Ertugrul OZKOK コラム:動かない唇 ワールドカップ国歌斉唱から多文化共生を考える(Hurriyet紙)
2006年07月11日付 Hurriyet 紙

ドイツ―ポルトガル戦が始まる時、私が興味津々で待っていたシーンがあった。それはドイツ代表の選手たちが国歌を歌うかということである。

私はこのことにとても興味を持っていた。というのも、ドイツで最多発行部数を誇るビルド紙が、ワールドカップ開幕の1週間前にキャンペーンを始めたからだ。それは、ほぼ毎日ドイツ国歌の歌詞を掲載し、選手が皆一緒に国歌を歌うよう呼び掛けるものであった。そのため、ポルトガル戦が始まる時、選手たちがどのような態度を示すか私は興味津々だったのである。

ポドルスキ以外の選手は全員、ドイツ国歌を自ら望んで歌っていた。

ポドルスキはなぜ歌わなかったのだろう。なぜなら彼はポーランド系だからである。その上ポーランドには自宅があり、家族はそこで暮らしているのだ。ドイツ人の友人は、「ポーランドマフィアを恐れているのかもしれない」と言った。

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その前の晩、ベルリン・オリンピックスタジアムでフランス―イタリア戦が始まるとき、私はやはり選手たちの方を見ていた。特に私はフランス代表の選手たちがどうするのか注目していた。とりわけフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が、世界中の人々が知っている、歌いやすい国歌でもあったからだ。

まずはイタリア代表… 1人を除いてイタリア国歌を全員が歌っていた。しかも心を込めて。国民としてのアイデンティティをどれだけ強く感じているかは、彼らの表情に表れていた。歌わなかった唯一の男は、デル・ピエロだった。その理由は私にはわからなかった。

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ところがフランス代表の番になると… 私は、このチームが本当に代表チームなのか、興味があるところである。なぜならスタメンの11人のうち5人が国歌斉唱の際、唇をかすかに動かす必要さえ感じていなかったからだ。

この筆頭としてキャプテンのジダンが挙げられる。他にはバルデス、リベリ、ブームソン、そしてアビダルが「ラ・マルセイエーズ」を歌わなかった。上で述べたように、唇を動かす必要さえ感じていなかったのだ。この選手たちのうち、ジダンとリベリがムスリムであることをあえて言う必要はおそらくないであろう。

だが、もう1つ気がついた点がある。試合の初めにフランス国歌を歌わなかった選手たちの何人かは、試合終了後に泣いていたのだ。正直、このサッカー心理に興味が引かれた。なぜ国歌を歌わなかったのか、そしてなぜ試合後に泣いたのだろうか。ナショナリズム概念を生み出したフランスは、この心理を説き明かす必要がある。

細かいことを1つ。フランスで、ムスリムに対する差別を最も強く批判するサッカー選手であるテュラムは、国歌を歌っていた。つまり彼の(差別に対する)批判的な態度は、彼のフランス人としてのアイデンティティとは無関係だったのである。

ドイツ代表の選手全員が国歌を歌っているのを聞いたとき、私は次のように思った。このチームにはトルコ系の選手がなぜ1人もいないのだろう。この国には250万人近いトルコ系の人々が暮らしている。そろそろ4世がサッカーを始める年齢になる。ポーランド系、そしてスイス系の選手が名前を連ねているのに、トルコ系の選手はなぜいないのだろう。

あるドイツ人の友人は、「なぜなら、お金を稼ぐことができる状況になると、すぐにイスタンブルに行ってしまうからだ」と話した。このことをドイツ人も我々もよく考えてみる必要がある。

ホテルの私の部屋に、一冊の大きな本が残されていた。「ドイツでもっとも優れたもの」というタイトルの本には、とても興味深い名前が載っていた。トーネットの椅子、ペルシ、モンブランの万年筆、アウトバーン、ギュンター・グラス、パンク歌手ニナ・ハーゲン、スコーピオンズ、ツェッペリン、生活レベルのシンボルとしてのドイツ警察、シューマッハ、クラウディア・シファー、メルセデス、BMW、フォルクスワーゲン、ウルトのねじ、ビルケンシュトックのサンダル、ニベアクリーム、そしてさらに多くの名前が載っていた。

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私はこの本の最初から最後まで目を通した。ドイツで暮らしている250万人ものトルコ系の人々を象徴する単語が1つだけあった。ケバブ… つまりドネル・ケバブである。ドイツで「多文化共生」を象徴する唯一の単語がこれである。

ヨーロッパの移民を受け入れた社会で、多文化共生がケバブという言葉一語に集約されてしまうのなら、代表チームの試合で唇はぴくりともするはずがない。今回のワールドカップの社会学と心理学について検討を加えるときには、この点こそ取り上げる必要があるのではないだろうか

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( 翻訳者:岩根匡宏 )
( 記事ID:2956 )