エジプト選挙:大統領になれるのは誰
2012年03月11日付 al-Quds al-Arabi 紙

■エジプト選挙:大統領になれる人物と、大統領になる人物

2012年03月11日『クドゥス・アラビー』

【ムハンマド・アブドゥルワーヒド・リヤード博士(作家・アズハル大学心療内科教授)】

エジプト大統領選が話題に上るようになって以来、マスコミは選挙戦への参加意思を表明した人たちを「大統領になる可能性がある人物」と呼び習わしてきたが、これは正確ではない。いかなる場合もすべてに可能性はあるのだから。私は「大統領候補」という表現の方がよりふさわしいと思う。

何はともあれ、市民の間でも、様々な政治エリートたちの間でも、期待と警戒がエジプトの街路を覆っており、はっきりした答えの見つからない問いが浮上している。一つには、軍最高評議会は発表した通りのタイムスケジュールに則って選挙戦を行うとの約束を本当に果たすだろうか、という問い。それともサプライズが起こり得るのだろうか。二つ目は、大統領選への意欲を表明した人々の中で、だれが最も勝利を収める運に恵まれているのか、またそれはなぜか、という問い。三つ目は、大統領選後はどうなるのか、という問い。エジプトは少しは安定するのか、それとも事態はさらに悪化するのか、あるいはこのまま大差なく進むのか。

第一の問いに対してはこう答えよう。諸政治勢力のメンバーの多くと個人的に会ったり、エジプト各地での青年集会や講義を通じて直接対話を行ったり、色々な政党の友人たちと親しく語らったりした経験から、軍最高評議会は大統領選プロセスを発表されているスケジュール通りに続けることに真剣でいると、大半の政治勢力は考えていると言える。例外は若干のリベラル派で、彼らはとにかく軍最高評議会には信頼が置けないと考えており、軍政が軍人支配を放棄して選出された大統領に権限を譲ることはないと見ている。あるいは少なくとも、統治に対等に加わろうとすると見ているのである。

一方、立候補予定者の運勢についての第二の質問には、農村部や都市部の多くの市民層と直接会ったり、一部の候補者の会見に出席したり、様々な席で若者達と議論をした経験から、私の個人的な見解を披露しよう。ご存じのとおり、個人的印象と言うのは、参考になる可能性のある科学的調査の方法の一つなのだから。

アムル・ムーサーは農村部や上エジプト、少なからぬ労働者や庶民の階層でそこそこ人気を得ている。それは彼が選挙戦を早く始め、すでにほぼ全国を回っているためだ。加えて、イスラエルの体制を批判した政府首脳の一人であったことや、パレスチナ問題に関する彼の姿勢ゆえに、かねてから人気があったということもある。また目を引くのが、シャアバーン・アブドゥッラヒームが歌った「俺はイスラエルが嫌いだ、アムル・ムーサーが好きだ」という歌が、彼の選挙キャンペーン用のテントでしばしば流されていることだ。各地の若者達との会合の場で大統領選に話が及ぶと、10人中3人がアムル・ムーサーを次期大統領に選ぶと言った。

今のところ、ムスリム同胞団やサラフィー潮流はアムル・ムーサーの選出にはっきりとは反対も賛成もしていない。現状で選挙が行われたとすれば、有権者の3割の票は堅いだろう。ただし、新党やリベラル派の多くはアムル・ムーサーを旧体制が衣替えしただけとみなしているし、少なからぬイスラーム主義者が、彼は新たなイスラーム時代にふさわしくなく、イスラーム主義的計画の実現にも熱心でない人物と見ている。

2人目はハーズィム・サラーフ・アブーイスマーイール。私の見るところ、彼は大統領選のダークホースだ。彼はサラフィー主義やムスリム同胞団の若者層に少なからぬ人気があるだけでなく、リベラル派の青年層の一部にも支持されている。ウルトラス[注:革命派の若者が多く集うサッカーの熱狂的応援団]の若者達との非公式の会談の場では、10人中2人が大統領選でハーズィム・サラーフ・アブーイスマーイールを支持するとのことだった。一般に、彼の支持者はイスラーム主義のカリスマ、率直なハティーブ(説教師)、汚職に断固立ち向かう決意の人、疑いも無くイスラーム主義的計画の支持者であると彼を見ている。今、大統領選が行われれば、彼は20から25%を得票するだろう。

