コラム:迷走を続けるイラク情勢
2010年10月08日付 Al-Nahar 紙

■イラクの友人達が、イラクをレバノンに例えられ気分を害する時

2010年10月8日付『アル=ナハール』紙(レバノン)HP1面

【バグダード:サーリム・マシュクール】

レバノン人の同僚が「イラク情勢はいつ安定するのかね?」と訊いた。私は即座に「レバノン情勢が安定すれば、期待できるよ」と答えた。ここ数日の息詰まる湿気と20年来未解の電力危機に沈んでいるベイルートでの集まりでのことだ。席にいた一人が問うた。「電力事情はどうなってるんだ?なぜイラク政府は問題を解決しない?」私は答えた。「私たちがベイルートで、こうやって蝋燭明かりの中集まっているのと同じ理由だよ。300億ドルの電力投資があるっていうのに。」

この回答は質問したレバノン人たちにとっては十分かつ明瞭であったので、彼らは「おっしゃる通り。」とだけ返した。しかし、イラク情勢をレバノンやその他地域の情勢に例えられると不愉快になるイラク人の多くは、これに満足しないだろう。彼らは、イラク固有のものにこだわり、イラクの由緒正しき文明と古い歴史を称賛しているからだ。このようなイラク人と議論すると、彼らの立場が現実からかけ離れていると感じる。政治とは、詩やスローガンではなく、この地上の事実によってしか対処し得ない現実である。

前政権崩壊以降、各派閥間で行われている議論を追っている人は、「イラク的現実」の諸相に眼をとめるだろう。そのひとつとして、レバノン同様イラクは、さまざまな宗教、人種、宗派から構成されており、数十年間の排他政治がこれらの間に深い溝を残したということがあげられる。そして、過去が復活することへの恐怖、過去の役割が後退したことに対する衝撃、過去を断罪する手段が独占されるという恐れ等々が明るみに出た。この結果、各グループ間の信頼関係は失われ、不満や疑念に取って代わられた。やはりレバノンと同じく、国外からの介入もイラク的現実の諸相の一つに肥沃な大地を提供している。イラクは常に目線を外に向け、国外情勢が国内情勢を危うくするどうかの情報を得ようとする。国内集団は国外勢力からの保護、支援を得ようとする。一方、国外勢力もまた国内集団を自らの非公式的代理人として行動目標の窓口に仕立て上げている。地域的ならびに国際的利益を巡る勢力間の闘争は、レバノンやイラクのようにぬかるんだ場所で行われており、これらの国は外部の対立のためにコストを支払っていると言える。

イラク国内での一連の闘争は、サッダーム・フサイン体制により明確化された政治・宗派的なものである。旧政権は、他宗派の排除という悪行によってある宗派全体をその政策に巻き込んだ。今日「愛国主義」が競合する全プロジェクトで主張されるが、このことは、各勢力が「国」を他勢力とは全く異なる風に理解しているという事を明確に示している。これは2003年以降ではなく、サッダーム・フセインが政権に就いた1968年7月以降起きていることだ。実に数十年もの間、政治層は、愛国主義の定義を独占し続け、反体制派に加え、バアス党と大統領に忠誠を示さなかったというだけで、そのような人々を排斥してきた。

この「愛国主義」が、幾つかの政治勢力により繰り返し口にされているが、それに属する人々は、政治プロセスをひっくり返そうとしている恐れがある。「イラーキーヤ」ブロックに属するグループが、「法治国家連合」に対し同盟の条件として要求を出した。それを要約すると、バアス党が蘇り省庁を手中におきかつての治安機関が復活する前に政治プロセスを廃止せよというものである。

これがイラクの現実である事を踏まえると、国内の危機解決を単純化するわけにはいかないだろう。この危機に付随して発生するあらゆる緊急事態を、イラクの多くの政治家やマスコミ関係者は、議席争い、権力への固執、利権の配当等の見出しで矮小化する傾向にあるのだが。

レバノンと同じくイラクの現実においては、根本的解決ははるか彼方にある。数年間の停戦というのが現実的な目標だろう。新たな危機が発生する度に、それが治安上の危機となるのではないかと人々は恐れ続ける。「法治国家連合」と「イラク国民連合」を含むイラク国民同盟が、マーリキー氏を首相候補として擁立するかどうかという問題に終止符を打ったとしても、それはイラクで付随的に発生する危機の内の1つを解決するための初めの一歩でしかないのだ。

今日の現状から目を背け役に立たないスローガンを掲げ続ける事が、この国にとって利益になるだろうか。地平線を照らす希望の光が見えないとは言わない。私が言いたいのは、この現実の存在を認める事がまず求められているという事だ。1940年代から今日まで迷走し続けるレバノンのように、現状に甘んじたスローガンの中で彷徨い続けるのではなく、考えをまとめ正しい処方を選定するために。

(本記事はAsahi中東マガジンでも紹介されています。)

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( 翻訳者:川上誠一 )
( 記事ID:20390 )