コラム:米・イラン関係とアラブ諸国の立場
2007年08月08日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ イランの過激派に対抗させるため、アラブの穏健派を武装させよ!

2007年08月08日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP論説面

【イサーム・ナアマーン博士】

アメリカ的見方によればアラブ人とは2種類いる。穏健派と過激派である。前者が多数派で後者が少数派。多数派は、エジプト、ヨルダン、PAパレスチナ(ファタハ・アッバース派)、サウジを始めとする湾岸諸国、その他の東アラブやマグレブ諸国。少数派とはアル=カーイダやヒズブッラー、シリアなど。イランは、イスラエルに敵対し核兵器を保有しようとしているから、民族的にアラブではなくても少数派の過激派である。

アメリカ式分類による穏健派と過激派は、民族ではなく国単位で分けられる。ブッシュ政権は、自分達が、民族を問わず穏健派からも過激派からも憎まれ敵視されていることをよく知っているが、穏健派アラブ諸国は、自国の治安を脅かすのはイスラエルではなくイランだと理解したと考えている。理解しない国には、政治的、軍事的手段で納得させる。

政治的手段として(合衆国は)、イスラエルを説得して、アッバース政府への態度を軟化させ、近い将来パレスチナ国家が陽の目を見る可能性をほのめかし、限られた範囲であれ譲歩させた。またサウジには、来る秋の和平会議でアラブ和平を検討させることとした。

軍事面では湾岸諸国に、域内の治安はアメリカにかかっているという事を納得させようとしている。そのためブッシュ政権は、サウジに対し、200億ドルという安値で、今後20年間、最新の軍事技術と兵器を供給する協定を結ぼうとしている。

これには米議会の承認が必要であり、民主党の多数は武装政策に反対しているのだが、問題ではない。どちらにせよブッシュ政権は、議会との不和を終結させ、兵器工場が必要な兵器を作り出すまでの間も、穏健派の国々に出資させて域内に空軍や戦艦を配備できるので。ブッシュ政権が直面している問題は、そのアラブ穏健諸国が、イランに怯えて武装するのを懸念しているという事である。それらの国々は、長期的に見て、イランとの関係が緊張し、そのためイランを、無関係な闘争を行っている他の過激諸国の方へ向かわせてしまうことを恐れている。

一方、イラン側は、穏健諸国をその字句通りに遇している。アメリカとサウジの巨額の武器取引に際しても、モスタファー・モハンマド・ナッジャール・イラン国防相は、兄弟であり友好国であるイスラム国家が防衛力を強化するのは、イスラム世界の防衛力が増強するという事であり、何ら不安を抱いていないと述べた程である。また、アフマディーネジャード大統領も、湾岸諸国の武装は自衛のためでありイランへの攻撃を意味しないと述べている。あたかもテヘランは、アラブ、そしてムスリムにこう言っているかのようである。「好きなだけアメリカから武器を受け取れ、それらが我々に対して使用されない事は分かっている。いつの日かあなた方も、我々のように納得して、その向かう先はイスラエルだと思うようになるだろう。」

アメリカもまた、湾岸諸国がイランに武器を向けないことを知っている。では何故武装させるのか。第一次的な動機は経済的なものだろう。アフガニスタン、イラクでのブッシュの冒険的戦争により逼迫した米経済には回復策が必要である。実際的な手段としてはこうである。兵器工場を10年単位で稼動させ高価な兵器を生産する。核武装しようとしている過激なイランというイメージで、穏健派アラブ諸国を脅し、それらの武器を買い取らせる。穏健派諸国の敵をアル=カーイダと想定してしまうと、この隠れた何千という細胞が分散する亡霊に立ち向かうのに大げさな武器は使えないという事になる。

しかし、どちらにせよアメリカは、ブッシュの時代、あるいはそれ以後でも、核プログラムに対する経済制裁が失敗したらイランを叩くのではないか。その場合、穏健派アラブ諸国は戦争に巻き込まれざるを得ないだろう。

イラン国防相と大統領の上述の発言は、イラン側の政治経済、軍事的見解を示している。それは、湾岸諸国がアメリカの敵対的戦争の道具となることを避けている限り、イランは彼らを侵害しないというものである。イランのミサイル能力は、ホルムズ海峡を封鎖し石油パイプラインを切断するのみならず、地域での石油生産輸送を停止させるに足ると思われる。

つまり、イランは、アメリカとイスラエルが大規模な対イラン戦争を起こした場合、イスラエルを攻撃するという威嚇により、自国とその同盟者、特にシリアとヒズブッラーを守れる実用的な抑止力を有している。これは主に、イランが敵対行動を止めさせるに充分な対抗能力を持っていると、敵側に知らせる事によって機能する。イランは恐らく、シリアとヒズブッラーとの連携により、イスラエル、並びに各地の米軍基地、特にイラクのものに多大なダメージを与え得る軍事技術を持つ。それを控えているのは、アメリカが、アラブ・イスラム諸国における石油利権のために、それらの国々が敵側につかない限り侵害しない事にしているためである。

しかし、イランの抑止力には条件が付く。一つは、それが攻撃用ミサイルの能力にかかっているという点であり、アメリカの攻撃からそれを守りきらなければ実際的な反撃ができない。もう一つは、この抑止力の存在をアメリカ側が知っているという点である。彼らは、イランの同盟者達がどのように反撃に備えているか、彼らがイスラエルと米軍に与えることのできるダメージの規模も予測している。これらの現状を前に、穏健なアラブはどうするのだろうか。

Tweet
シェア


現地の新聞はこちら

 同じジャンルの記事を見る


( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:11611 )