コラム:現在のアル=カーイダの脅威について
2009年09月14日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ 20年目の「アル=カーイダ」

2009年09月14日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】

アフガニスタン侵略に始まりイラク占領に行き着く対テロ戦争を勃発させた「ニューヨーク侵略」から8年を経て、現在のアル=カーイダ並びにその危険度に関する評価、見解は様々である。過去8年間、911クラスの大規模作戦が実施されなかったことをもって、組織は弱体化し勢いは後退しているとみなす「専門家」たちがいる。あるいは、それとは全く逆に、組織は強力で広範な影響力を有するとみる人々もいる。ロンドンならびにマドリッドの攻撃、ロンドン・ヒースロー空港での「液体爆弾」事件をはじめとする多くの阻止された作戦、そしてイラク、アフガニスタンでの盛んな活動ぶりがその根拠である。

確かなこととして、組織弱体化を語る人々は、自分たちの希望を表現しつつ、人心を惑わし扇動する作戦を続行しようとしている。テレビ番組や新聞評論で、それらの不確かな見解を吹聴するのが得意な人々だ。一方、アル=カーイダは、設立20周年を祝いつつ、今この瞬間存在している。米国庫に、これまで9080億ドル費やさせ、いずれ3兆ドルになるといわれる程の経費をかけたうえに、5千人を超える戦死者、3万の負傷兵を出した対テロ戦争の失敗を、この事実は示している。8年前、アル=カーイダの住所はアフガニスタンの「トラボラ」洞窟だけだった。それが今や、数か所に新たな支部を有し、おそらく本拠地よりもそれらの方が強力で危険である。アラビア半島の「アル=カーイダ」、イスラーム的マグリブの「アル=カーイダ」、イラクにも、パキスタンとアフガニスタン国境にも「アル=カーイダ」はある。ソマリアの「アル=カーイダ」は刷新され以前より強力になって戻って来た。

「アル=カーイダ」は、伝説の多頭竜、切られるたびに複数の頭を生やすあの竜のような組織になった。

アフガニスタンをアメリカが占領したことにより、組織指導層のほとんどが殺害され、逮捕され、あるいは国外へ追放された。組織は壊滅したと多くの人が思った時に、それは、新たに安全なアフガンの隠れ家に復活した。軍事教練キャンプを設置し数百のボランティアを集めた。イラクでも同じことがいえる。アメリカのペトレイウス総司令官が、増派によりスンニー・トライアングル地帯(アンバールとその周囲)で組織の屋台骨を叩き、「覚醒部隊」を作り上げたことを祝った。その後、組織は、グリーンゾーンの真ん中で六つのイラク省庁、国会を標的とした「血の水曜日」事件の犯行声明を出すことによって、司令官の誤りを表明した。

一方、1994年モガディシオで米軍に対する初の作戦として「ブラックホーク」を撃墜し乗員18名を殺害したソマリアの「アル=カーイダ」は、イスラーム青年運動(ハラカ・シャバーブ・アル=イスラーム)を通じて新たに復活し、近隣諸国と欧州から多くのボランティアを集め、欧米政府とその治安組織に対する脅威を形成している。

アル=カーイダは、限定された控え目な目標、第一にアラビア半島からの米軍放逐を実現するための地域組織として始まった。それが、その任務の完了、つまり「クウェイト解放」を終えた後、世界的組織に変容した。アフガニスタン、イラクでの敗北戦争、アラブとムスリムを侮蔑する前政権の方針など、米国の愚かさがその原因である。

合衆国とその同盟諸国は、戦争史上にない多大な経費と人命を費やす戦争を続行中である。そして、この戦争に勝つことは決してない。8年来アフガニスタン国土の3分の1を支配下に置いている「ターリバーン」運動が、NATO軍に損害を与えない日は1日もない。この8月は、米戦死者数が50名と、アフガン占領以来最大の惨事になった。今月終わりの平均は更にそれを上回るだろう。

