対レバノン戦争とシリア(アル・ナハール紙)
2006年08月01日付 Al-Nahar 紙

■ サハル・ブアースィーリー「対レバノン戦争のプレイヤー(6)シリア」

2006年08月01日付アル=ナハール紙(レバノン)論説面

 シリアは2005年4月26日まではレバノンにおける主要なプレイヤーであったが、現在は補欠席に座って、グラウンドに戻ってプレーを再開するよう国際社会から声がかかるのを待っている。シリアは今でも不可欠のプレイヤーだと思っているのだ。果たしてそうであろうか?

 イスラエルの対レバノン戦争開始以来シリアは、同盟勢力であるヒズブッラーに働きかけて事態を鎮静化する用意があることを西洋諸国に理解させるため可能なかぎりあらゆる合図を送ってきた。イスラエル軍兵士2名の拉致作戦に関与していないことを主張したうえで、アメリカと真剣な対話を行いたいとの願望を繰り返し表明した。

 またローマ国際会議が失敗に終わったのはイランと同様にシリアも招聘されなかったためだとの見方を示した。そしてシリア政府高官たちは(シリア政府は否定したのだが)、シリア政府はレバノン国内のアル・カーイダの拠点を特定するにあたって援助を行う用意があるといった類の誘いかけを行った。それに対して反応が得られれば、何らかの影響力をもってレバノンに復帰する余地が生まれるし、西洋とイランの間で何らかの役割を果たし、中東地域において何らかの地位を得る余地が生まれる。

 しかし今のところ、相手側の国々は聞く耳をもっていない。ブッシュ政権は少なくとも今のところは、そのようなつもりはなさそうである。対話について取り沙汰されるたびにアメリカ政府は「シリアは自らなすべきことを知っている」と回答している。アメリカ政府はシリア体制がテロを支援しイラクの武装勢力を援助していると非難している。そしてラフィーク・アル=ハリーリー元首相の暗殺後、レバノン駐留軍の撤退を強制すべくフランスとともにキャンペーンを展開し、暗殺に関する国際調査など数多くの圧力をかけつづけてきた。そうした圧力を解除して再びシリアを強力な存在にする理由は現時点ではないと考えているのである。

 フランスも従来どおりの路線を継続している。ロシアでさえ方針を変更することはなく、イスラエルの攻撃を受けてもロシア製のスカッド・ミサイルを使用することのないようシリアに要請している。

 いっぽう、国連はシリアとイランを解決策に参与させることを呼びかけている。アメリカでも複数の大物論客たちは、シリアを抜きにして解決策に到達することができるとは考えていない。それは先ず、国際社会は何らかの国際部隊をレバノンに展開させることを決定した場合、その部隊が1983年の多国籍部隊と同様に標的と化すことのないような政治的保証を最低限必要としているからである。それにシリアはイランがヒズブッラーおよびハマースに接触する際の中継点であり、したがってシリアとイランの繋がりを絶つことが出来ればイランの隔離は容易であり、それによっておそらくアメリカは、イラクにおいてある程度一息つくことが出来る。

 この選択肢はブッシュ政権内ではあまり人気がないようである。ブッシュ政権がやったことはせいぜい親米アラブ諸国に対して、シリアがヒズブッラーに反対の姿勢をとってイランに距離を置くように圧力をかけることを奨励したくらいである。

 このようにシリアを無視する国際社会の空気のなかで、イスラエルのみがシリアを解決策に参与させたいと望んでいる。そのことはイスラエルのメディアが伝える政府高官の発言や、イスラエル政府が今回の戦争においてシリアを標的としているわけではなくシリアと衝突するつもりはないとたびたび表明していることから見てとることができる。このような方向性はイスラエルにおいては目新しいものではない。それは、シリア体制が脅かされた場合に代わってイスラム主義勢力が台頭する可能性への不安に立脚するものである。

 中東地域における勢力の方程式のなかに再び地位を取り戻し、体制の安定をはかるすべを模索するシリアにとってイスラエルとの対決が選択肢ではないにせよ、アメリカの提示する条件をタダで受け入れるという選択もしないだろう。それではイランの力のみに賭けることで、シリアは自ら望むところに達することができるのだろうか?

 かつてはイランとシリアは対等のパートナーであった。しかし現在では、シリアは投機を狙うパートナーと言った方が近い。国際社会がイランと直接交渉をすることが出来るのであれば、このパートナーシップにおけるシリアの役割は縮小するであろう。そして国際社会は実際、イランと直接やりとりをしている。イランはレバノンにおける取り分を求めて動いている。大統領はレバノンやガザ地区で起こっていることを核開発問題と結びつけて論じている。外相はレバノンに訪れ、フランスの外相と会談を行った。フランスの外相はイランの役割の重要性を強調した。

 そうしたなかでシリアが期待する可能性は二つである。一つはイランを通じて獲得しうるものを獲得すること。もう一つは西洋諸国がシリアを頼ってシリアをプレイヤーの地位に復帰せしめ、シリアはイランとの繋がりを断つという可能性。そのためには西洋諸国や中東諸国の立場と、シリア・イラン関係そのものの両方にドラマティックな展開が発生することが必要である。



Tweet
シェア


現地の新聞はこちらから

 同じジャンルの記事を見る


( 翻訳者:森晋太郎 )
( 記事ID:3196 )