酸による犯罪をどう防ぐべきか?
2009年07月01日付 Jam-e Jam 紙


【事件部:マルヤム・ユーシーザーデ】立法府の議員たちに罪はない!人に酸をふりかけるという犯罪行為に対して3年から5年の禁固刑が言い渡されるのが判例となっている現状に目をつむり、「酸ふりかけ犯への罰則を強化しても、この犯罪を抑止することにはつながらない」と主張したとしても、それは彼らの権利である!

 彼らに罪はない。なんとなれば、彼らの誰一人として、酸ふりかけ行為の犠牲者になった経験のある者はいないのだから。彼らの誰一人として、酸による傷の痛みがどんなものなのか、味わったことがないのだから。意識があるなかで体が酸によって徐々に溶けていくというのがどれだけの痛みを伴うものなのか、厳しい障害を負ったまま、国の関係者にも一般市民にも忘れ去られ、周りの人にとって見るに堪えない顔をさらしながら、その後の人生を送るというのがどれだけ辛いことなのか、彼らの誰一人として知る者はいないからだ。

 立法府の議員たちには罪はない。しかし、である。それならば是非、酸ふりかけ行為に関する法律の制定を、被害者自身の手に委ねてはもらえないだろうか。それが筆者の切なる願いである!


 もしかしたら読者のみなさまは驚かれるかも知れないが、我が国の現行のイスラーム刑法には、酸ふりかけ行為に対する規定は存在しない。〔‥‥〕イスラーム刑法に酸ふりかけ行為に対する明確な犯罪規定が存在しないため、裁判官らは判決の際、いまだに1337年〔西暦1958年〕に可決された「酸ふりかけ処罰法」に依拠せざるを得ないのが現状だ。同法には、次のようにある。
主に酸ないしはその他の化学物質を振りかけた者は、そのことで他者を殺害した場合は、死刑に処す。被害者を不治の病に陥らせるか、あるいは被害者の五感のうちのいずれかを欠損せしめた場合は、第一級禁固刑に処す。また被害者の身体の部位のいずれかの切断ないしは欠陥ないしは機能不全を結果した場合は、2年から10年間の第二級禁固刑に処す。また他者に危害を加えた場合は、2年から5年間の第二級禁固刑に処す。

 半世紀も前に可決されたこの法律は、この種の犯罪がめったに起こらなかった時代のものであって、この種の犯罪が頻繁に起こる現代社会にこの法律を当てはめることには無理があるということに、疑う余地はないだろう。

犯罪者たちへの処罰はどうなっているか?

 近年起きた酸ふりかけ事件について調査して分かったのは、現在裁判官たちがイスラーム刑法第614条に基づいて酸ふりかけ犯に対して言い渡している量刑の平均が、ほぼ禁固2〜5年にディーヤ〔賠償金〕を加えたものだということである。もしディーヤの支払いが履行されない場合は、イスラーム刑法第696条に基づき、刑務所に留置されることになる。

 その一方で、イスラーム刑法によればもし故意による傷害を犯した者は、被害者の要求に応じてキサース刑〔同害報復刑〕に処せられることになっている。しかし、イスラーム刑法第272条によると、キサース刑を科すには5つの条件をクリアしなければならず、酸ふりかけ犯に対してキサース刑を科すことは、通常これらの条件のために不可能となっている。

 司法権のアリー・レザー・ジャムシーディー報道官は、酸ふりかけ犯に対してキサース刑が執行されない原因として、これら条件のうち以下の二つを挙げている。「〔殺人の罪を犯したのでないかぎり〕キサース刑によって罪人の命が奪われたり、〔加害者が被害者に危害を与えた場所とは〕別の体の部位に〔キサース刑による体罰の影響が〕及んではならない。またキサース刑は実際の犯罪行為以上〔の罰〕を〔受刑者に〕与えてはならない」。

 同報道官はイスラーム刑法第272条のこの部分に拠りつつ、次のように指摘している。「この二つの条件を、酸ふりかけ行為に適合させることは困難だ〔=この二つの条件があるために、酸ふりかけ犯に対してキサース刑を科すことは困難だ〕。第一に、酸は液体であるので、体の別の部位に影響を及ぼす可能性がある。第二に、犯罪に用いられた酸の濃度を確定することも極めて困難である。それは法医学上の証明・研究によってのみ確定することができる。酸の濃度や酸がどの距離から、またどのようにして振りかけられたのか、さらには被害者の状況などによって、〔酸が犯罪被害者に与えた〕影響は様々に変わりうる。それゆえ、〔被害者が受けたのと〕まったく同じ害を罪人に与えることは不可能なのだ」。

