対レバノン戦争とイラン(アル・ナハール紙)
2006年07月29日付 Al-Nahar 紙

■ サハル・ブアースィーリー「対レバノン戦争のプレイヤー(5)イラン」

2006年07月29日付アル=ナハール紙(レバノン)論説面

 イランはヒズブッラーとの強い結びつきゆえに、あるいは誰一人としてイスラエル軍兵士2名の拉致作戦がイランの奨励によって行われたのでもイランに祝福されているわけでもないとイスラエルおよびアメリカを納得させることが出来ないゆえに、今回の事態における中心的なプレイヤーとなった。イランはそのことに全く不快を覚えてはいない。

 それこそイランの望むところなのだ。今こそイランにとって、アラブ・イスラエル紛争における不可欠のプレイヤーとなりおおせ、同時に戦争を制御可能な範囲にとどめておくことによって、イランが中東地域における影響力拡大という企図において画期的な成果を実現するための理想的な機会なのである。

 だからと言って、ヒズブッラーがイランの道具であるとか、イランはいつでもヒズブッラーを見棄てる用意があるとかいった単純な結論になるわけではない。ヒズブッラーにはイランとは独自に、レバノン国内やアラブ世界における位置づけがある。レバノン南部の解放に果たした役割によって確立された民衆の支持がある。

 それでもイランにとってヒズブッラーはかなりの程度まで、地域レベルにおける企図を実現するための剣先となっている。イランは自らが地域の大国であることを世界に認めさせようと決意している。核開発問題をもって西洋に挑戦し、イラクの泥沼をもってアメリカに圧力をかけ、シリアに対する影響力は戦略的同盟関係によって強まっている。しかしイランにとってはっきりと分かっているのは、イスラエルとの紛争における真のプレイヤーになれば、イランの影響力拡大を恐れる西洋やアラブの各国がイランを中東地域において孤立させることはほぼ不可能になるということだ。おそらくそれゆえにマフムード・アフマディーネジャード大統領は就任以来の声明においてイスラエルを第一の標的としてきたのであり、イランはヒズブッラーを支援し、西洋諸国による包囲に対抗するためハマース政権を物理的に援助する最大の国になっているのだ。まして今や、ヒズブッラーのミサイルによってイスラエルの安全を脅かすことに成功しているのだ。そしてヒズブッラーはイスラーム抵抗運動をイスラエルとの対決に勝利するための模範たらしめる大いなる実績をもっているのだ。

 しかしイランはどの程度までの賭けと対決に踏み込む可能性があるだろうか?

 戦争開始以来のアフマディーネジャード大統領その他のイラン政府高官の発言は、ヒズブッラーとイスラエルの対決がレバノン国外に波及しないという条件のもとで継続してほしいという願望を物語っている。イランはヒズブッラーについてはそうしなかったがシリアについては、イスラエルが領内に侵攻すれば重大な結果を招くことになると威嚇した。イランはシリアが攻撃された場合には、本当にそのような対決をする用意があるのだろうか?そのような対決を望んでいるのだろうか?

 イランの対米政策はすべて、アメリカ側の痛いところを突くことで両国間の「大きな取り引き」における目的を達成しやすくするような柔軟な姿勢を引き出すという方法に基づいている。イランが今回の戦争でその原則を変更したと思わせるような要因は何もない。イランはアメリカが新しい軍事的冒険に乗り出すつもりはないということを知っているのだ。いや明らかにイランはこうした現状のなかで今回の戦争を最大限に利用して、全面対決ではなく交渉によってアメリカとの関係を有利なものにする可能性に賭けている。結局のところイランはプラグマティックな国家であって、自らの企図やすべての切り札を喪失するような戦いに突入したりはすまい。イランは核開発問題その他をめぐるアメリカとの対立において最大の切り札となるイラクというカードを押さえているのだ。

 戦況や外交努力による戦争の実際の展開がイランの賭けにどのような影響を及ぼすのか、テヘランは戦争から何を得て、また何を支払わねばならないのか、どのような結論を引き出してそれに基づく新しい政策を打ち出すのか、望みもしない政争に巻き込まれるのか、一部において計算を誤ることになるのか、そうした事柄はじきに明らかになるであろう。どのような結果が生まれるにせよ、それは中東地域に対して、またアメリカとイランがお互いを飼い馴らそうとして、また中東地域を飼い馴らそうとして繰り広げている競争の行方に対して、深い影響を及ぼすことになるだろう。



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( 翻訳者:森晋太郎 )
( 記事ID:3188 )