コラム:イラク県議会選挙とクルド自治区の立場
2009年02月07日付 al-Hayat 紙

■ 地方選挙、バグダードとアルビルの間で

2009年02月07日付アル・ハヤート紙(イギリス)HPコラム面

【サーミー・シャウルシュ】

イラク14県で県議会選挙結果が集計されている間、アルビルでは、第3回(自治区)議会選挙を来る5月14日に行う事でクルド勢力が合意したとの発表があった。この選挙は1992年に初めて行われ、イラクのクウェイト侵略失敗とあいまって最初のクルド政府形成のきっかけとなった。第2回は2005年、イラク国内を再整備し、選挙による初のイラク国民政府を樹立しようとする米国の政策の枠組みの中で行われた。以上2回の選挙に、クルドの人々は熱心に参加した。彼らは、イラクの政治において自分達が基本的役割を担う資格があるとの確証を得たかったのだ。クルディスターンで行われる次期選挙はより活気に満ち、成功するだろう事が予測される。彼らは、イラクで同じ役割を担い続けるという自分達の意思を確認しようとしている。

アルビル、スライマーニーヤ、ドホークのクルド3県は、イラク地方議会選挙に参加しなかった。バルザーニー率いるクルド自治政府は、クルド地域での選挙は次期議会選挙と同一のものとするというクルド国会決議に従い、今回の不参加についてバグダードと合意に達している。さらに、アルビルとバグダード間で最も危険な懸案事項の一つとなっているキルクーク県では選挙は行われなかった。キルクーク問題解決の糸口となる憲法第140条の適用までに十分な時間を与えるため、同県での選挙は延期すべきであるとの駐イラク国連ミッション(UNAMI)勧告に基づき、バグダードとアルビルはキルクークを例外とすることに合意した。

いずれにしても、イラク・クルディスターンを今次県議会選挙の例外とする事について、イラク側、クルド側双方の話を共に信用するのは難しい。双方が詳細を公にするのを控えているものの、両者の食い違いは非常に大きい。そのため、選挙にまつわる軋轢により危機が深刻化するのを双方が懸念している。ニネヴェ県での出来事は最近の一例である。同県選挙で(スンニー派)アラブ民族主義勢力の進出が明確になったため、新たな民族問題が発生すると観測筋は見ている。この勢力は、元イラク軍将校ウサイル・ヌジャイフィーがリーダーを務めるハドバー連合を中心としている。そしてリーダーの実の兄弟がイラク国会議員のウサーマ・ヌジャイフィーであり、同人はクルドと緊張関係にある。

他県と同じくニネヴェの選挙公式結果もまだ公表されていない。しかし、2005年選挙時にはスンニー派ボイコットにより参加しなかったこのヌジャイフィー勢力のおかげで、同県議会でクルドを代表する勢力が削られる可能性はある。民族問題がはらむ危うさと現下の政治情勢の中でハドバーが表舞台に復帰したことにより、住民の民族的、宗教宗派的多様性で知られるニネヴェの緊迫度が増すと思われる。ハドバーは、クルドで構成されたイラク軍部隊をモースルから放逐せよと要請している。クルド部隊がモースルのアラブ性を剥奪し一部地区をクルド化しているというのである。また彼らの主張によれば、同市におけるクルド指導部は、県内キリスト教徒住民を扇動し、ニネヴェの平野にキリスト教徒自治区樹立をという運動を奨励している。

それらを他所にクルドは、来る議会選挙で彼らが明確に一致団結しているという事を表明しようとしている。彼らの自治区がイランとトルコに対して抱えている困難な情勢、並びにバグダードとの入り組んだ食い違い、この2つのために彼らは、政党間の競争に門戸を開く余裕はない。民主的営為とはいえ、選挙戦はクルドの一枚岩的立場を弱める可能性もある。それ故2003年に前イラク体制が認可して以降、クルドは二大政党KDPとPUK、及び他の小政党を含む一つの政治連合形成に努めてきた。

クルド自治区大統領バルザーニーとしては、更に勢力を増しつつあるクルドの立場が統一されていることを示すために、来る選挙においても二大政党の連合を確実にしたいところだ。今回の地方議会選でその綻びが見えつつある(シーア派の)イラク連合トップからのシグナルをバルザーニーは待っているのだろう。

またクルドは、今次選挙でマーリキー派の法治国家連合が勝利したことも、次期(クルド議会)選挙に彼らが連立体制で臨む必要性を強めたと見ている。マーリキー派と少なからず緊張関係に陥っているクルドにしてみれば、この展開はマーリキー首相に勢いをつけ、クルド側の要請、特に第140条の適用と石油ガス法案、イラク国内自治区の権限を縮小する方向での改憲に関わる案件などにおいて、強硬な態度を取らせることとなるかもしれないという懸念がある。

クルド側は、マーリキーが既にこれらの点で強いシグナルを送ってきていると見ている。中でも重要なのは、問題の焦点であるキルクーク市にイラク軍の一師団(第12師団)が派遣されたことである。この事態を受けアルビルは、検討委員会を設け対処法を練っている。また、モースルのヌジャイフィー派をマーリキーが特に支援するのは、ここにアラブ民族主義勢力、旧バアス党勢力の地盤を築き、県内に既存のクルド勢力を排除する意図によると、クルド指導部は見ている。更に、昨年、バグダード・アルビル間の懸案事項に実際的解決策を設けるためとして、双方の合意により形成された5委員会の業務をイラク政府は実質上停止させているとクルド側はみなしている。

以上のようなわけで、クルドはよく統制された清潔なクルド議会選挙を執り行うことが必須と考えている。選挙は、国内的に政治、経済、文化、運営面での経験を深めるだけではなく、実効力のある最新の武器を手にすることにつながる。それは法という、万人に開かれた極めて平和的な武器である。

*イラク・クルドの著者による。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:15758 )