イリヤス・ホーリー寄稿:アメリカのグレート・ウォール!
2007年04月26日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ アメリカのグレート・ウォール!

2007年04月26日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)コラム欄

 4月10日夜、アメリカの第82空挺部隊がバグダード市内のアアザミーヤ地区を取り囲む、長さ5キロ、高さ3メートル半の壁を建設するため、最初のコンクリートブロックを設置し、壁を「グレート・ウォール」と命名した。壁の目的はシーア派が集住する地区の間に位置するスンナ派のアアザミーヤ地区を周囲から切り離し、シーア派とスンナ派の抗争を防ぐことにあるのだという。米軍はドゥーラ地区の周囲にも別の塀を建設しており、この居住区分離計画はアーミリーヤ、アーミル、アドゥル、さらにはサドル・シティーをも含むという。

 つまり、バグダードの治安計画が行き着く先は、都市を党派・宗派ごとに孤立した地区に解体することなのだ。そうすることでアメリカによる占領は、「イラクに民主主義を!」という目標を達成したことになるというわけだ。民主主義は国を引き裂き、屠ることによってのみ実現されるということか。イラクへの侵攻中にアメリカの指導者たちが明言していた通りに、イラクが石器時代に引き戻されることによって。

 最新のニュースでは、イラクのマーリキー首相がカイロで声明を出し、「他の壁を想起させるから」との理由でこの壁の建設を停止する命令を出すと発言したという。このばかげた行為への反対は、実際に効果を生むかもしれない。しかし壁の建設を止めたところで、アメリカによる侵攻がイラクを憎しみの壁に囲まれた地区の寄せ集めに変貌させてしまったという現実は変わらない。(中略)

 「アラブには自分達の状況に対処することが可能なはずだ。アラブの政治指導者たちがあんなゲームをしさえしなければ、事態はこんな恐ろしい宗派主義の奈落に陥らなかっただろう」と傍観者には言うことが出来る。だがこうした分析を利用すること自体、我々をいかなる分析からも免じてしまう。なぜならそれは、言論を果てしない嘆きに、思考を消えることのない罪悪感に変えてしまうからだ。現実には、流血の恐怖を前にしたとき個人は狂気に襲われる。これこそあの長いレバノン内戦の間、我々が経験したことだ。あの頃の我々には、分裂は果てしなく、狂気には終わりがないように思えたものだ。そうして国家機構が解体されたときにはいかなる国であれ、国内の矛盾や本能の目覚めを利用することが可能になるのだということに、思い至らなかった。そして今日、レバノン人はアラブ世界の情勢悪化の下で自分達の悲劇が再び繰り返されるのではと恐れている。なぜならレバノン人は知っているからだ。どこであれ、市民社会が免疫や結びつきを失った所では、国の解体が起きる可能性があるということを。

  イラクは今や、このスパイラルに入っている。「グレート・ウォール」はイスラエルが建設しているアパルトヘイト・ウォールの愚かな模倣に過ぎない。それどころか、神のみぞ知るといったところではあるが、アメリカは我々の経験に学ぶべきだというイスラエルからの助言を受けて壁の建設が始まったという説も囁かれている。イラクを分断し、イラクを混乱と破壊の地とし、トルコからイラン、シリアやサウジを経てイスラエルにまでいたる地域紛争の舞台にするために。そうすることで、イラク侵攻中に米軍の砲撃のリズムに合わせて踊った何人かの似非知識人たちが、今度は血の池の真ん中で、引き裂かれた国の屍の上でダンスが出来るというわけだ。

(後略)

* 筆者のイリヤス・ホーリーはレバノン内戦を経験した著名な作家・左派系知識人。

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( 翻訳者:山本薫 )
( 記事ID:10735 )