オヤ・バイダルから新刊書『あの華麗なるわが人生』
2012年11月08日付 Cumhuriyet 紙

オヤ・バイダル氏から『あの華麗なるわが人生』と題する小説がジャン出版社から出版された。

オヤ・バイダル氏の感動的な小説は、プリマドンナの壮麗なる人生で始まり、トルコのねじれた土地で終わる…。バイダル氏の意識と読者の意識が重なり、最後のページで次のように述べています。「忘れるということは、傷を癒すものではない。」

世界的に有名なトルコ人のプリマドンナ、才媛。彼女に関するあらゆる写真、音声記録、新聞の切り抜きを集めることを人生の目的とした、熱狂的ファンの音楽教師。母親の跡をたどる若い一人の女性...。古い写真の細部には、隠された深い秘密がひそんでいる:オペラ歌手の人生だけでなく、トルコ現代史のもやのかかった、暗闇の断面。

華麗なる人生の、光り輝く飾りの後ろには何が隠れているのか。
華麗なる、きらめいて、非の打ち所のないように見える顔には、自分自身にさえ秘密となっている、どのような破滅が隠されているのか。自己を知り、真実と向き合うということは、人をどこに導いていくのか。オヤ・バイダル氏は、待ち望まれていた小説『あの華麗なる人生』で、各々自分のアイデンティティを探す小説の主人公とともに、私たちを、人間の、この地域の深奥に連れて行く。彼女の新作は、そこに隠れている真実と向き合う心の準備ができた読者を待っている。

■「スカートの中の子ども」はどういう意味か知っているだろうか

オヤ・バイダル氏は、本の最後に出てくる短い手紙でこの本が自身の人生とつながる点を、次の言葉で説明している:

「主人公のオペラ歌手のように、私も将校の娘だった。軍駐屯地、60~70年代前のアナトリアの村々や町、そして当時「東」と言われていたアナトリア東部は、子ども時代の記憶の一部。ある晩、母と父は、豪華なランプの下で、時間つぶしにトランプゲームで遊んでいたとき、『フィトナットは、スカートの中の子どもだ』と父は言った。私がいたことを忘れていたのか、あるいは父はこの言葉を私が全く分からないと思って安心して言葉を選ぶ必要がないと思ったに違いなかった。フィトナットは私より3~4歳年上で、兵站司令官の娘だった。遊び友達だった。『スカートの中の子ども』という言葉(注)からは、こどもたちのふわっとした段々スカート以外思い浮かばず、忘れた。ずっと後になって、デルスィムで起きたことを知るまで、『皆が知っている秘密』に気づくまで。そして家で、『第3軍作戦記念。トゥンジェリ』と書かれたメダルを見つけるまで。私の最初の反応は、『違う、お父さんのじゃない、お父さんはその日にそこにいなかった』という拒絶だった。未だに本当のことは知らない。両親とも亡くなってから、長い年月が過ぎた。4年ほど前のことだった。まさに語った物語のように、私の小さいころの写真を発見した、あの貴重な人がいなければ、何とかしてその写真を私に届けようとしなければ、この小説は生まれなかった。その人に本当に感謝するしかない。」

■オヤ・バイダル

1940年イスタンブル生まれ。ノートルダム・シオン・フランス女子高校最終学年在学中に書いた『神はこどもたちのことを忘れた』と題する青春小説のた め、退学処分を受ける。1993(1963?)年に出版された『戦争の時代、希望の時代』で1960年代の青年期を説明。この小説以後、創作活動をやめる。1964年にイスタンブル大学社会学部卒業。同年、同学部でアシスタントとなる。『トルコで労働者階級の誕生』と題する博士論文が大学教授委員会により2度にわたり拒否されたことを受け、学生たちはこの件に抗議するため学長室を占領。同事件は大学が初めて占拠された事件となる。その後、アンカラのハジェテペ大学の社会学アシスタントとなる。 1971年3月12日軍事クーデターの最中、トルコ労働者党(TİP)とトルコ教員組合(TÖS)メンバーとして逮捕され、大学での立場を失う。

『Yeni Ortam』『Politika』紙でコラムニストとなる。(1980年)9月12日に海外亡命し、12年間ドイツで亡命生活。1991年に書いた『さらば、アルヨシャ(Elveda Alyoşa)』という物語により、サイト・ファイク賞受賞、1993年に『猫の手紙(Kedi Mektupları)』という小説でユヌス・ナディ小説賞を受賞。トルコに帰国後、歴史財団と文化省の共同出版であるイスタンブル百科事典で編者、トルコ労働組合百科事典で編集総責任者として従事。1998年小説『どこにも戻らない(Hicbir yere Dönüş)』、2000年小説『灰は暖かなまま(Sicak Kulleri Kaldi)』を出版。同小説により2001年オルハン・ケマル小説賞受賞。『赤紫の扉(Erguvan Kapisi)』で2004年ジェヴデト・クドレト(Cevdat Kudret) 文学賞受賞。2007年『失われた言葉(Kayıp Söz)』、2009年『ゴミの大将(Çöplüğün Generali)』、2011年メレッキ・ウラガイとの共著で『ある時代の二人の女性(Bir Dönem İki Kadın)』を出版。

(注)デルスィム(=トゥンジェリ)での虐殺の際、殺害された母親のスカートの下に隠れて生き延びた子供のことを指している。

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( 翻訳者:石川志穂 )
( 記事ID:28182 )