コラム:脅威である、狂気ではない
2011年03月04日付 al-Quds al-Arabi 紙

■脅威である、狂気ではない

2011年03月04日『クドゥス・アラビー』

【アブドゥルバーリー・アトワーン】

リビア元首ムアンマル・カッザーフィー(カダフィ)には一度だけ会ったことがある。1999年8月、大佐が家族と過ごしていたバーブ・アル=アズィーズィーヤの軍事基地で、3時間かけてインタビューを行った。内容は当時の本紙に掲載されている。その後も幾度か招かれたが、諸々に理由で再会は実現しなかった。

大佐の事務局長アル=ハーッジ・バシールの応接室で延々と待たされてから、建物のない緑地へ案内された。たわわに実をつけたナツメヤシの一群があり、色と形状を同じくする三つの天幕があった。その内の一つにしばらく座っていると、白い簡素な服装の大佐が別のテントへ行くのがちらりと見え、私も、そちらへ行くようにと指示された。

そのテントの中は質素なオフィス風で、コーランの注釈やハディースなどの本に加え、ポール・ケネディの『大国の興亡』やフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』他、著者名は忘れたがグローバリゼーションについての英語からの翻訳など大部の書籍があった。

録音されなかった会見の半分は、政治や中東情勢についての会話だった。大佐は、ロカビー事件以降課せられた制裁撤廃に協力することもなくアラブ諸国はリビアを見捨てたとして、アラブへの失望を表明し、彼らに背を向けアフリカの奥深くへ向かう理由を示した。私もその失望には共感し、公的なアラブの立場を恥ずべきものとして怒りを覚えていた。しかし、そのためアラブ的アイデンティティと手を切るという方針には同意できなかった。

多くの人が口にする、カッザーフィー大佐の狂気という意見に異を唱えるため、上記のエピソードで始めてみた。このところ、その人物を知らない人々がテレビでよくそのような意見を口にしている。私は、彼らがリビアについては何も、地理も人口分布も部族分布も知らないのではないかと思っている。

その男は狂ってはいない。彼を弁護するためにこう言うのではない。彼が40年以上統治してきた700万のリビア国民のため、そして、ある時期彼を慕った数千万、いや数億かもしれないアラブの人々のために、そう言うのだ。彼の中に人々は、アラブ世界のみならず全世界の革命を支援する指導者の姿を見ていた。したがって彼を狂人扱いすることは、リビア国民並びにアラブの人々への侮辱となる。

確かに言えるのは、彼は今最大の危機に瀕しており、生き残るためなら手段を選ばないだろうということだ。数年にわたり欧米の封鎖に抗し、数々の暗殺を生き延び、同胞による最初のクーデター未遂によって軍を解体した、大佐はそういう人物であることを我々は留意すべきである。

現在リビア各地で起きている蜂起は正当なものであり、国民の要請は筋が通っている。中東地域で自由を信奉する者は皆支援すべきであり、チュニジアとエジプトで起きたように最終的には革命が勝利するだろう。そして近い将来、より多くのアラブ国家で同様の革命が期待されている。

問題は、リビア国民の部族的性質と大佐が保有する数百億ドルとも見積もられる資産だ。米ドル以外の通貨でも蓄えられたその資金が現在、可能な限り多くの傭兵を動員し、そのうえ整った装備を有する国民軍なる民兵組織にも費やされている。

この2週間でリビア政権が生き残る可能性はより高くなった。部分的に衝撃を吸収し、あるいは衝撃と共存しはじめている。初期の激烈かつ軽はずみなスピーチで大佐の表情に見られた惑乱した様子は、影をひそめた。だが同時に、反体制派の革命家らも改めて隊列を整え、成果を維持し、各都市を奪還しようとする政権の攻撃に果敢に耐えている。

カイロでの最新のアラブ外相会議で、湾岸諸国は、外国軍介入に合意しリビア上空に飛行禁止区域を設けるという決議を出すべきだと強硬に主張した。米侵略直前のイラク同様の飛行禁止区域には、カッザーフィー大佐に革命軍を空爆させないためとの理由が付けられている。

湾岸諸国の立場は米英に示唆されたものである。安保理で飛行禁止区域適用決議を通りやすくし、それに反対する中国ロシアをけん制するのが米英の狙いである。

ベンガジの革命家たちは、湾岸諸国とヨルダンの外相が受け入れたことを拒否し、外国の介入に反対した。ベンガジの金曜礼拝指導者サーリム・ジャービル師は、「軍事介入、外国の介入は不要である。我々は戦いを決するに十分な戦力を有している」と述べ、また「我々は東西南北でひとつの部族に属している。その名はリビアで首都はトリポリである」としてリビア国民の一体性を繰り返し主張した。

リビアの革命家たちは非常に高い意識と堅固な決意を示している。自由、正義、平等という要請が全て実現し、革命評議会とその不正行為、汚職に勤しむ人々や政権の説教師たちとは縁を切って、現代的な新リビアを建設するまで革命を続行するという決意である。つまり、外国の介入は、この革命を頓挫させ、政権の寿命を延ばすことになる。国民を屈服させようとしているリビア元首は、リビアへの帝国主義的侵略に抗した英雄として奉られることになるだろう。

幾多の町や村や都市で革命の若者たちが死と向き合っている。本来、基本的権限を有し、その意見をきかれなければならないのは彼らである。エジプト軍評議会が首相後任についてタハリール広場の若者たちに相談したように、彼らの要請も知られてしかるべきだ。

だがカッザーフィー大佐は危険な人物で、過去の栄光を取り戻すためには武器も資金も、手持ちのカードも全て使うつもりである。脱出口は全て閉じられ、大佐とその子供たち並びに取り巻きの一群にはインターポールが逮捕状を出す、国外資産は凍結された。にもかかわらず、大佐は外国介入が起きれば即座に政権に利するよう動くだろう。そして彼はそれに長けている。

確かにリビアはチュニジアでもエジプトでもない。都市社会も国軍も中産階級もない。国民に嫌悪され統治に嫌気がさして去る元首もいない。そうすれば国民の流血を回避できるのだが。よくない知らせだが、リビア危機は長引くだろう。

唯一の良いニュースは、反体制側の忍耐と愛国心、犠牲を辞さない決意であろう。彼らを分裂させようとの試みは失敗し、彼らは成果を維持している。圧倒的多数のアラブと世界の人々が彼らを支持している。


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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:21733 )