特別レポート:現代乞食事情~テヘランの乞食たちの実態~
2008年01月01日付 Jam-e Jam 紙
絵:アリーレザー・キャリーミー=モガッダム
絵:アリーレザー・キャリーミー=モガッダム

【ベフナーズ・モハンマディー】車椅子に乗った男性と、それを押す女性。女性の背中にはやせこけた子供がおんぶされている。男性は笛を吹いている。時に歌を歌うこともある。男性の前に置かれた鉄製のお椀の中に、硬貨がチャリンと入れられる。この音を聞いて、男性は仕事が始まったことを知る。

 紙を見せながら、歩道の脇に座る。紙に書かれた字は、やっと判読できるほどきたない。「わたしはびょおきです」。男性は正しい読み書きができないようだ。病気にかかっているが、病院に医療費を支払うお金がない、だから治療を受けるためのお金が必要だ、ということのようだ。男性の顔をきちんと見ることができない。男性は羞恥心からか、頭を下げて顔を隠しているからだ。彼はこのような策略で、自分が自尊心を持った人間であること、致し方なく物乞いをする境遇に身をやつしていることを、あなた方にアピールしようとしているのである。

 ある男性はバスに乗り、女性専用部分に顔を向けて、自分の境遇を滔々と語り始める。女性の方が簡単にお金をくれることを知っているのだ。また別の男性は、道端にたたずみ、バスの切符代を無心している。恵んでくれたら国に帰ることができると訴える。さて次の日、同じ停留所でバスを待つとしよう。同じ男性にまた会えるはずだ。彼は前の日と同じように、「国に帰るため」のお金を集めているのである。


 テヘランの通りの中でも最も混雑した通りの一つ、ヴァリー・アスル通りの歩道にはその他の通りの歩道とは根本的に異なる点がある。それは、数メートルごとに物乞いの姿を見かけることができることだ。彼らは互いにそれほど離れることなく道端に座り、自らの縄張りで「商い」にいそしんでいる。

 彼らは仮想のお店を思い思いの方法で開き、通りを行き交う歩行者にひがな一日お金をせびっている。誰も他人の「土地」を侵害し、特定の物乞い専用の場所で「客」を取ることはできない。恐らくこれは、通りを自らの商いの場所として占有している物乞い同士の間の、いわば不文律のようなものなのだろう。

 物乞いたちは立派な商店主のように、毎朝仮想店舗のシャッターを上げ、日没まで商いをする。もちろん、お昼近くになるとめざとく、食料品店――運のよいことに、この通りには食料品店の数は少なくない――の付近へと移動し、店の買い物客や歩行者らの憐れみを刺激して、可能ならば食べ物を恵んでくれないかと乞う者もいる。

 乞食:その現代的手法

 乞食についての最も一般的なイメージとはどんなものだろうか。古びてボロボロになった服を着た男女。何ヶ月も水にも石けんにも触れていないかのように悪臭を放ち、黒く汚れた手を歩行者に差し出す姿だろうか。ボサボサの髪をし、顔はすすけ、ブカブカの服を着た子供の姿だろうか。いやいや、そんな姿はもはや時代遅れというものだ。今日、われわれが住む都会の乞食は、かつてのやり方で物乞いなどしないのである。

 科学と技術革新のこのご時世、全ては変転を続けている。先ほどの旧態依然たるイメージも、そろそろ変えてもいい頃だろう。

 今日、われわれが住む都会の乞食たちは、スマートな服を着た仮想の旅を続ける旅人だ。彼らは千夜一夜物語よろしく、多種多様な理由を付けては道端にたたずみ、あなた方の援助で「旅の目的地」に赴こうとしている。わずかなお金を懇願するために、憐れみを誘うような外見、不潔でだらしのない恰好などしない者も少なくない。彼らはむしろ、テヘラン北部のハイソな通りの片隅で、声を発することもなくただ漫然とたたずんでいるだけである。彼らは憐憫を誘うことばで、あなた方の博愛的な感情をくすぐるようなことはしない。ただ凝視して、あなた方に助けを呼びかけるだけだ。

 もし手をポケットに入れて紙幣をあげたとしても、彼らは様々な祈願のことばをかけてくれる代わりに、丁重にお礼を言うだけだ。

 〔富裕層が住む〕テヘラン北部の乞食たちは、このような感じなのだ。紙の上に不治の病に冒されているなどと書いたり、顔の垢や動かなくなった体の部位を見せたりすることは、彼らにとってもはやムダな作業、時間の浪費でしかない。もしかしたら、こんなことをしても効果がないと考えているのかもしれない。

 物乞いのやり方として、われわれが住む都会において最も基本的で、恐らく最も多いのが、「体に障害のある」物乞いたちであろう。この種の乞食たちは、体の不自由さを利用して、通常は客の注意を引くために障害のある体の部位を衆目に晒して、物乞いをする。足が不自由だ、手に障害がある、目が見えない、あるいはあまり見えない等々。時にやけどをし、〔手術で?〕裂けた痕のある腹部の皮膚を見せることもある。これらは物乞いという職業にとって、クリティカルな役割を果たしている。

