サッダーム・フサイン大統領の生涯を描いたドラマ、BBCで放映
2008年08月02日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ ドラマ「サッダームの家」は、歴史を捏造し大統領の残したものを歪曲している

2008年08月02日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【ロンドン:アフマド・アル=ミスリー(本紙)】

BBCが水曜(7月30日)に第一回を放映したドラマ「サッダームの家」(House of Saddam)は、故サッダーム・フサイン、イラク大統領の生涯を欧米的視点で扱ったもので、1979年に大統領の座に上り詰めた時から2006年の喜劇的裁判、そして処刑へ至るまでを描いている。

しかし第一回には、歴史的事実に関する捏造が多数あり、俳優のパフォーマンスは奇妙で、(かつての)イラク政府とその大統領にマフィア的キャラクターを付加しようとする意図が見て取れた。

サッダーム大統領役は、イージャール・ナーウールという未知のイスラエル人俳優が演じており、容貌は大統領にかなり似ている。イラク出自を持つというこのイスラエル人俳優は、イラク方言をマスターしており、この特殊な役を演じる事に満足しているそうだ。また、彼は故イラク大統領によるミサイル攻撃からかろうじて助かった経歴を持つが、今回のドラマ出演は(個人的)報復とは無縁であると述べている。

プレスリリースによればナーウールは、「この人物と彼が生活した場の雰囲気については、英米人俳優よりも多くを理解できる。中東、イラクは、私の出身地である」、「誇りや威厳が特に要求される事柄についても、私は理解しえる。私は戦争と流血を生きてきた」等、述べている。

また、イスラエル人俳優がサッダーム役を演じたら物議をかもすであろうとの考えを否定し、「我々は俳優、アーティストである。何故、イスラエル人だとか、レバノン人、あるいはエジプト人であることが取り沙汰されなければならないのか?」と応じた。

ナーウールがイスラエルにおいて、これまで否定的反応を受けていないのに対し、共演したエジプト人俳優アムル・ワーキドは、イスラエル人と仕事をしたとして批判にさらされている。


そして、ワーキドの他にチュニジア人俳優5名も共演したこのドラマ自体については、サッダーム大統領のイメージを歪曲し、アラブ人全体の印象を悪くするものとして、各方面で議論が紛糾した。

ドラマは、アル=マジード一族における家族関係の真実を追究しようとして、ゴッドファーザー風のマフィア映画を模倣しているが、故大統領やその家族の性格付けと共に、納得が行かない点が多い。

また、事実関係についての捏造が多々あった。第一回のオープニングでは、80年代の首相としてターリク・アジーズが登場するが、この役職は、当時のイラク政権の構造上存在しなかった。首相のポストが導入されたのは、1991年、湾岸戦争が終結して2、3ヶ月たった頃で、最初に任命されたのは故サアドゥーン・ハンマーディ博士であり、ハムザ・アル=ズバイディーに引き継がれた後は、サッダーム大統領が兼任していた。

ドラマは大統領の母親の役割に注目し、一族のメンバーを政権内部に食い込ませるにあたり彼女が指示を出していたかのように描いているが、これは誤りである。彼女がバルザーンの任命と昇進をサッダームに要請する場面が出てくるが、周知の通り、サッダームの義兄弟としてのバルザーンは、情勢が微妙な当時、情報局長の地位にあり、既にナンバーツーであった。

人物の外見について、大統領の従兄弟ハサン・アル=マジードが毛髪の薄い色白の人物として出てくるが、実際の彼は毛深く褐色の肌の持ち主である。口ひげのないフサイン・カーミルも、実像とはかけ離れている。

大統領が酒を飲み干すシーンがあるが、彼が酒を飲まなかったのは、イラクでは子供でも知っている事である。主治医も含め近しい人々がこれを確認している。また、大統領が公共の場で女性たちを挑発しからかうというシーンは、お笑い種であり、明らかにおかしい。誰もが知っているように、大統領の地位は特別なものであり、そのような振る舞いは、その地位にとって重要であるところの尊厳を失わせる。彼の息子達、特に故ウダイならばこの描写はあてはまるのだが、サッダームが女性達をからかったなど聞いたことがない。

大統領の娘の婚礼披露宴の様子も描かれるが、まるで西洋のカクテルパーティのようである。これも知られている通り、大統領一族の婚礼の多くは家族的雰囲気の中で行われ、一般に公表されることはなく、部族的伝統に則りサッダームはほんの数分列席するのみであった。

大統領府で計画相アドナーン・フサイン・アル=ハムダーニーにサッダームが発砲するシーンも、事実とは異なる。ハムダーニーの処刑は、任命された執行人の一団によりそれなりの手順を経て行われた事が確認されている。その後カメラは、ハムダーニーの葬式に夫人と共に出席し、未亡人に悔やみを述べるサッダームを映すが、彼が遺族を訪問したという事実はない。信頼すべき筋から本紙が得た情報によれば、バルザーン・イブラーヒーム・アル=ハサンがハムダーニー夫人に電話で弔辞を伝えたのみである。

第一回を見る限り、金曜(1日)ロンドンで批評されたように、ドラマは、映画「ゴッドファーザー」やテレビシリーズ「ソプラノ」の域を出ていない。

ドラマは、ドジャイルでの大統領暗殺未遂をその時期の重大事として描こうとする一方、その当時行われたサッダームとアラブ首脳らとの会合については無視している。これは、サッダームが対イラン戦争についてアラブ世界の支持を得た重要な会合だったのだが。また、外国要人の訪問についても触れていない。よく知られているように、彼は、当時のレーガン米大統領の名代やペンタゴン長官、後にはドナルド・ラムズフィールドらとも会見していたのだが。

ドラマは、故大統領をマフィアのボスとして描きそのイメージを歪曲している。第一回については、多くの批評家が納得がいかないとした。どのように終わるのだろうか。

Tweet
シェア


この記事の原文はこちら

 同じジャンルの記事を見る


( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:14413 )