コラム:欧州のイスラム教コミュニティに対する圧力
2008年02月20日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ イスラム教信徒らに対し、高まる扇動

2008年02月20日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】

この数日、イスラム世界とその信徒らは、欧州メディアによって先例が無いほどかき乱され扇動されている。表現の自由という名の偽りの口実の元に扇動は行われるのだが、結果は双方の過激主義者の利益となるのみである。欧州のほとんどの国に行渡っているこの扇動キャンペーンの指標は以下の点に要約される。

1:四大主要紙を含む17のデンマーク紙が、預言者の悪意ある戯画を再掲しようとしている。イスラム教徒の若者三名により殺すと脅迫されたその画家に対し、連帯の意を表すためとの理由である。

2:英国国教会の長ローワン・ウィリアムズ大主教による講演後、大多数の英紙はイスラムとシャリーア(イスラム法)を激しく攻撃した。大主教が同講演で、シャリーアに則した個人の地位、結婚、離婚、相続などに関わる幾つかの法には、ユダヤ教やキリスト教の法同様、将来的に英国の法制度に取り入れるべく学ぶ点があると述べたためである。

3:欧州の極右政党は、現在広まっているイスラム嫌悪症的ムードを利用し、イスラム教を標的にし、その信徒をテロリスト扱いする選挙戦略を構築している。より寛容で共存を奨励してきた、そして小さいながらもイスラムコミュニティが根付いているオランダでは、右翼議員ガート・ワイルダーが台頭している。彼は、聖典コーランを禁じ、モスクの建設を止めさせ、イスラム教徒を放逐し、あるいは彼らの国籍を剥奪するよう求めている。その上、イスラムの真実は欧米文明に対する脅威の源であると主張する映画を製作し、その放映について四つのテレビ局と交渉中である。

4:数ヶ月前のスイスの総選挙では富豪のクリストフ・ブロッハー氏率いる国民党が勝利した。彼の選挙キャンペーンが、スイス全土のモスクにミナレット建設を禁じるよう憲法を変えたという業績の上に成り立っていたのが勝因と言われる。そして先月、欧州の15右翼政党の幹部がベルギーのアントワープで会合を持ち、西ヨーロッパのイスラム化に反対するとして誓約を発表した。その中で、イスラム過激派の拠点となったモスクは600を越えたというのを理由にモスク建設を停止するよう求めている。

5:預言者とその夫人達につき、無礼で傲岸不遜なエッセイが繰り返し書かれている。それらは、複数の妻を持った事について、あるいは女性の割礼について、ここには書けないような侮辱的表現を用い、その社会が受け継いできた習慣とイスラムという宗教を意図的に混同している。

6:欧州国籍であっても、移動に際し、イスラム教徒は、ユダヤ教、キリスト教の信徒と区別される傾向が強まっており、テロ立案者の疑いにより入国ビザの取得が要請される。既に合衆国は、欧州のイスラム教徒の大多数にビザ手続きを課している。欧州諸国との相互協定により、本来免除されるはずの手続きである。


残念ながら幾つかの欧州諸国政府は、直接的ではないにしろ、この、イスラム教徒に対する扇動に大きな役割を果たしている。英国のイスラム教徒は、他と比して職務質問される率が17倍も高い。ブレア元首相は、イスラムコミュニティに対し互いをスパイするよう、そして過激派を発見するための情報提供者となるよう要請した。彼らが属する国への忠誠を確かにするためだそうだ。元首相こそ、イラク、アフガニスタンでの自身の失敗を隠蔽すべくこのキャンペーンを始めた本人なのだが。

3週間前、これらの騒ぎは頂点に達した。与党労働党のイスラム教徒議員サディーク・カーン氏が自身の選挙区に属するイスラム教徒拘留者の一人と会見した際、治安機関がテーブル下に盗聴器を仕掛けていた事を新聞がすっぱ抜いたのである。

我々は、表現の自由を信奉している。そして、独裁政権に支配されるアラブ諸国にそれを根付かせるべく闘っている。しかし、表現の自由と、理由も無く神聖な宗教を愚弄する自由との間には大きな隔たりがある。それが、平等と多文化、宗教的寛容を基礎とした文明国でなら、尚更である。

デンマークの新聞も、表現の自由を理由として悪意あるイラストを掲載したとしても、最初は良かったかもしれない。しかしそれから約1年が経ち、その間にその誤った行為により危機が高まったというのに、何故今17紙は再掲を主張するのか。死者まで出したデモやプロテストにより、それがイスラム世界でどれ程の怒りを引き起こすのか知っていながら。

これは、反イスラム的民族感情を反映させた意図的な扇動である。これによって、欧州のイスラムコミュニティの若者の間に過激主義が蔓延し、彼らは、アル=カーイダのような暴力と流血を主義とするグループの容易い餌食となる。これは、社会の平安を脅かし、移民の現地社会への融合や彼らの欧州諸国への忠誠心を妨げるものである。

これは、表現の自由ではない。何故、新聞やテレビ局は、第一の宗教的権威者であるウィリアムズ大主教の個人の意見を述べる権利を差し押さえ、辞任や謝罪を求める酷い攻撃を行ったのか。彼は、英国の法に関する学術的な講義の中で、イスラムのシャリーアに肯定的な点が見られるので採用する必要があるという見解を述べただけなのに?

彼がシャリーアという言葉を使った事により、まるでそれが、イスラムに対する罵詈雑言開始の暗号ででもあったかのような有様である。多くが、(罰則としての)手足の切断に意見を集中させている。まるで、イスラム世界では手を切断された人が普通に行き来しているかのような、あるいは、イスラム都市の広場では毎日罪人を死ぬまで石で打つ刑が行われているかのような書きぶりである。

残念な事にアラブ諸国政府は、このように無礼な名誉毀損が始まった時、彼らの勢力範囲内ですら責任ある対応をしなかった。悪意ある画像に反対するため幾つかの国でデンマーク大使を召喚した程度で、こういう事態の危険性に対し欧米政府の目を真に開かせようという試みは行われなかった。

各国のイスラム教コミュニティは、欧州に野火のように燃え広がるイスラム嫌悪症の影でその存続と平安を脅かされ、極度に危険な状態にある。他方、これらのコミュニティの存在にこれまで大いに頼ってきたイスラム国がある。在外イスラム教徒は送金を通じて経済的に貢献しているからである。手遅れになる前に何らかの措置を講じるべきであろう。

欧州は過去50年各種のテロにさらされてきた。イタリア、アイルランド、ドイツ、スペインなど、キリスト教徒のヨーロッパ人により行われたものもある。しかし、だからといって、キリスト教徒をテロリストとみなすような映画やエッセイにはお目にかからなかった。聖書はテロを示唆するような文言も含んでいるが、現在我々が目にしているイスラムとテロを結びつけるような事は、キリスト教については行われなかったのである。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:13179 )