酸ふりかけ行為は故意による殺人と同列の犯罪行為

 司法権報道官は、酸ふりかけ犯に対してキサース刑を科すことは困難との見方を示す一方で、厳罰化に踏み切る必要もないとの考えを表明している。「もし裁判官が望むならば、自らの職権を利用して、酸ふりかけ犯に対してこれまでとは異なった厳しい罰則を考慮することも可能だ」。

 ジャムシーディー報道官はさらに、「立法は刑事訴訟法第35条A項のなかで、酸ふりかけ行為を故意による殺人、公共秩序の混乱、《地上に頽廃をまき散らす行為》などと同列に扱っている〔‥‥〕」とも述べている。

 司法権報道官は様々な法律の存在を指摘しているが、しかし近年酸ふりかけ犯に対して下された罰則を一瞥してみるならば、裁判官はこの種の犯罪に対して主に禁固5年の判決を下しており、それを踏み越えることはないことが分かる。法律による縛りがあるためだと考えられる。

 正義か、不正義か

 国会司法委員会第二副委員長のアリー・エスラーミーパナーフ博士は、現状を批判して「法律は極めて柔軟に書かれている。裁判官の裁量を確保し、正義を実現するためだ。決して不正義を容認するためではない!」と強調する。

 同議員はイスラーム革命から30年が経ち、酸ふりかけ事件が多発しているにもかかわらず、司法権はいまだにこの犯罪に真剣に対処するための法案を提出していないと指摘し、さらに「酸ふりかけ犯罪に対して裁判官が厳しい態度で臨むことは、極めて重要だ。この犯罪は、被害者の人生を狂わせるだけでなく、公衆の意識をも強く動揺させるものだからだ」と述べている。

新法の成立を

 第一級弁護士のアブドッサマド・ホッラムシャーヒー氏は、酸ふりかけ犯に対してキサース刑が執行されていないもう一つの理由として、国際機関・団体の反発を指摘する。

 同氏はこの犯罪に対して罰則を強化する必要性には疑問を呈しつつ、次のように強調する。「犯罪学の分野でこれまで行われてきた研究によれば、犯罪行為が発生する背景となるものを根絶することが必要だということが証明されている。罰則の強化によって犯罪の発生を抑止することはできない。確かに一定の効果があるかも知れないが、しかしそれは一時的・短期的なものにすぎないからだ」。

 同氏の考えによれば、このような犯罪が社会で頻発する原因は、同問題をめぐる法的な不備と公正さを欠く罰則の執行にあるという。国会は犯罪学の専門家や法律家、大学の研究者らの意見を取り入れて、酸ふりかけ行為に対して、実効性のある時代に即した適切な法律を制定すべきであると、同氏は提言している。

非現実的なディーヤ

 ホッラムシャーヒー氏の意見とは逆に、ホッジャトルエスラーム・ヴァルモスレミーンで国会運営理事会委員を務めるムーサー・ゴルバーニー議員は、酸ふりかけ行為のような犯罪は身体の激しい損傷を伴うものであり、このような犯罪に対してはイスラーム聖法を考慮に入れつつ、明確な罰則を設けることで厳しく対処すべきであるとの見方を示している。

 同議員はその上で、「もし酸ふりかけ行為に対してキサース刑を科すことが通常不可能であるならば、少なくともこの犯罪に対する罰則を、赦免の可能性のない確定的なものにする必要がある」と指摘する。

 同議員は現状に対して遺憾の意を表明した上で、「現在の定められている罰則は確定的なものではなく、犯罪者は処罰を免れたり、禁固期間を短くしたりするための方法を熟知している。これでは、罰則の抑止効果も限定的になってしまう」と述べている。

新たな法律が準備中

 ゴルバーニー議員によると、現行のイスラーム刑法では「酸ふりかけ行為」について触れられてはいないものの、現在司法権で編纂が進められている『新イスラーム刑法裁量手引き書』には、この犯罪に関する言及があるという。また新イスラーム刑法には、「酸ふりかけ行為」に対する明確な言及があるだけでなく、被害者の置かれた状況を救済するための措置についても考慮がなされているという。

 ゴルバーニー氏は、「私の考えでは、現在の〔被害者を金銭的に救済するための〕ディーヤは現実的なものではない。本来あるべき額よりも少ない額に抑えられている」と強調している。

〔後略〕

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( 翻訳者:斉藤正道 )
( 記事ID:16898 )