政策立案者たちは2004年に国家砒素対応策を作るなど、様々な時に重要な決定を行なっているのですが、そうした策を実行するための動きが見られないのが現状なのです」
 クシュティアからメヘルプルに向かう道の途中に、アロムプルという村がある。村全体が安全な水が手に入らないという問題を抱えている。村の住人は約4千人だ。この村で車から降りてジャーナリストだと名乗ると、道沿いの小さな市場に人混みが出来た。米穀商のジンナト・アリさんはシャツをめくりあげて身体にできた斑点を見せながらこう言った、「身体や手足が痒いです。身体に力が入りません。毒なのは知っています。しかし井戸の水を飲むのです。それしか方法がないのです」
 各家を訪ねて村のなかを歩くたび、記者の後ろの人の列が伸びていく。村人たちによれば、村ではこの10年の間に、管井戸の水を飲んでいた17人が亡くなったという。家族6人をなくした家庭もある。その家のモハンマド・パヌさんは10年前に亡くなった。妻のナシマ・ベゴムさんは、パヌさんの身体には斑点が現われ、喘息になり、腎臓に障害が出たと言う。村の人々からはさらに、別の地区に住んでいる寡婦のモサンモド・シュクジャンさんは、おそらくもう長くは生きられないのでは、という話を聞いた。そのあとでシュクジャンさん本人から、ラジシャヒ医科大学病院で受診したときの診断書を見せてもらったところ、癌に侵されていることが分かった。「私たちがこんな目にあっているのは、みんな水のせいなんです」とシュクジャンさんはプロトム・アロ紙に訴えた。その村では、砒素中毒患者の人々の治療に関する情報を記録するために、保健庁は患者一人ずつに冊子を配布した。シュクジャンさんに渡されたその冊子を見ると、2014年の7月24日以降彼女に薬が処方されていないことが分かる。
 地元の郵便局支所で支所長を務めるモハンマド・シャミム・レジャ氏はこう言った。「安全な水をくれるはずの人たちは水をくれない。治療してくれるはずの人たちは治療などしてくれない。みなが私たちのことを忘れてしまっているんです」。
 メヘルプルの公衆衛生工学局(DPHE)によると、2003年に行なった調査ではアロムプルの55%の管井戸の水に、基準値以上の砒素が含まれていた。当時の村の砒素中毒者数は162人であった。現在は90%の管井戸の水に基準値を超える砒素が含まれており、砒素中毒者数は約400人にのぼっている。
 安全な水の供給を主につかさどるのは地方政府担当省だ。健康面を管轄するのは保健省となっている。
 砒素問題の状況に関して知るために先月、5回ほど地方政府担当省次官の部屋を訪ねたが、面会は出来なかった。携帯電話に電話したり、ショートメッセージを送ったりしたが連絡はつかなかった。一方、保健省の非伝染性疾患管理計画を統括するファルク・ブイヤ氏によると、今年の1月からはじまった「健康・人口・栄養発展に関する5か年計画」では、砒素問題だけで5億タカが割り当てられているという。

医療サービスがない
メヘルプルのシビルサージョン(県保健局局長)のラシェダ・スルタナ医師のオフィスを訪れて話を聞くことができた。アロムプルで最後にビタミン剤と抗酸化剤が配布されたのはいつだったのかを尋ねたのだが、明確な答えは返ってこなかった。また在庫が底をついた時期についても最新の情報を入手することはかなわなかった。
 保健庁による非伝染性疾患管理計画によって砒素中毒患者が認定され、治療が行われることになっている。同計画のファルク・アハメド・ブイヤ統括が先週プロトム・アロ紙に語ったところによると、ここ5年、あるいは1年の間に、砒素中毒患者のためにいくら費やされたのかの記録は保健庁にはないということだ。さらにブイヤ統括は、フィールドレベルで、砒素中毒患者への薬の配布が今は行われていないことを認めた。

特定の計画がない
1993年にはじめてチャパイノバブゴンジョで管井戸の水の中から基準値を超える砒素が発見されたあと、かなりの数の国際機関からの経済援助により、管井戸の交換、代替水源の供給、啓発活動、患者管理などについていくつもの計画が実行された。
 公衆衛生工学局によると、砒素問題の解決のために、世界銀行、ユニセフ、デンマークの国際開発機構、カナダのドナー機関であるカナダ国際開発庁(CIDA)やイスラム開発銀行からの金融的援助により、全国で7つの大きな計画が実行された。それ以外にも政府自身のお金で様々な計画が実行された。これらのプロジェクトを通じて砒素による汚染度が高い地域に、21万個の水源(基本的に管井戸)や代替水源(池や砂フィルター)が設置された。こういった取り組みと並行して行われた啓蒙活動の結果、砒素を含む危険な水の利用は著しく減少している。
しかしこれら全てのプロジェクトの終了後、政府は何も大きなプロジェクトに着手していない。このことについて公衆衛生工学局のチーフエンジニア(研究開発部門)のモハンマド・サイフル・ロホマン氏はプロトム・アロ紙に対し「世界銀行の援助による村落地域での水の供給と公衆衛生計画、ユニセフの援助による水の供給と公衆衛生計画、そしてバングラデシュ政府の支出による村落への水供給計画は現在実行中だ。総額140億タカ(190億円)に上るこの3つのプロジェクトにより、143の池が掘られ、9万個の管井戸が設置される。これによって砒素の問題の大部分は解決されるだろう」と述べた。
 保健庁によれば、毎年砒素中毒者の数は増加している。2008年には2万4389人だったものが2012年には6万5910人に増加した。しかしここ5年間のデータは保健庁のもとにはない。
 2004年の国家砒素対応策では砒素関連のあらゆる活動を統括するために高いレベルの委員会と問題解決のために国家レベルで専門家委員会を立ち上げることがうたわれているが、ここ10年の間、2つの委員会の会合は一度も開催されていない。
 水問題の専門家で、砒素問題撲滅のための国家専門家委員会のメンバーでもあるアイヌン・ニシャト氏はこう語っている。「ほぼ10年前に国家レベルで立ち上げられた各委員会のことはすでに忘れられてしまっています。今はそれらを再建すべき時なのです」。
(この記事を書くにあたって、プロトム・アロ紙のメヘルプル支局のアブ・サイド記者の協力を得た)

砒素中毒とは何か?
水または他の物質を通じて、基準値を超える砒素が長期間(少なくても6か月)身体に取り込まれると、皮膚や他の部位にその反応が現われる。それにより胸や背中に茶色の斑点あるいはゴマのような黒い斑点(メラノシス)、手のひらや足の裏に小さなシミや皮膚の角質化(ケラトシス)、あるいは手のひらと足の裏にタコ(ハイパーケラトシス)が出る。これらが砒素中毒のサインだ。砒素中毒では、皮膚がんになる場合もある。砒素中毒の特に決まった治療法はない。しかし初期の段階では、安全な水を摂取することで患者の状態はよくなる。症状緩和のするためにはビタミン、抗酸化剤や軟膏が処方される。
(出典:保健庁による“砒素患者の診断ガイドライン”より)

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(翻訳者:鈴木タリタ)
(記事ID:628)