コラム:カイロにおける米大統領演説
2009年06月05日付 al-Hayat 紙

■ オバマ演説

2009年06月05日付アル・ハヤート紙(イギリス)HPコラム面

【ワリード・シュケイル】

昨日のカイロにおけるオバマ米大統領演説は、新しい議題、テーマを含むものではなかった。イスラームに対する見方として「形式的イメージへの抵抗」、「我々とは異なる振る舞い」、中東地域緊張の中心としてのイラク、パレスチナ・ユダヤ二国家解決案等々、中には事前に知られていたものもあったが、その多くが、議論を呼び、分析、解明が待たれる議題である。

しかし、オバマは、既知の議題に対する立場を新たなやり方で提示して見せた。それにより、若年の米大統領が扱うものとしては先例のないテーマへとつながる見解を表明している。例えば、「イラクにおけるスンニー派としーア派の分裂」が「悲劇的暴力」を生んだとする見解、宗教的自由に関し、レバノンのマロン派、エジプトのコプトに言及した点……核兵器を持つ国がなくなる世界を目指すと言いつつ、これがイランに限らず理屈としてはイスラエルにも適用されると示唆したこと……加えて、二国家解決という目標に向け「個人としても」努力したいと述べた点などがそうである。

オバマ演説を世界的出来事してとらえ、単なるアピールの言葉以上をその中に見出し、あるいは、彼の言葉に純粋に感動した人々も多くいる。また、米政策により攻撃された地域にいる人々の中には、アメリカこそが中東における悲劇の原因であるとして、その大統領の演説には警戒する人々もいるだろう。しかしながら両者とも、性急に肯定あるいは否定的反応を示さない。演説から重要と思われる結論を注意深く引き出そうとしている。というのも、その演説が非常に精妙であり、多数の目標を掲げつつも慎重かつ現実的で、また決意を示してもいたからである。それは、若い大統領に歴史的コミットメントを迫る内容であった。その理想の高さは、もし本気でその実現を望むなら、大統領があと百年生き延びても足りない。しかしそれは、その後の時代、合衆国とその他の世界、特に中東に新たな段階をもたらす礎となるだろう。

オバマ見解に対する反応を待つ間、演説についての印象や疑問点を思いつくままにあげておきたい。

1.それは、不備な点もあり、またワシントンと敵対関係にある国々との間の不信感も見えるものの、イスラーム並びに中東諸国に関する合衆国の政策に対し、アメリカのみならず国際的指導層のレベルで行われた初めての反省、あるいは批判的政治表明であった。これは、1950年代のイランで、モサデクによるクーデターをワシントンが支持した事は過ちであったと示された点に顕著である。また、帝国主義的役割がムスリムとの間の緊張関係をうみだし、911攻撃、「我々とは異なる振る舞い」という悲劇的衝突へ至ったとの見解も示された。重要かつ肯定的にとらえられるべきこの過去への批判であるが、特にパレスチナ・イスラエル闘争については不備を残す。演説の構成は、イスラエル人、パレスチナ人を同等に、双方の人々がさらされた抑圧を等しいものとして扱っている。入植を続け二国家解決を無視しようとするイスラエルの立場をよく検討するとの大統領の決意にもかかわらず、米イスラエル関係の遺産については真剣に批判しようという意思は見られなかった。アラブ・パレスチナにとって問題なのは、ワシントンが解決に向け尽力する度に、その完全な偏向が生み出した事態から出発しようとするという事だ。歴史的にイスラエルはワシントンの盲目的支援に頼っており、そのことが数々の障害をもたらすのだが、それを全く無視しようという態度がそれである。交渉は、イスラエル側が実施した事から強制的に始められる。それに対する歴史的批判の不在が、アラブ側の要請に譲歩に譲歩を重ねさせるのである。

2.アメリカの政策並びにこの演説自体においてオバマが打ち出した変革は、アラブ・イスラーム諸国による米政策への見解を修正させることにつながるだろう。演説によりオバマ大統領は、ブッシュ前政権の方針を世界へ開示してみせ、アラブ・イスラーム諸国におけるアメリカのイメージを改善するために、前政権が多額の資金をかけて行い成果をあげなかったメディア・キャンペーンではなく、政策の改善に依拠すると表明した。

3.その新たなアプローチとしてオバマは、国際社会における米国の主導権を回復したいとの意向を示した。それは、ブッシュ前政権の政策により、世界と対立し失われたものである。このためには、これまでの失敗に代わる複数の主軸が必要である。また、イスラームに対する開放的態度、ムスリムに向けた異なる選択肢なども必要となるだろう。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:16615 )