次は、話題のアブドゥルムヌイム・アブーフトゥーフ博士。イスラーム主義的傾向とリベラル保守の傾向を併せ持つトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相にちなんで、「エジプトのエルドアン」になり得ると言われている人物だ。彼はムスリム同胞団のメンバーとして学生運動で政治活動を始め、その後、同胞団に加盟した。つまり、最初から同胞団のオリジナルメンバーだったのではない。

彼は同胞団の青年部の一部に加え、彼を宗教勢力とリベラル勢力間の妥協案と見る若干のリベラル派から支持を受けている。しかし彼は農村部や貧困地区ではあまり人気がなく、上エジプトやデルタ地方での大衆集会では、少なからぬ人々が彼が候補者であることを全く知らないと述べた。今、選挙になれば、1割以上の得票は無理だろう。

ただ、もしもムスリム同胞団がアブドゥルムヌイム・アブーフトゥーフへの直接支持を表明したり、あるいはどの候補にも直接支持を表明しなかった場合には、状況は異なるかもしれない。前団長を始め、同胞団の一部のメンバーはアブドゥルムヌイム・アブーフトゥーフを次期選挙で支持すべきだと公言しているものの、今のところ同胞団としてはっきりした決定は至っていない事を確認する様相が見える。仮にそうなったとしても、アブドゥルムヌイム・アブーフトゥーフが25%以上を得票することはないだろう。
(中略)

私の考えでは、軍最高評議会は諮問会議[注:昨年12月に軍最高評議会が政権運営の諮問機関として設立した]の議長にマンスール・ハサン氏を選んだ時点で、彼に白羽の矢を立てたのだと思う。マンスール氏自身、(軍最高評議会の観点から見て)今の時期にふさわし人物であることを自ら証明して見せた。彼はインテリで、リベラルで、柔軟で外交能力があるように見える。軍評議会と様々な政治勢力間のこれまでの危機にもかかわらず、マンスール・ハサンは中立を保つと同時に軍評議会を支持し、時に優しく柔軟に軍評議会を批判するという立場をとることに成功した。

私はサダト大統領時代の末期に青年担当内閣顧問を務めたことがあり、この政治的キャリアの一時期に、マンスール・ハサンを知った。多くの機会で彼に会ったが、彼はインテリでバランスがとれ、対話能力に優れ、反対の立場にいるときでも強硬ではなく、断定的でもなく、大統領やリーダーとしてのカリスマは持ち合わせていない。だがこれからの段階で求められるのは、このカリスマなのかもしれない。

いずれにせよ、今の時点でマンスール・ハサンが出馬しても、シャルキーヤ県の地元の村以外ではまず得票は難しいだろう。彼は30年以上も公職から遠ざかっていたし、諮問会議の議長に就任中も、自分を売り込む大衆向けの活動をしなかったし、自分の意見を明確に表明することも、将来のビジョンを打ち出すこともなかった。マンスール・ハサンの運勢は、軍最高評議会が同胞団やサラフィー主義者から彼への支持を引きだす交渉にのみかかっている。だが仮にそうなったとしても、25から30%以上の得票はないだろう。

ムハンマド・ハッサーン[イスラーム説法師]やナビール・アラビー[アラブ連盟事務局長]などが、諸勢力が妥協できる大統領になりうるのではないかとの見立ても出ているが、これはあり得ないと私は思う。たとえ同胞団やサラフィー主義の支持を得たとしても、どちらも20%以上の票は取れない。大統領選には、議会選とは違った計算があるのだ。一方、アル=アワー博士[=ムハンマド・サリーム・アル=アワー、イスラーム思想家]ほか、立候補の意思を表明している他の人たちについて言えば、1%からせいぜい5%の得票にとどまるだろう。
(後略)

Tweet
シェア


原文をPDFファイルで見る
原文をMHTファイルで見る

 同じジャンルの記事を見る


( 翻訳者:山本薫 )
( 記事ID:25787 )