論説:ファタハ・アル=イスラームをめぐる謎
2007年06月02日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ ファタハ・アル=イスラーム、アル=カーイダとファタハの狭間で
■ シリアによる支援という謎

2007年06月02日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP国際面

【ロンドン:本紙アフマド・アル=ミスリー記者】

 ナハル・アル=バーリド・パレスチナ難民キャンプに集結したイスラーム主義戦闘集団とレバノン国軍の間で小火器を用いた衝突が続いている現在、ファタハ・アル=イスラームというその集団がもたらした危機は、地理的に見れば、レバノン北部の小さな地点に限定されている。しかしレバノン内外に溢れかえる疑惑や推測の数々は、この集団の正体とその目標や背後関係に関し、いくつかの可能性を指し示している。

 この組織の登場は、ファタハ・アル=イスラームの名を掲げた声明が発表されたおよそ一年前にさかのぼる。その声明で同組織は、「イスラーム主義的立場からパレスチナ解放をめざすジハード」を基礎とした運動の全体的な枠組みを説明し、「腐敗した世俗主義」だとして彼らが批判する他のパレスチナ諸派の旧来の思想に対抗するものとして、そのイスラーム主義的立場を打ち出そうとした。

 アメリカ政府はこの組織とアル=カーイダのつながりを確信しており、同組織がアル=カーイダと同じレトリックやスローガン、過激組織の声明や録音テープを放映することで知られるインターネットサイトを使って声明を流すといった広報手段を用いていることが、その疑惑を強めている。また時を同じくして南レバノンに展開中の国際部隊の元司令官から、アル=カーイダが同部隊を攻撃対象とする可能性があるとの警告も出ていた。

 観測筋は二つの可能性があると見ている。一つはファタハ・アル=イスラームはシリア政権の利益のためにレバノンで活動しているとするもので、もう一つは信条的に、あるいは組織上でもアル=カーイダと結びついているとするものだ。しかし世俗主義体制をとる国家の諜報機関のために働いているような戦闘員達が、今回の衝突中に見られたような自爆という手段をとるに至るほどの原理主義的傾倒を見せるなどということがありえるだろうか。5月28日付のニューヨーク・タイムズ紙は、インタビューを豊富に載せた特集記事の中で、数年前から世界中の武装勢力を惹きつけてきたイラクでの戦争が、彼らを近隣諸国、あるいはより遠い国々にまで輸出し始めたと論じている。その記事によれば、戦闘員の中にはイラクからの避難民の波に紛れ込んだ者もいれば、特定の任務遂行のためにイラクから派遣される者もいるという。その一例として同紙はヨルダンのクイーン・アリヤ空港での自爆計画を挙げ、ヨルダン当局がこの計画を事前に察知し、自白も得ていたと報じた。また同紙はレバノン治安部隊のアシュラフ・リーフィー本部長による「自分達はイラク国外への戦闘拡大の可能性とは無縁だと思っている国は、現実から目を背けている」との発言を引用している。

 同紙はさらにリーフィー本部長の発言として、「ファタハ・アル=イスラームの中にはイラクから来た50人の戦闘員が含まれる」とも伝え、さらにロンドン在住のサウジアラビア人反体制活動家、ムハンマド・アル=ミスアリー氏による「現在レバノンには50人の戦闘員がいるが、おそらく他にも5000人、あるいはそれ以上が行動に移る時を待っていると言える」との発言も掲載した。

 同紙はまたファタハ・アル=イスラームの指導者、シャーキル・アル=アブスィーが今月になって、武装勢力と合流するために国境を越えてイラクに入国しようとした義理の兄がシリア軍によって殺されたと発言していたことも報じている。

 当初の推計では同組織の人員は150人を越えないと見られていたが、トリポリ郡という比較的広範囲での作戦行動能力から見て、彼らの数は推測されているよりも相当多いか、あるいは2000年にレバノン国軍と流血の戦闘を行ったことのあるレバノン国内の過激派諸組織のネットワークから支援を受けている可能性がある。

 様々なレポートがこの集団がファタハ・アル=インティファーダという組織から分かれて出来たと記している。ファタハ・アル=インティファーダはシリア政権に近く、彼らもまたシリア政府とPLOの争いを背景に1980年代中ごろファタハから分裂した組織だ。ファタハ・アル=イスラームの分裂を指揮したシャーキル・アル=アブスィーは、ファタハの元メンバーで、70年代にファタハは彼をリビアに送って飛行機の操縦訓練を受けさせている。その後シャーキル・アル=アブスィーは2002年になってヨルダンに姿を現し、アメリカ人外交官ロレンス・フォーリー暗殺事件に関与したとして不在のまま死刑判決を受けた。彼とこの事件の他の容疑者たち、中でも「イラクのアル=カーイダ」の元リーダー、アブームスアブ・アル=ザルカーウィーとの正確なつながりは不明だ。

