ムバーラク大統領の卓越したユーモアのセンス
2010年04月09日付 Al-Ahram 紙

■ ムバーラク大統領、爆笑の会話術

 著書『大人だって笑うんだ』の中で作家のアニース・マンスール氏が、ムバーラク大統領の陽気で人好きのする一面やユーモアを感じ取る特別な能力を示すある重要な出来事について語っている。プロのコメディアン並みの爆笑を誘うやりとりだ。

アニース氏いわく:
フスニー・ムバーラク大統領から電話を受け、『君を昼食に招待するよ』と言われた時のことだ。

アニース「ありがとうございます。大統領閣下」
ムバーラク「どこだかわかるか?」
アニース「いいえ」
ムバーラク「ブトルスの家だよ」
アニース「どのブトルスでしょうか。閣下?」
ムバーラク「ブトルス・ガーリー[注:エジプト外務省を経て第六代国連事務総長]だよ。今私の前に座って会話を聞いているんだ」
アニース「ブトルス・ガーリーの家には食べ物なんてありませんよ。鶏肉をカイロ・スタジアムみたいな四角形に切り分けたのを、ペナルティ・エリアの部分を食べるだけで二年もかけるくらいですからね[訳注:ガーリー氏の小食ぶりを揶揄していると思われる]」

 大統領は笑って私の言ったことを繰り返した。私はブトルス・ガーリーが大統領に「アニースはうちで五回は食事をしてますよ」と言っているのを聞いた。

アニース「大統領閣下、ブトルス・ガーリーが昔やとっていたコックは外務次官ほどの給料をもらってました」
ムバーラク「ウサーマ・エル=バーズ[ムバーラクの外交顧問]もここにいるんだがね」
アニース「ではウサーマ・アル=バーズ並みの給料をもらってたんです。ところがブトルスの家には食べ物も飲み物もないのをみて、出て行ったんです」
ムバーラク「つまり、食べるものがないってことか」
アニース「ぜんぜんないんです」

するとムバーラク大統領はふざけてこう言った。「それじゃ、君が彼を招待すればいいじゃないか」
アニース「これまでずっとそうしてきたんですよ、大統領閣下」

 数分後、ブトルス・ガーリーのリア夫人が電話をかけてきて、私を叱った「ちょっとアニース、大統領にブトルスをクビにさせたいの?」
アニース「大統領は誰もクビにしないよ」
 
また数分後、フアード・ムヒッディーン首相[注:1982年から1984年まで首相]が電話をかけてきて責めた。「アニース、ブトルスのうちに昼食を食べに行くんだって?行政府の長たるこの私だって食べるものが見当たらないっていうのに」
アニース「ブトルスの家には食べ物なんてありませんよ。病気の子供の昼飯くらいの量なんですから。ブトルスも夫人もちっとも食べないんだ。あの二人は死んでしまうほどの腹ペコ記録保持者なんです!」

 次に、ブトルス・ガーリーを顕彰するパーティーがエジプトで開催された日のことだ。ブトルスというのは最高に頭が切れて、愉快な男だ。我々と握手をした後、ムバーラク大統領はアズハルのタンターウィー総長、コプト教会のシュヌーダ総主教、アーティフ・スィドキー首相[注:1986年から1996年まで首相]、アラブ連盟のイスマット・アブドゥルマジード事務局長、クルッツェル米大使[注:1998年から2001年まで駐エジプト大使]らと座るために隅の方に向かった。私は大統領に言った。「大統領閣下、ブトルス・ガーリーのロマンスについてお話ししたいのですが」

アニース「当時私は『アーヒル・サーア』誌で手記を連載していました。するとブトルス・ガーリーが突然パリから、大騒ぎで私に電話してきたのです。『ああ、アニース。君はミシュリーンって女性とどうやって知り合ったのかい?どこで知ったんだい?』。ミシュリーンさんというのは、大統領閣下、エジプトラジオのフランス語部局につとめるアナウンサーだった女性です…とても美しい人でした…驚いたことに、3人もの男性が彼女を愛しており、しかもその三人は互いの存在を知らなかったのです。ブトルス・ガーリーと、サリーム・リズクッラーと、私の3人でした。私はシャリーフェーン通りにあるラジオ局の入り口の前でミシュリーンさんを待っていました。ミシュリーンさんはブロンドで背が高く、青い目をしていて、声も、姿も、しぐさも音楽のような人でした…」
ムバーラク「つまり、どういう意味かね?」
アニース「つまり、すごい美人だってことですよ。」
ムバーラク「ふーん、それで?」
アニース「あれは1949年のことでした。大統領閣下。私は『女性の心への近道は彼女が飼っている犬だ』という理論を信じる者でありました。ミシュリーンはすらっとしたエレガントな、かわいらしい、愛玩犬を飼ってたんです」
ムバーラク「犬もすてきだったわけか?」
アニース「彼女と関わりのあるものはすべて、とてもすてきだったのです…」
 
するとアニース氏がロマンスの続きの詳細を話す前に、大統領はジョークで切り返した。「もちろんブトルスは別だろうな!」

Tweet
シェア


原文をPDFファイルで見る
原文をMHTファイルで見る

 同じジャンルの記事を見る


( 翻訳者:勝畑冬実 )
( 記事ID:18866 )