コラム:ハマース・イスラエル交渉
2008年07月05日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ 停戦合意、にもかかわらず封鎖は継続

2008年07月05日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】

 イスラエルが一昨日のネゲブ地方へのロケット攻撃を理由に再びガザの通行地点閉鎖措置を取ったため、ハマースは、捕虜のイスラエル兵ギラード・シャリットの解放に関する交渉を停止した。しかし、これは充分なステップではない。ハマースは、更なる手段を取るべきである。つまり、イスラエルと仲介者エジプトに数日間の猶予を与え、その間に全ての通行地点を再開させ、停戦合意から手を引く事のないようイスラエルに迫るべきである。

 この合意の交渉にあたり、エジプトの善意に絡め取られて署名したハマース幹部らは、現在、重大な点を見落としていると思われる。イスラエルは、ロケット弾発射を理由に通行地点を閉鎖するようになった。それはつまり、彼らがパレスチナ側の合意不履行を疑っているという意味に取れる。しかし現実には、イスラエル側の意図が、この合意を撤回させる事にあるというのは明白である。その履行を逃れるために口実を用いているのである。

 ハマースの交渉者は基本的過ちを二つ犯した。一つは、ガザでの停戦と西岸のそれをリンクさせたいというイスラエル側の要請に対し譲歩したことであり、もう一つは、ロケット弾発射を停止する代わりにラファハ国境を恒常的に開けるという条件を通さなかった事である。

 封鎖され、通行地点は閉ざされ、150万のパレスチナ人が必要物資を欠いている状況下で、ガザのハマースと彼らの政府にどれ程のプレッシャーがかかっていたかを理解するのは難くない。しかし、合意の条件履行に対する最低限の確かな見返りも保障もなく、ほとんど無償で停戦を進めることはない。

 停戦が例外なく全ての通行地点の開放をもたらさないならば、エジプトの仲介は全く不必要であった。ハマースは、一方的なロケット弾停止により、現在と同じ結果に到達し得た。イスラエルもそれを要請しており、エジプト他の仲介を無くすことに対し、封鎖の軽減、承認不要の物資輸送再開等を提案していた。


 エジプト政府がパレスチナ人とイスラエル人を仲介するなど、あってはならない。エジプトは、パレスチナ側に立ち、封鎖を解除し通行地点を再開するようイスラエルに圧力をかけてしかるべきなのである。なぜならガザは、エジプト政府に従っていた時にイスラエル占領下に落ちたのだから。

 仲介者というからには、率直を旨とし、他から非難されるべき点があってはならないのだが、残念ながらエジプト政府にはこれは全く当てはまらない。イスラエルの条件をパレスチナ側に通達するメッセンジャーの役割を果たし、封鎖下の困難な状況を利用してそれを押し付けたのが彼らである。

 エジプト治安軍が、ラファハ国境の両側で待つ人々を攻撃したのは遺憾なことであった。更に残念なのはアフマド・アブー・アル=ガイトの声明で、その中で彼は、国境侵犯があった場合、パレスチナ人を厳罰を処すとの脅しを繰り返している。

 4ヶ月前、封鎖下のパレスチナ人多数がエジプト国境へ押し寄せたとき、エジプト政府はラファハを恒常的に開けると誓約した。しかしこれは守られていない。病人とアラブ諸国の滞在許可保持者に対する人道的理由から、3日間の開放を実施したが、これは全く不十分である。ガザの情勢では、その全住民が非人道的状態にあるからだ。

 オルメルト首相のエジプト訪問に随行したイスラエル高官らの声明によれば、ムバーラク大統領は、捕虜となっているシャリットの解放までは国境閉鎖を継続すると約したという。エジプト側は公式に否定したが、これが事実であったことは明らかである。国境は未だに閉じており、他の通行地点も同様である。

 150万のパレスチナ人の運命がこのイスラエル兵にかかっている。彼がまるでイスラエルの預言者であるかのように。先例のないトリックである。どれだけの圧力がかかろうとも、そして結果がどうあれ、このような状況に屈して条件を放棄すべきではない。

 ロケット弾を発射している小派閥は、占領が続き敵イスラエルが存在する限り抵抗は合法であるとの認識の下、ガザがラーマッラー政権に従っていた間ハマースが行っていたのと同じ事をしているのである。彼らはハマースによってその装備を整えられたのだ。ガザ住民の苦痛を和らげ、息をつく間を得てその後に備えるために、停戦合意の履行を求めるというハマースの立場は理に適っている。しかし、ハマースは、そのような小派閥の行為を不実とみなすべきではない。

 シャルムッシェイクの4者サミットで実現した最初の停戦では、ハマースは条件を完全に履行し、ロケット弾の発射を停止した。しかし、イスラーム聖戦と人民抵抗委員会は、その合意に縛られる事はないと自分達をみなして、発射を継続した。それにも関らず、通行地点は開放されていた。イスラエルの暗殺作戦は、合意を適用しない小グループの活動家に標的を絞り、その後ハマースも合意撤廃を決定するまでは、ハマース軍事部門の要員は狙われなかった。

 ハマースは、エジプトの圧力に抵抗してきたと思われる。しかし、気づけば彼らは、小麦粉輸送トラックや給油車、病人をエジプト側へ通す事などのために交渉する羽目になっていた。ジハード主義戦略を成功させ、パレスチナ国民多数の心を掴んだ抵抗運動としては、これらは周辺的な事であり、彼らにはより大きな目標があるはずだ。

 ハマースが停戦や通行地点再開交渉で多忙な間、ラーマッラーの方では、アッバース大統領の任期が2年延長され、大統領選は次の議会選挙と同時期に行われる事になった。もし、ハマースがいつも通りにロケット弾を発射し続けイスラエルの深部を攻撃していたら、もしくは、停戦合意が適用されガザ住民の日々の暮らしに肯定的に反映されていれば、アッバース大統領とその取り巻き達はこのような手続きを進められなかっただろう。

 このような大統領任期の修正は、合法的ではないと思われる。占領下では、統治機構全体、そこから派生する省庁なども合法的とは言い難い。サラーム・ファイヤードの政府は、原則としてひと月の暫定政府から恒久的政府となった。しかし、(西岸と)パラレルに存在する抵抗運動が強力であれば、違憲行為、原則からの逸脱を狙う手続きは防げただろう。

 停戦合意を破ることがより危険となった今、イスラエルに合意適用を迫り通行地点を恒常的に開けさせるのであれ、あるいは、それ以前の段階に戻るのであれ、ハマースは確固たる立場をとり、仲介者エジプトにその責任を認識させるべきである。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:14225 )