 シャーキル・アル=アブスィーはその後ダマスカスに現れ、2002年、イスラエルの複数の目標を攻撃するためヨルダンに武器を持ち込もうとした容疑で禁固刑の判決を受けた。しかしわずか2年で釈放された彼は、西ベカー高原側のシリア国境沿いに位置するレバノンのヘルワという町にあったファタハ・アル=インティファーダの拠点に突如、姿を現した。そこでレバノン国軍の兵士らと衝突した彼は何名かの支持者を連れてその拠点を後にし、レバノン北部のパレスチナ難民キャンプ、中でもバッダーウィーとナハル・アル=バーリドの二つのキャンプに腰を据えた。その際彼はファタハ・アル=インティファーダが所有する「サーミド」という組織の建物を自身の拠点としたが、ファタハ・アル=インティファーダ側は彼が力ずくでその建物を占拠したのだと後に主張している。

 今年2月13日に起きたアイン・アラクでのバス2台の爆破への関与が疑われたことで、ファタハ・アル=イスラームの名はにわかに知られるようになった。3人が死亡し多数の負傷者を出したこの事件で数名の容疑者が拘束されたが、レバノンのハサン・アル=サバア内相は「ファタハ・アル=イスラームだのファタハ・アル=インティファーダだのと呼ばれる組織の背後にいるのが誰なのかは誰でも知っている。これらの組織はシリア諜報機関の一部だ」と述べて、シリア諜報機関が組織を支援しているとの疑いを明言していた。一方シリアは彼らをアル=カーイダに所属する集団だとしてこの嫌疑をきっぱりと否定、シリアのバッサーム・アブドゥルマジード内相は、「ファタハ・アル=イスラームはアル=カーイダの一組織で、シリアでのテロを計画している」と発言した。

 アイン・アラク事件の捜査によって、少なくとも4人のシリア人と3人のサウジアラビア人が浮かび上がり、彼らがベイルート国際空港で拘束されたとの噂が飛び交った。そのうちの一人、アブドゥッラー・ビーシーはサウジアラビアで指名手配を受けている人物で、イランを経てシリアからレバノンに入国したと言われている。

 ところがその後治安筋が掴んだ情報によると、このサウジアラビア人たちは罠にはめられたらしい。彼らはイラク行きを希望しており、現にイラクに向かっていると思い込まされていたのだが、組織がレバノン国内での作戦を望んでいると知り、出国しようとしたところをベイルート空港でレバノン治安部隊に足止めされたというのである。

 その後ファタハ・アル=イスラームは過激派サイトの一つに声明を載せ、米軍と戦うためにイラクに密入国しようとしたメンバー4人をシリア軍が今月11日に殺害したと発表した。レバノンの反対派勢力(訳注:親シリア派)はこれをもってシリア政府が組織を支援していないとする証拠だとみなしたが、今のところシリア当局はこの声明にコメントしていない。

 アル=カーイダからも、モロッコの過激派組織の時のように、自身とファタハ・アル=イスラームのつながりを確認するような声明は出されていない。ファタハ・アル=イスラームの側も実際にアル=カーイダに従っているのかどうかに言及することを避けてきた。そのこともあってファタハ・アル=イスラームと他の過激派諸組織とのつながりといった情報はレバノンの治安機関から漏れ聞こえてくるものに留まっている。レバノン治安機関はまた、イラクでの元戦闘員がファタハ・アル=イスラームに加わっているとほのめかしている。

 いくつかのパレスチナ難民キャンプには他の過激派組織の展開も見られ、これまでにも何度かレバノン国軍やファタハと衝突している。その最たるものがレバノン南部の都市サイダに近いアイン・ヘルワ難民キャンプに拠点を置くジュンド・アル=シャーム(シリア地方の兵士)という組織だ。ジュンド・アル=シャームはファタハ・アル=イスラームと統一行動をとる合意を締結したと噂されている。

 だがパレスチナ難民キャンプ内で最も存在感を見せている過激派組織といえば、ウスバ・アル=アンサール(預言者を支持する者たちの連盟)だ。アブドゥルカリーム・アル=サアディー、通称アブーミフジャンに率いられたこの組織は、PLOに加わる従来のパレスチナ諸組織およびハマースやイスラーム聖戦といった枠組みの外にあり、アイン・ヘルワでの存在を確立するためにパレスチナの最大党派であるファタハに対し、激しい戦闘を仕掛けてきた。多くのレポートがこの組織と「イラクのアル=カーイダ」との結びつきを指摘している。特にザルカーウィーが率いていた時代には、イラクのアル=カーイダへのレバノン人やパレスチナ人戦闘員の補給をアサバ・アル=アンサールが担っていた。

 シャーキル・アル=アブスィーをさっさと釈放し、過激派メンバーたちと共にレバノンに向けて国境を越えさせたシリア治安当局の役割にレバノン政府がこだわる一方で、反対派勢力(新シリア勢力)はシーア派武装勢力に対抗しようとするスンナ派の過激化現象に目をつぶっているとレバノン政府を非難する。その狭間に立たされてレバノンの国内治安が最大のツケを払わされている。

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( 翻訳者:南・西アジア地域言語論(アラブメディア翻訳) )
( 記事ID:11087 )