コラム:アラブ内相会議
2010年03月18日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ 大陸を超えるアラブ的抑圧

2010年03月18日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】

チュニスで行われるアラブ内相年次会議は、アラブの会合の中で最も良く統制され参加を得ているものだと思われる。そこで行われる決定は、[アラブ諸会合の決定の中で]唯一、実地に適用される。それも、馴染みのない情熱をもって。

政治信条における、あるいは国ごとのあらゆるアラブ諸国間の見解の相違は、ここでは脇へ置かれる。サウジ内相とイラク内相が、あるいはエジプトとシリアが並んで着席し、意見交換、情報交換を行う光景が見られる。彼らにとっては、自国民が標的であり犠牲者である。国民の自由や権利が獲物となる。そうである限りは見解の相違などあるはずもなく、互いに協力し合うのである。

これまでの内相会議は、彼らにしてみれば非常に重要な一つの案件にかかりきりであった。つまり、メディアを如何にして治安機関に従わせるかという課題である。メディアとは、アラブ政府関係者の群れの外でさえずり、「禁じられた」事柄、民主主義的自由だとか、汚職だとか、後継者問題、果ては労働者と体制エリートとの「聖なる連帯」などということについての話をしきりに煽る存在である。

頻繁なやり取りをした後アラブ内相たちは、「メディア・グループ」憲章なるものを我々に示して見せた。アラブ各国政府の安定を揺るがしている衛星各局に立ち向かう旨記された文書である。これら衛星放送は、為政者たちにまで手を伸ばし、汚職の話をするなどレッドラインを踏み越えた振る舞いをすることにより内輪もめの種をまいているという。もし事が「上流階級」に及んだら、というので内相たちはメディア担当大臣たちに注意喚起した。彼らは、そのアドバイスを受け入れるべく2年前カイロで会合を持ち、反乱者たちへの罰則を規定する手順を作った。事務所閉鎖、商業衛星を通じての放映許可の取り消し、罰金などである。

アラブのメディア担当相たちというのは、監視の強化、表現の自由の抑圧、ネットサイトのブロックなどを自分たちの任務と心得ている。また、それらは、彼らがそのポストに指名される条件でもある。彼らは、同僚たる内相の決定を即座に実施することに忠実である。内相たちに抗する勇気はない。理由は単純で、内相たちは、そのほとんどが政権内部のせまいサークルに属しており、中には国の実質的支配者とされる者もいるからだ。

ナーイル・サーイト(対話と世界)のようなテレビ局が商業衛星から追放され、多くのネットサイトが閉鎖の憂き目にあっている。書く事を禁じられたペンが多数あり、その持ち主たちは拘留され、拷問にあい、屈辱を味わわされる。同胞アブドゥルハリーム・キンディールをはじめとするエジプトの文人たちに与えられた屈辱は今も脳裏に新しい。

公式な数字によれば、ジェッダのアブドゥルアジーズ国王大学にネットサイト監視局を設置したサウジ王国は、現在までに25万以上のネットサイトを閲覧禁止としている。その多くは、自由と人権尊重を呼び掛ける政治的サイトである。


さて、衛星放送にメディア・グループ憲章を課して黙らせたところで、今回の内相会議は、更なる行き過ぎに及んだ。昨日チュニスで公表された閉会宣言に、全世界、特に英国とEUへの要請として、テロ組織ならびにテロ支援者個人に対応しないよう求めるという決議が盛り込まれたのである。

自国内政についてはいかなる国の介入も拒否し許さない内相たちが、説教をしたのみならず、これら諸外国に指示したのだ。「テロ支援者たちを欧州領土から遠ざけ、彼らの政治亡命を許可しないように。[欧州の]自由な雰囲気を利用し、彼らがアラブ諸国の治安と安定を脅かすのを許すべきではない」と。

アラブ内相たちは、欧米政府に勧告をすることにより彼らに対し内政干渉を行っている。内相たちは自国の治安を守ると主張するが、実際に彼らが守りたいのは自国の支配体制でありその存続である。それは反体制派を追放し、無理やり亡命させた挙句に亡命先でもさらに追い落とそうとすることによってなされる。

我々同様、アラブ内相たちも良く承知している。英国にも欧州にもアラブのテロリストなど存在しない。これらの国々にいるのはアラブ反体制派である。自身の政府による抑圧、表現活動の規制、基本的人権、市民権の差し押さえ等から逃げて、このような国々へ来た人々だ。

内相たちは、抑圧の文化を欧州諸国へ輸出しようとしている。欧州の人々には基本的な既得権である民主主義の文化、人権尊重、司法の独立などは、彼らには無用のものだ。ここに悲劇が隠れている。

内相たちが言うところのテロ、彼らがそれに抵抗し封じ込めたいとしているものは、彼ら自身の政策の帰結である。彼らの政府が国民に対し行う抑圧的振る舞いの結果なのだ。大部分の暴力主義的運動、あるいはテロリズムが爆破という手段に訴え、秘密組織的、軍事主義的行動にでるのは、体制の腐敗が原因である。政府が国民に対する義務を果たさず、自由を制限し公金を横領する。社会的正義は不在で、少数のグループが政権を占有する。為政者の周囲に群がり、彼の剣と諸機関をもって国民を打つ。それらの諸機関とは決して会計監査に従わず、またいかなる法にも屈しないのだ。


欧州政府がアラブ内相たちの願いをきくことはないだろう。
そのように我々は願う。欧州には、権力機構から独立した司法制度がある。行き過ぎが生じても、司法の枠内で処理される。首相や内相の機嫌は無関係である。

アラブ内相たちは、自国政府の腐敗を批判する声を黙らせたいのだ。それらは、恐怖を克服したメディアを通じて起り、体制によるテロに抵抗している。内相会議決議の真実、その決議の背後にいる人々の思惑は、以上のようなことである。アラブ諸体制の方は、もはや自身が安泰とは感じられなくなったということだ。国境や大陸を超えた新たなメディアが出現し、情報革命が起きたせいである。それらの前には、政府諸機関の監視は役に立たない。

アラブ内相たちが、エルサレムに残る人々を支援する決議を行ってくれたなら、どんなに良かっただろうか。その人々は、アラブ・イスラームの聖地をユダヤ化しようという動きに抵抗している。しかし、内相たちにとっては自国政府とその体制の保全がまず第一に優先すべきことであり、聖地や名誉を守ることは二の次なのだ。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:18718 )