論説:安倍首相のエジプト訪問―新たな戦略的対話の段階へ
2007年05月04日付 Al-Ahram 紙

■ エジプトと日本、新たな戦略的対話の段階へ

2007年05月04日付アル・アハラーム紙(エジプト)HP論説欄

【アフマド・ユースフ・アル=カルイー本紙副編集長】

 中東歴訪中の日本の安部晋三首相は昨日、主要な訪問地としてカイロを選択し、両国の関係強化のためにムバーラク大統領との間で、共通の関心事である政治課題をめぐる戦略的対話を確立するための相互理解の覚書に調印した。

 この戦略的対話と相互理解の覚書(訳注:日本の外務省HPによれば「戦略的対話メカニズムに関するメモランダム」)は、中東のエジプトと極東の日本という両国間の距離にもかかわらず長年にわたって築かれてきた交流と友好、パートナーシップの上に実現されたものだ。

 両国間の交流は、エジプトが近代化に向けた目覚めの只中にあった19世紀初頭にまでさかのぼる。エジプトを近代化のモデルにしようと考えた日本は、1862年の竹内保徳使節団をはじめ複数の使節団をエジプトやヨーロッパに派遣し、エジプト近代化の主要な成果を視察した。日本の近代教育を支えた一人である福沢諭吉もまた、彼に先駆けること数十年前にヨーロッパに渡ったリファーア・タフターウィー(訳注:エジプトの近代化に大きな影響を与えた先駆的な知識人)に影響を受けたのである。

 ところがエジプトは1882年9月のタッル・カビールの戦い以降、イギリスの占領下に置かれることとなり、一方の日本は独立を維持し、1904年の日露戦争での勝利によって先進国としてのネーション・ビルディングに成功した。ここから両国の近代化経験には大きな開きが生じ始め、エジプトが占領への抵抗を継続し、パレスチナのアラブ性を守り、アラブ国家としての自らの責任を果たす道に邁進している間にも日本は、第二次世界大戦で枢軸国のひとつとして敗北を喫したにもかかわらず、経済的社会的な発展を確かなものとする躍進を続けた。

 こうした近代化経験の開きにもかかわらず、エジプトの政治経済思想は遠くから日本近代の歩みを注視し、20世紀初頭以来の成長と近代化と発展の経験を賞賛してきた。エジプトの思想家や知識人は様々な本や雑誌、新聞に(日本に対する)驚嘆の念を書き記してきたが、当時のエジプトと日本の外交関係は周辺的なものにすぎなかった。1936年に公使館が開設され、その後54年に大使館に昇格された両国の外交関係は、1967年のイスラエルによるエジプト攻撃(訳注:第3次中東戦争)後に続いたスエズ運河封鎖や、十月戦争(訳注:第4次中東戦争)を経たエジプトの経済開放ブームといった折々に浮上する程度であった。

 その後エジプトは日本との二国間関係を活性化することに特別の関心を示すようになり、ムバーラク大統領が1983年に第一回目となる日本訪問を果たすと、その後95年と99年にも訪日して緊密な政治的、経済的、文化的交流網を新たにした。これらの訪問によって両国の関係は、当時のムバーラク大統領の言を借りれば「両国の利益を同時に実現するパートナーシップ」へと発展した。それ以来、カイロと東京の関係が緊密さを増した当然の帰結として、昨日の日本首相のエジプト訪問において先に指摘した戦略的対話のための覚書への調印が実現したのである。

 その対話は二国間の政治的、経済的、文化的関係強化に留まらず、エジプトと日本との共通の利益を妨げるばかりか、現在の国際秩序をも崩壊させかねない、前例のない変化や進展に見舞われつつある国際社会での共通の利益の実現にまで及ぶものである。

 そうした共通の関心事の筆頭にはたとえば、エジプトと日本が1994年以来、ドイツ、イタリア、カナダ、ブラジル、インドネシア、インド、ナイジェリアの各国と共に、国連安保理の常任理事国入りに名乗りを上げた9カ国に加わっているということが挙げられる。またエジプトと日本は早くから国連改革に向けて一致した立場をとっており、G8が国際問題を独占的に動かそうとしている現在の国際秩序の改編に向けた国際協調への働きかけにおいても同様である。つまり、エジプトと日本は国際関係における民主主義実現の重要性について合意しており、その実現のためにはなるべく早く安保理改革を行って、安保理の構成国を地理的に平等に配分することが必要だと考えているのだ。

 中東情勢についてもカイロと東京との間に合意点や相互理解点があることは見逃せない。中でも重要なのは、中東和平の停滞を打ち破って恒久的で公正な和平を実現するための両国の働きかけであり、核不拡散体制の強化であり、イランの核開発から生じた現在の緊張の緩和であり、イラクで紛糾する事態の沈静化である。イラクにおける流血の事態の停止と宗派間抗争の防止、包括的な国民和解の実現、同盟軍撤退に向けた環境整備などを話し合うシャルム・シェイフでの会議に今日、日本が参加していることがそのなによりの証拠だ。

 またこれらの大きな出来事がエジプトと日本の相互理解と戦略的対話の行動計画を構成しているいることは、日本の首相が本紙に寄せた以下の談話からも明らかである:「7000年にわたるその歴史と、政治、経済、文化等、多くの分野におけるその先駆的立場に鑑みれば、エジプトが地域の大国であることは当然であり、エジプト抜きには地域の平和も繁栄も語れない」。

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( 翻訳者:南・西アジア地域言語論(アラブメディア翻訳) )
( 記事ID:10849 )