 彼らは完全なプロとして、夏の暑さや冬の寒さの中で、神の恵みを活用している。もちろん、四肢が健全な彼らは、狡猾な策略を用いて、体の一部をうまく隠そうと努力している。こういった乞食たちに対抗するための最もよい方法は、彼らが障害を負っているとする体の部位を見ないことである。これは、心優しい人々にとって特に、真剣に耳を傾けるべき忠言である。

 「レンタル」な乞食たち

 勘違いしてはならない。この種の乞食たちは、あなた方からお金を借りるのではない。そうではなく、彼ら自身が「レンタル」なのである。こう言うと驚かれるかもしれないが、しかし真実なのである。この種の乞食たちは、女性の特権的能力にのみ頼って物乞いをしている。彼女たちは、チャードルで子供をおぶったり、自らの前に座らせたりして、子供を引き連れ、頭からすっぽりとチャードルをかぶって物乞いをする。

 しかし騙されてはならない。この無垢なる子供たちは、実はこの女性たちの子供ではないのだ。これらの子供たちは、乞食たちの「親分」が提供したものなのである。子供たちは代わる代わる、乞食の女性たちの手をわたる。7日間で7人の別の母親をもつことだってあり得るのだ。

 どうしても指摘しなければならないのは、大きくなった子供たちも実の母親と同様に、プロの乞食だということである。例えば、あなたが食べ物をもっていて、子供たちがあなたの口を罪もなく眺めているのを見て、自分の食べ物を子供たちに分け与えようとしたとしよう。しかし請け合うが、そんなことをしても、子供たちはあなためがけて食べ物を投げ返してくるだけだ。もちろん、子供たちに罪はない。現ナマしか知らない子供時代を過ごしてきたのだから。

 物乞いにもいろいろな形態とやり方がある。全体的にいって、物乞いたちは社会の進歩や知性、個人としての可能性から取り残されてきた人々ではない。むしろ彼らは知的能力があり、この能力を活かして収入を簡単に手に入れる方法として、物乞いを選択しているのである。

 物乞いで最大の利潤を得るための組織

 時代の経過とともに、かつての限られた範囲で活動していた乞食たちは、同じ活動分野で安定した地位を築き、盲目・病身のプロの乞食として地域に生き残ってきたが、その一方で新参の乞食たちは新たな手法を追求している。

 そこでは物乞いは複雑なシステムを獲得している。〔人々の憐憫の情に〕つけ込む大規模なネットワークが作られ、様々な年代の人を雇い入れ、ネットワークの組織化と指導によって、巨額な利益が貪られているのだ。

 物乞い稼業の根っこの部分を調査し、物乞いたちの集会場所・生息地を突き止めるならば、われわれはこのマフィアのような組織の存在にたどり着くだろう。貧困のために利己的な利潤追求者たちの手先と化したスラム街の住民たち。幼い頃から寒さや暑さの中で、憐れみの情を刺激する姿で――そこでは肉体的な障害が強調される――、何とかお金を手に入れようとかけずり回る子供たち。彼らがこの種の物乞いたちを構成している。

 この種の子供たちはあなた方にずっとつきまとい、袖を引き、懇願する。それでもだめなら、暴力的な雇い主から助けると思って何かくれと迫り、人間としての情に訴えかけてこようとするのだ。

 飛行機を使ってテヘランにやってくる乞食たち

 テヘラン市で行われた物乞い一斉摘発で摘発された物乞いたちに対する調査の結果、物乞いたちのうちテヘランの人間は23%に過ぎず、75%以上が他州から首都にやってきた者たちであったことが判明した。もちろん、物乞いやホームレスを繰り返している人々の多くも、この中に含まれている模様だ。

 福祉庁の責任者の一人が物乞いたちの活動について明かした興味深い事実によると、摘発された物乞いたちの中には、週に一度地方とテヘランを飛行機で行き来し、物乞い稼業にいそしんでいた者すらいたとのことである。

 またある当局者によると、物乞いたちの収入はホワイトカラー労働者よりも多いとのことである。物乞いたちが高収入を得ていることが、社会の一部の人々を物乞いへと促している要因であると考えられる。なぜなら、物乞いから得られる収入は、社会で活躍する労働者の平均収入よりも格段に高いからである。

 この当局者は次のように強調している。「物乞い対策計画の実施や、福祉庁やイマーム・ホメイニー救済委員会といった関連機関による実際の貧困層に対する支援に加え、市民の協力も必要だ。というのも、市民が市内で物乞いたちに施しをする限り、詐欺師たちは人々の情を悪用して物乞い稼業をやめようとしないからだ。それゆえ、この問題をコントロールする最もよい方法は、市民が市内にいる物乞いたちに施しを決してしないこと、そして貧困層への支援は関係機関に委ねること、である」。

〔後略〕

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( 翻訳者:斉藤正道 )
( 記事ID:12854 )