あらゆる記録をぬりかえた「鬼滅の刃」
2020年12月29日付 Prothom Alo紙


(東京からモンズルル・ホク特派員)
「鬼滅の刃」という漫画が2016年の第一巻出版以来、日本で人気を博している。これまで既に21巻まで出版されていて、一つの筋に沿ったそれぞれ異なったエピソードとなっている。「鬼滅の刃」は約100年前の時代を舞台に、竈門炭次郎という1人の少年が鬼を滅ぼす冒険を描いた物語だ。鬼の集団が地上に来て人々を殺し始め、少年の家族全員も犠牲となった。たったひとりの妹の禰豆子だけがその攻撃の手から逃れることができたものの、鬼たちによって鬼にされてしまった。その後、少年は同じぐらいの年齢の仲間たちを集め、鬼討伐に取りかかる。妹を助けるための冒険を始めるのである。
「鬼滅の刃」の物語をごく短く紹介するとこのようになる。しかし、人気の漫画をもとにアニメ映画の共同製作に乗り出したとき、株式会社アニプレックスと東宝に、この映画がどれほどのヒット作になるかという見通しがあったわけではなかった。ところが映画は日本で公開されて2ヶ月も経たないうちに興行収入の全ての記録を破り、史上最高の売上高を記録したのだ。
このアニメ映画はしかし、漫画本との関連性を保って製作されたわけではない。「Mugen Train(無限列車編):The Movie」とタイトルのつけられたこの映画は、次々と鬼に襲われた列車の乗客たちを救い出す少年とその仲間の戦いが中心となっている。「Mugen」は日本語で「無限」を意味する。つまりこの映画では、無限の列車の旅の中、乗客たちが次々と鬼の手に落ちていくこと、そして鬼に対しての少年と仲間たちの様々な活躍が描かれている。漫画の原作者は吾峠呼世晴で、これ以前テレビシリーズとして放送されたこのアニメを、映画館の大スクリーンで上映するために新たに作り直す作業を担当したのは外崎春雄監督だ。
先週の日曜日(2020年12月27日)までにこの映画からの興行収入は324億7千万円(約3億1300万ドル)に達して、日本の興行収入の記録をすべて破った。これまでの興行収入記録の首位は、アニメ映画で国際的にも有名な宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」で、興行収入は316億8千万円だった。
「鬼滅の刃」が新たな記録を打ち立てようとしているという兆しが最初に感じられたのは、公開からわずか10日で興行収入が100億円を突破した時だった。日本の映画の歴史でこんな短期間で興行収入100億円を突破した映画は他にない。次いで11月30日には興行収入で2位だった「タイタニック」を超えた。そして今、公開されて2か月にも満たない短期間でトップの座に登りつめた。このスピードにも驚かされる。宮崎駿監督の映画は興行収入が300億円を超えるのに253日かかったが、「無限列車編」はわずか59日でその記録を更新した。
日本のアニメ映画ファンばかりでなく全ての映画ファンたちは、コロナウイルスの流行によって、さまざまな種類の規制が日本で行われているにもかかわらず、映画ファンたちの足を再び映画館に向けさせたというこの実態を、一つの驚くべき成功と捉えている。それだけでなく、コロナウイルスが理由で危機に瀕している日本の経済にとっても明るい話題となった。原作のコミックはこれまでに14の言語に翻訳され、33の国と地域で入手可能だ。一方、映画は幾つかの言語へのダビング作業が現在急ピッチで行われており、2021年の初めには英語版がアメリカで公開されることになっている。国外で最初に公開されたのは台湾だった。映画の配給会社とプロデューサーはアメリカの後、ヨーロッパ各国での公開を計画している。オンラインで話が伝わったために世界の多くの国の人々がすでにこの映画について知っており、その公開を待ちわびていることから、コロナ禍の今、この映画が日本の映画業界に大きな収益をもたらすだろうと多くの人が考えている。
「鬼滅の刃」がなぜこれほど人気となったのか、その複数の理由を現在の日本に見出すことができる。多くの人は、この物語の構造が、現在経験しなければならなくなっている人生と似ているためだ、と言う。コロナの脅威から逃れたいと願う人たちが、竈門炭次郎少年の冒険の中に自らの夢がかなうのを見出していて、そのために映画館にこれほどの観客が足を運んでいるのだと。
もちろんこうした説を全面的に否定はしないものの、一方的には受け入れがたいと考える人たちもいる。そうした人たちの多くは、映画の大ヒットの根底には原作となったコミックスがあると語る。映画が製作される随分前から「鬼滅の刃」の漫画シリーズは日本で人気となっており、今のコロナの時代に娯楽の機会が多く失われたことで、人々が映画館に再び足を向け始めたのだ。
さらに第3のグループの人々は、アニメ映画全般の人気を指摘する。手塚治虫から始まり、宮崎駿に至るまでの道をたどってきた日本のアニメ映画界で、「無限列車編」が興行収入の記録を破るようになった結果は予測された結果だ、というのだ。
しかし、それぞれの意見がどうであれ誰もがほぼ同意するのは、この映画が人々に希望について語っている、ということだ。その希望とは、障害がどんなに大きくても人間がそれを乗り越えていくのは可能、というものだ。そしてそこにこそ「無限列車編」の最も大きな成功を見出せるように思われる。断じて敗北を喫する前にあきらめてはならない、というメッセージを、竈門炭次郎という名のバーチャルの少年が今、日本の人々に伝えている。

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(翻訳者:藤原功樹、森田皆)
(記事ID:925)