軍事面でもそれ以外でも、この損失を埋めようとする米側のプランは、現在のところたいして効果がでていない。文明的な民主主義の顔を登場させるため大統領選挙が行われたが、それを清い選挙とみなす者はいない。最終結果発表後に惨事が起き、それがターリバーンに益する可能性がある。対立候補で、パシュトゥーン系の父とタジク系の母をもつアブドゥッラー・アブドゥッラーが結果偽造を主張する構えを示している。アフガン側も欧米占領軍側も、ハーミド・カルザイの勝利を祝うとは考えられない。戦争に絡む彼の汚職ぶりは鼻につく臭いを放っている。

アフガニスタンの欧米軍は、無人機を用いてターリバーンとカーイダを砲撃したところ、犠牲者の多数は民間人であるといった過ちをおかしている(最近では、盗まれたタンクローリーを攻撃し子供を含む100名ほどを焼死させた)。これは、ターリバーンとカーイダには何よりの贈り物であり、彼らが、支援者たち、自爆攻撃志願者たちを隊列に加えることを容易にしている。

アル=カーイダは、欧米で大規模作戦を行っていない。それが最優先事項ではなくなったからだ。かつてのアフガニスタン、トラボラでの「イスラーム共和国」時代とは違う。ニューヨーク、ロンドン、あるいはマドリッドへ自爆志願者を派遣する必要はなくなった。アフガニスタンには数十万の欧米兵がおりその半分は米兵である。そしてイラクには14万以上の米兵がいる。カーイダにとっての彼らは、複雑な治安システムの突破方法や、液化爆弾のような新しい爆破手段を考案する手間を省いてくれる。

また別の見方をすれば、欧米、特に米政権は、うまい具合に中東地域を「失敗国家の一群」に変えつつある。そこでは、過激なイスラム主義を標榜する組織が安全なシェルターを見いだせるのである。イラクがそうだ。アフガニスタン、ソマリア、パキスタン、スーダン、イエメンがリストに加わりつつあり、ガザ、レバノンはその途上にある。

イラクとアフガニスタンへの米侵攻を除いて、過去8年間で重要な展開といえば、パキスタン、イエメン、イスラーム的マグリブで「ターリバーン」と「カーイダ」の勢力が伸びたことだろう。パキスタンのそれは核プログラムと相補関係にある。イエメンは、アラビア半島のアル=カーイダの牙城とみなされる。欧米社会の動脈、経済的支柱ともいうべき湾岸石油産業への脅威である。イスラーム的マグリブにおけるアル=カーイダは、三千万を数える欧州ムスリムへのアクセスを意味する。欧州各国で、人種差別や失業、疎外の憂き目にあっているムスリムたちである。

中東では、伝統的なアラブ・イスラーム主義的勢力が弱体化し腐敗する中、「カーイダ」が内外の情勢に直接影響を及ぼす新勢力となった。カーイダが、イスラエルに対する大規模作戦をひとつ実行すれば、その人気は絶頂にまで高まるだろう。中東諸国の政府は、えこひいきするアメリカに後援されつつ、成功の見込みのない和平プロセスに執着し、腐敗し、不能に陥っている。

本来の「アル=カーイダ」が齢を重ねたのは事実である。その首領、シェイフ・ウサーマ・ビン・ラーデンは52歳、ナンバー2、アイマン・アル=ザワーヒリー博士は60を超えている。指名手配の身で、彼らの生活環境は困難なものであろう。しかし、「アル=カーイダ」指導層の新世代は、より過激で大きな脅威となるだろう。戦場では彼らが直に指揮をとるのだ。

今日の「カーイダ」はより大きな独立性を持つ、イスラーム共同体の「イデオロギー」と化した。インターネット、「Facebook」や「YouTube」といった現代の通信ツールのおかげで、広範に支持者、シンパサイザーにアクセスし、その中から更なるリクルートを募ることが彼らには可能となった。政府筋を満足させるべく、現実が反映されていないレポートを作成する「専門家」なる人々が理解していないのは、この点である。かくしてそれらの政府は損害をこうむり、20周年を祝う「アル=カーイダ」が利するのである。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:17441 )