アメリカ新大統領誕生:アラブ・イスラーム大衆の抵抗がもたらした変革
2008年11月05日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ アメリカ大統領選挙:抵抗が変革を迫った

2008年11月05日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【本紙編集長:アブドゥルバーリー・アトワーン】

今日の明け方にはホワイトハウスの新しい住人が判明することだろう。あらゆる世論調査はそれがバラク・オバマになると予想している。我々アラブやイスラーム教徒こそが、この選挙の結果を決した陰の重要な投票者であり、米新政権の政策の概要を決する存在であると言っても過言ではあるまい。たとえ全ての予想に反した結果が出たとしても。

「アラブやイスラーム教徒」と口にするとき、私は統治機構を意図しているのではない。私が意図しているのは決定権を奪われ、独裁と抑圧に支配されている大衆、中でもアメリカの覇権に反旗を翻す決意をした生気溢れる人々、イラクで、アフガニスタンで、南レバノンで、占領下パレスチナで、アメリカの植民地主義的計画に抵抗すべく武器を取った人々のことだ。

今日からアメリカで始まる変革は、政治、経済、軍事、社会などあらゆる面に及ぶだろう。もしアメリカの新世紀が勝利の栄冠で飾られ、イラクやアフガニスタンでネオコンたちが望んだとおりに政治的安定と経済的繁栄がもたらされ、アメリカの計画の標的にされたこの両国の国民が完全に屈服していたならば、この変革はあと数十年、延期されたことだろう。

イラクとアフガニスタンでレジスタンスが仕掛けた消耗戦、レバノンで実現した強大なイスラエル軍事機構への大勝利、飢餓と封鎖の作戦に屈しないパレスチナ占領地住民の抵抗。これら全ての要素が個別に、あるいは複合的にアメリカの軍事的政治的破綻をもたらしたのち、ついには経済的破綻をもたらした。これにより、アメリカ国民は現在の危機から救い出し、待望の安全地帯へと導いてくれる救護車を求めるようになったのだ。

今日オバマが勝利するとして、彼を勝利へと導き、世界最強国の、いや世界全体の指導者の地位へと押し上げたのは、彼の政治的カリスマ性、演説での雄弁さ、湧き出るような鋭い知性といった資質の全て、あるいはどれか1つではない。それは、アラブやイスラーム教徒たちがアメリカ前政権に敗北を喫せしめ、全世界にとって、また何よりもアメリカ国民にとって、嫌悪すべき存在にしたためなのである。もしジョージ・ブッシュやディック・チェイニーやネオコンたちがイラクとアフガニスタンで望み、計画したとおりに事が運び、彼らの条件を押し付ける形でパレスチナ国家を樹立していたならば、オバマが世論調査で7ポイント以上の差をつけることも、ホワイトハウスに近づく機会を得ることも無かっただろう。

アメリカ国民、またはその中の多数が自らの根底にある人種主義へと傾いたり、無記名投票の段になったら公開の世論調査では選ばなかった人物、すなわち極右共和党のジョン・マケインに投票したりするならば、その選択は苦境の継続と危険の増大、アメリカ合衆国の崩壊を意味するだろう。だが我々は、8年以上も共和党とネオコンの流血の政策の火に炙られてきたアメリカ国民が、そのような選択に陥ることはないと信じ続けている。

新しいアメリカ大統領が誰になるにせよ 、アラブとイスラーム教徒たちに向き合うことになる。その時に軍事的な対峙を望むのなら、今と同じ状況、つまり損失の増大が続くことになる。しかしもし対話と相互理解に基づく平和的な対峙を望み、誤りを認め、誰もが満足し、利益が守られるような形でその誤りを修正する準備ができていることを周囲に示すなら、新大統領は前政権の悪から自分を救い、国を救い、全世界を救うことができるだろう。

確かに新大統領は最初の数年間はアメリカの国内情勢、とりわけ経済情勢と、前政権の失敗の修正、ホワイトハウスの主への敬意と威厳を取り戻す仕事に忙殺されることだろう。しかし、このような任務でさえ、アラブ・ムスリム大衆との新たな関係に基づいた力強い協力を必要としている。

別の言い方をすれば、新大統領はアメリカ経済を停滞から救い出すために、石油収入から生じた巨大なアラブの資産を必要としている。同様に、エネルギー価格を適正なレベルに下げて、枯渇した製造業の動脈に活力を取り戻し、サブプライムローン危機と、世界経済および証券取引市場が金持ちと貧乏人のばくち打ちが入り乱れるカジノと化した後、緩慢な死に苦しむ金融市場を再生させるために、アラブの影響力と彼らの膨大な石油備蓄を必要としているのだ。

10年以上英国の財務相を務めたゴードン・ブラウン首相は、この事実を認めた最初の人物だった。彼はアラブの富の今日の首都たるサウジアラビア王国やカタール、アラブ首長国連邦を訪問しては、彼らの莫大な資産を西洋の市場で運用したり、目下の経済崩壊の衝撃を和らげ、西洋資本主義世界における経済縮小の影響を軽減するに必要な流動性を確保するため、IMF(国際通貨基金)に資産を拠出したりといった支援を求めている。

アメリカ新大統領も必ずやこの英国の例にならうことだろう。それ以外に選択の余地はない。また新大統領は、60年以上にわたり欧米をゆすってきたイスラエルこそが、その血なまぐさい挑発的な政策によって、現在西洋が経験している病理と不幸の大半をもたらしているということも、よく理解するようになるだろう。そして、アラブやイスラーム教徒に屈辱を与えるために莫大なコストのかかる十字軍戦争を仕掛けるのではなく、占領地のイスラエル人たちと率直に向き合い、大きな声で「もうたくさんだ」と呼びかけることにこそ、自国の利益があることに気づくことだろう。占領、収奪、殺人、国際法無視、和平プロセスの妨害、他者の土地への入植、隣人への攻撃はもうたくさんだ!と。

アラブとイスラーム教徒の新大統領への支援は、アメリカの中東政策に変化がもたらされることを条件にしていなければならない。さもなければ彼らは敗北し、大統領自身も結局のところは敗北することだろう。なぜなら、アメリカとイスラエルの計画を打ち負かした勢力はいまだ存在しているのみならず、より強力で広範になっているからである。

アメリカとその政策・将来像に生じるであろう変革は、アメリカ一国にとどまらず、海外にも広がるだろう。そして必ずや、変革に抗い、民主主義と政治・経済改革の嵐の前に頑なに門戸を閉ざしてきたアラブ諸国にも、その変革は訪れるだろう。この地域に世界の他の地域から 変革が訪れるのを阻んできたのは、腐敗し抑圧的な〔アラブ諸国の〕体制と同盟を結んできた歴代のアメリカ政権にほかならない。しかし我々は今、自身を救い、これまでの政権の誤りから学んで自国と自国民とを救おうと望んでいる新政権を目の前にしている。

我々が今、目の前にしているのは新たな大統領ではなく、新しいアメリカであり、これまでとは全く異なる新しい世界だ。もはやアメリカが支配していない世界、新たな勢力、より獰猛で上昇志向の強い猛獣たちが台頭しつつある世界、力強いイデオロギーと過激な信念を備えた小さな抵抗勢力が超大国に打ち勝ち、完全なる破綻へと追い込む世界なのだ。

世界は急速に変化している。新しい現実が出現し、世界の権力と富のバランスに対応を迫っている。全てとは言わないまでもその一端は、アメリカの覇権と新旧の保守主義者たちの計画を敗北させた者たちのお陰なのだ。

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( 翻訳者:梶田知子 )
( 記事ID:15126 )