コラム:ムバーラクは栄誉ある退陣に値しない
2011年02月08日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ ムバーラクは栄誉ある退陣に値しない

2011年02月08日『クドゥス・アラビー』

【アブドゥルバーリー・アトワーン】

現政権の存続をのぞみ、民衆革命を挫折させたがっている人々の言い分として、1973年の10月戦争で空軍指揮官の一人であったムバーラク大統領には「ふさわしい形で」政権から退陣してもらわねば、というのがある。ふさわしい形とは、次期大統領選挙がある次の9月まで任期をつとめて、という意味だ。次期選挙ではムバーラク氏もその子息も立候補しないとされる。

10月戦争の英雄のひとりとしてのムバーラク氏には、その当時その肩書において敬意を払うことに異論はないが、共和国大統領として、法に照らせば数々の容疑を構成する過ちを犯した人物については話が違う。

イスラエルに世界市場の半値以下でガスを売り、イスラエルの防護壁の番兵と化し、庇護を求めるアフリカの人々に銃を向け、国内を跋扈する諜報網がエジプトを締め付けナイルの水を横流しするのを見過ごした。これら全てが、10月戦争での名声を帳消しにし、エジプトの国としての安全保障をないがしろにした責任問題の前に大統領を立たせることになる。

ガザ戦争、イスラエルによる南レバノン攻撃、パレスチナ封鎖のための鋼鉄の壁設置などにおけるエジプトの沈黙政策については、ここでは問わない。これらは周知の事実で説明の必要が無いからだ。しかし、エジプトとその国民が30年のムバーラク政権により被ったダメージは見過ごし難い。

大統領は国民を飢えさせ、その尊厳をふみにじり、マフィア実業家集団を放って国民の血肉をむさぼらせ、強権的抑圧機関を用いて人々を弾圧し、腐敗国家の中にさらに腐敗した国を築いた。

大統領は与党国民民主党に手を入れ、検事総長が閣僚や実業家らを公金横領で起訴したが、30年間それらの犯罪者をエジプト国民の前でのさばらせていたのは誰だろうか。彼らをしかるべき地位に付け、国庫を開いて見せ好きなだけ強奪させた張本人に敬意を払えるだろうか。

大統領には相応しい退路が必要だと言う人々は、イタリアへ出国の前アレクサンドリア港の警護された船上で公式に見送られたファールーク国王の例になぞらえているようだ。

ファールーク国王の治世には様々な留保が付くが、彼はとにかく民主体制を樹立し、国会選挙には介入せず憲法に則した政治的多様性を尊重した。彼はアラブ民族主義者ではなく、エジプトの独立は大英帝国によって枷がはめられていたが、1948年のパレスチナ戦争に参戦した。

ファールーク国王も汚職に手を染めていたが、ムバーラク政権のそれに比べれば小規模である。エジプトを後にした同国王が住んだカプリ島の小さなホテルを訪ねて愕然としたことがある。彼は数十億はおろか数百万も所有しておらず、その家族はサウジ国王の慈善金で生活していたのである。

ムバーラク大統領とその一族もサウジへ逃れるかもしれないが、四百億ドル以上あれば王家の慈善は不要である。エジプト国民の汗と労働から絞り取った金だ。そして、国民の退去要請に耳を傾け、とりあえず殺人は犯さなかった国王と、国民を殺すべく用心棒を差し向けた大統領では比較にならない。

国民の意思を尊重して退陣を決意した元首の例をあげてみよう。ナチスからフランスを解放したドゴール将軍と、第二次大戦で連合側を勝利に導いたチャーチル英首相がいいだろう。1960年代、フランスの若者たちがドゴール辞任を求めた時、この歴史的英雄は、それを容れ政界からの引退を決意した。戦後の復興が始まると、チャーチルは民意に逆らう事はしなかった。国民が、次の選挙で彼やその党を選ばなかったからといって、治安部隊を差し向けたりはしなかった。

ジャック・シラクも、アラブの為政者たちにしてみればほんのささいな、バクシーシ程度の金銭的過ちを犯したとして法廷へ送られている。国民が尊重され憲法が適用される国では、法は法なのである。

政権とその関係者が犯した過ちの全責任はムバーラク大統領が負うべきである。数人を起訴し、一方で彼らの頭目には敬意を払い安全な退場を許すというのは、正義ではない。

祖国防衛に身を挺した軍人には敬意が払われ特権が許されるべきという人びとがいる。サダト大統領は真の10月戦争の英雄であった。しかし、その名声にふさわしい退陣を果たしたとはいえない。キャンプデービッド調印の代償を自身の生命であがなうこととなったのだ。ムバーラク大統領は、その合意を完全に履行、適用を更に拡大し、アメリカの好意を得るべくイスラエルとなれあった。

イスラエルがムバーラク政権に同情的で存続を望むのも無理はない。イスラエルは後継者としてスライマーン少将を推奨していたとのウィキリークス文書が出たが、彼らはエジプト国民の安全や利益ではなく自国のそれを最優先させているのだから、当然だ。

スライマーンが冷戦期かそれ以前に設立された野党代表らと行っている一連の交渉は、既に頓挫した。この交渉に対する真の回答は、昨日タハリール広場とエジプト各都市の広場で出た。そこにあふれかえる人々は、大統領退陣だけではなく政権打倒とその幹部らの裁判を新たに要請している。

相応に扱われてしかるべきはエジプト国民の方だ。中東を変え、アラブ・イスラーム共同体に輝きと力を取り戻させる偉大な革命にふさわしい栄誉を彼らに。エジプト国民と若きその指導者たち、殉教者たちに祝福を。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:21416 )