2005-10-07  映画『パラダイス・ナウ』 自爆攻撃者の生を描く(アル・ナハール紙)

■ ハーニー・アブー・アサド監督作品『パラダイス・ナウ』
■ だけど天国なんてどこにも見えない!

2005年10月7日付アル・ナハール紙(レバノン)HP文化面

【パリ:リタ・バースィール・アル=ラーミー】

 世界に向けた絶望のメッセージとして死を選ぶことは、占領に立ち向かうために十分ではないかも知れない。肉体が自己を防衛する唯一の手段となることは、十分でないかも知れない。しかしそれでは、軍事力において圧倒的な占領者を前にして、いかに耐え抜けばよいのだろうか。いかに抵抗すればよいのだろうか?自爆による殉教攻撃によってか。それとも一部の人々にとってはあまりに素朴に見えるかも知れないが、人権団体を通じての活動など他の手段によってか。

 新作『パラダイス・ナウ』において『エルサレム、いつの日か』(2002)のハーニー・アブー・アサド監督はそのような問いを投げかけ、私たちを容易に結論の出ない葛藤に直面させる。創造力に満ちた感性と、繊細で優しく、理解しようという姿勢に貫かれた心理描写をもって、監督は白きナブルスの町をめぐる魅惑的な旅路へと私たちをいざなう。それは感動的であるが、もちろん悲痛に満ちたものである...パレスチナについての全ての語りがそうであるように。

 本作品はナブルスへの愛の詩であり、世界を震撼させる殉教攻撃者の実像に近づくための新たな深みのある手だてでもある。ナブルスに暮らすハーリドとサイードという友人同士の地獄のような日常。二人はイスラエルの占領に対する抵抗運動に関与する。ナブルスの人々の暮らしを目の当たりにし、二人の日常生活の詳細に分け入っていくうちに、抵抗運動の精神的指導者と政治的指導者が現れる。英雄的行為と殉教の「時がついにやって来た」ことを二人に伝達するために指導部から派遣されてきたのだ。明日、テルアビブで自爆攻撃だ、と。

[…]

 場所の描き方が大変興味深い。ストーリーの舞台はナブルスであり、攻撃の目標となる場所はテルアビブである。

 イスラエルにおける奢侈な生活と最低限の権利も奪われているパレスチナの生活のあいだに存在する圧倒的な格差についてはここで言うまでもない。この二つの世界を結びつけ、あるいは切り離すのは、境界線である。一つの世界からもう一つの世界に入るときには、その境界線上に設けられた小さな入り口を通らねばならない。ナブルスにおける全ての事物は戦争と占領を思い起こさせる。検問所、殉教者の肖像、水道や電気をめぐる厄介事、生活の苦労、失業、絶望、そして期待。その一方でもう一つの場所、すなわちテルアビブをひとめぐりすれば、二つの世界のあいだの距離がいかに大きいかが分かる。イスラエルの海岸では贅沢で安穏とした暮らしにひたる人々がひしめき合って日光浴をしている。彼らは占領地で起きているあらゆる悲劇に何の興味も示さない。

[…]

 ハーニー・アブー・アサドは殉教攻撃を賞賛しても正当化してもいないが、判決を下すこともしない。彼の目的は、血にまみれ瓦礫に埋もれた身元不明の死体の事を知ろうとすることである。彼は「自爆攻撃の英雄」に対する自らの立場についてこう語っている。「私は殺人に反対だし、それをやめてほしいと思うが、自爆攻撃を糾弾することはしない。それは極限の状況に対する人間としての反応なのだ。」

 映画『パラダイス・ナウ』には、価値判断は存在しない。ハーニー・アブー・アサドは自爆攻撃を擁護することもなく、非難することもない。彼はパレスチナ人を自爆攻撃へと駆り立てる現実を描写しているのである。実在の殉教攻撃者たちについての記録を渉猟し、それに基づく真実の心理描写を通して、人間爆弾の人間としての姿を提示しているのである。ハーリドとサイードは難民キャンプで生活の困難と苦労に直面してきた。二人とも子供の頃、イスラエル軍が家の中に侵入してきた衝撃の体験を持っている。ハーリドの父親は暴行を受け、サイードの父親は殺される。サイードは自分の父親がイスラエル当局への協力者であったことを知る。二人にとって、家族の尊厳を取り戻す手段は殉教攻撃以外になかった。それは政治的な意味合いに加えて、ある種の社会的上昇をもたらす行動でもあったことが窺える。

 「もう屈辱的な暮らしには耐えられない」とサイードは言う。「世界中がイスラエル人のことを、あいつらの方が犠牲者であるかのように見ているってことにも、もう耐えられない」と。それが、殉教攻撃者サイードが自らを殺害することによって言いたかった全てである。ハーニー・アブー・アサドが描く全ての殉教攻撃者たちと同じように。

 ...彼らは殉教する。しかし世界は、見ることも、聞くこともしない。

(抄訳)

URL: http://www.tufs.ac.jp/common/prmeis/data/nahar/051007nahar_smori.mht

(翻訳者:森晋太郎)

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