論説:イスラエルの新たな敵-国産ネオナチ集団摘発の衝撃
2007年09月23日付 Al-Ahram 紙

■イスラエルの新たな敵…その国籍はイスラエル、宗教はユダヤ教

2007年09月23日付アル・アハラーム紙(エジプト)特派員報告

【シャリーフ・アル=ガムリー記者】

 ヒトラーのスローガンを掲げ、彼の誕生日を祝うような集団がユダヤ人の中から登場し、国内を震撼させたユダヤ人襲撃事件を起こすなどということは、イスラエル人にとってまったく予期せぬ事態だった。イスラエル建国のリーダーたちは、犠牲者600万人とも言われるヒトラーによる虐殺からの救済として、国家建設を唱えたのではなかったか。

 彼らネオナチは様々な種類のイスラエル人、とりわけ敬虔なユダヤ信徒や麻薬常習者、同性愛者を標的とし、さらには労働者までをも襲撃していた。イスラエル警察は彼らが殺害計画を有していたことを明らかにし、刃物や爆発物、ナチ党の制服、ヒトラーの写真などを押収した。

 国内ナチ組織の存在は一年前、テルアビブ近郊でシナゴーグの壁にナチズムのシンボルであるカギ十字が描かれているのを警察が発見したことで露見し、今回逮捕されたメンバーへの捜査が続けられていた。

 このネオナチ集団のメンバーは、両親か祖父母のいずれかがユダヤ人である者にイスラエル国籍を与えるという「帰還法」という法律に則って旧ソ連邦からイスラエルに移住した家庭の出身者ばかりだった。〔ユダヤ人を母とする者あるいはユダヤ教への改宗者をユダヤ人とするという〕厳密な宗教的原則からすれば旧ソ連からの移民の多くがユダヤ人であるとは認められない。それにもかかわらずイスラエルへの移民が許可されたことで、彼らは他のイスラエル人との比較によって人種差別的な扱いを受けてきた。

 事情通の指摘によれば、ユダヤ国家への宣戦布告を目的とした組織がイスラエル国内から生まれたという現象の理由の一つに、建国当初には知識人や科学者といった優秀な人材を西および東ヨーロッパから引き寄せることを目指していたイスラエルが、その後は身元の精査をすることなくどんなユダヤ人にも門戸を開くようになったことが挙げられるという。過激派だろうが暴力主義者だろうが、自国での失敗者であろうがお構いなしになっていったのである。そのため移民の群れの中にユダヤ教という宗教とは無縁の人々が紛れ込むことも容易だった。たとえ「ユダヤ人」ではあったとしても、ユダヤ教の価値観や法や制度にはまったくとらわれない人々である。

 こうした現象が顕著だったのが、旧ソ連邦から移住した100万人以上の「ユダヤ人」家族の子弟だった。彼らは1990年代、移民受け入れ法によってイスラエルに流れ込んだが、そのうち30万人はイスラエル国籍ではあるものの、父ではなく母をユダヤ人に持つ者をユダヤ人とみなすという宗教的な原則からすれば「ユダヤ人」とは認められない人々だった。

 英タイムズ紙はこのネオナチ集団のリーダー、エリ・ボワニトフ(19歳)の母親の談話を報じたが、その中で母親は息子の立場を擁護して「イスラエルで組織的な人種差別に苦しんでいるロシア移民をイスラエル当局はなんら助けようとしてこなかった。息子はその一例だ」と語ったが、息子とナチズムの関係については否定し、自分の家族はナチの統治下で大いに苦しんだと断言した。

 しかしタイムズ紙は、リーダーのボワニトフが世界中のネオナチ組織と定期的な接触があったことは間違いないと述べている。ボワニトフとのその仲間はナチのスローガンを体に刺青していた。

 捜査を担当したイスラエルの捜査官は、グループの攻撃能力は脅威を感じさせるに十分なレベルにあり、ネオナチ組織のメンバーがこれほど大量に逮捕されるのは初めてだと語った。
(中略)

 パレスチナの土地を奪い、ユダヤ人にもユダヤ教という宗教にもなんら敵意を抱いていなかったパレスチナ人を集団虐殺したイスラエル人に、ヒトラーがユダヤ人に犯した行為を神聖視する“敵”が彼ら自身とその宗教の内部から現れた。人種差別に苦しめられ、様々な苦難や人権侵害にさらされてきたことが、旧ソ連からの「ユダヤ」移民の中にユダヤ史上最大の敵であったはずのナチスを模した組織を生んだのである。

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( 翻訳者:山本薫 )
( 記事ID:12006 )