Özdemir İnceコラム:困りますよ、ハサン・ジェマル・ベイ!―Milliyet紙「メフメド・ウズン特集」への私見(後)―
2006年12月02日付 Hurriyet 紙

作家メフメト・ウズンは、『ミッリイェト』紙上(2006/11/17付)でハサン・ジェマルのある質問に答えていた。(昨日の私のコラムを思い出してみてください)

「クルド語小説を書くことは、トルコ語やペルシア語を書くこととは違う。なぜなら、その言葉は禁止された言葉なのだから。教育、通信、現代生活から遠ざかった言葉なのだ。つまり、去勢された言葉ということだ。このような言葉を使って、豊かで近代的な文学を生み出すのは非常に困難だった。」

対話者は、このような答が返ってくると、別の質問をしなくてはならなくなる。

-クルド語がいつ禁止されたのか?
-禁止前のクルド語は文章語だったのか?
-クルド語を誰が去勢したのか?

このように問われず、また満足な答えが返ってこないなら、全ての罪はトルコ共和国が負わされる。そしてこれらの問いに付け加えられるであろう問いも、また、ある。

オスマン帝国時代に、クルド語は禁止されていたのか?オスマン統治下のブルガリア人、ルーマニア人、セルビア人、ギリシャ人は自らの文化的ルネサンスを成し遂げ、経済面ではムスリム臣民よりも優位にあった。ユダヤ人はグーテンベルクの活版印刷の発明の100年後には、サロニカ(現テッサロニキ)にオスマン帝国最初の印刷所を設けた。この間にクルド人は一体何をしたのか?

この問いに答えねばならない。クルド語を去勢したのはクルド社会そのものではあるまいか?同じ土地に暮らしていながら、(クルド語には)どうしていくつかの方言があるのか?

この問いに対して、ハサン・ジェマルも、メフメド・ウズンも率直に語っていない!

***

メフメト・ウズンはこう語っている。

「クルド語小説を書き始めたとき、私の手元にはムサ・アンテルが1960年代に監獄で作成した薄っぺらな辞書があった。それから、メフメト・エミン・ボザルスランの辞書だ。これは、19世紀から残っている辞書の翻訳版だ。」

辞書が無いのは誰が悪いのか?彼は述べる。

「私は一発の殴打によりトルコ語と知り合うこととなった。私の母語とのつながりはこうして断たれた。教育や文化を語る言葉がトルコ語であったことが、私とクルド語のつながりを奪った。言葉を禁止するというのは、人道的罪だ。人間を母語から切り離すことは非道なのだ。人間を母語から切り離すことは、人間の魂を、人格を傷つけ、成長を妨げる。私にとってこのクルド語禁止政策は、トルコ共和国が犯した最大の過ちの一つだった。」

***

母語を家庭で使うことは禁止されるものでもないし、禁止できるものでもない。もし禁止できていたのなら、メフメド・ウズンが家でクルド語を学べなかっただろう。クルド語が教育言語でないことを、メフメド・ウズンは禁止と呼んでいるのである。問いも答えも流れに任せたものであったっため、対談はメフメド・ウズンの哀歌となってしまったようだ。ハサン・ジェマルは、一体性を保持する国家(=トルコ)においてクルド語教育が今後もなされ得ない、と気付いていないし、気付かせようともしていない。そうして考えてみると、彼らには素晴らしい対話の余地がある。つまり、クルド語は学校で教えられ得ないものだったのだろうか?ということだ。

その他にもこういった問いがある。クルド語が禁止されたこと(!)が、貴方がクルド文学作家と親交を結ぶ理由であったのか?19世紀にクルド語で著述した小説家と詩人を5人ずつ挙げていただきたいのだが?ズィヤ・ギョカルプはどうしてクルド語で詩をものさなかったのだろうか?

ハサン・ジェマルは、メフメド・ウズンと対話していない。彼は、メフメッド・ウズンがスパイクを打つためにトスをあげてしまっている。対話ではなく、彼の応援団をしているのだ。まあ、こういった訳で、このコラムの題名を「困りますよ、ハサン・ジェマル・ベイ!」としたのです。


***********以下、関連翻訳ページ情報***********

Milliyet紙でのハサン・ジェマルによるメフメド・ウズンのインタヴュー記事は以下
2006-11-17  Hasan Cemalコラム:現代クルド文学の重鎮メフメド・ウズン -クルド語で話していたら・・・(Milliyet紙)
http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/newsdata/News20061117_3910.html

当コラムの前編は以下
2006-12-01  Özdemir İnceコラム:「リングワ・フランカ」のひとつとしてのトルコ語―Milliyet紙「メフメド・ウズン特集」への私見(前)―(Hürriyet紙)
http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/newsdata/News2006121_4025.html


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( 翻訳者:長岡大輔 )
( 記事ID:4033 )