Ismet Berkan コラム:私を脅迫する「名無し」たちへ ― ディンク事件の余波
2007年02月01日付 Radikal 紙

特にフラント・ディンクが殺されて以来、電子メールを使って私に届いた、私への嫌悪感を伝えるもの、あるいは脅迫のメッセージの数が明らかに増えた。たとえば月曜日には52通、火曜日には47通、昨日この文章を書いている時点では35通の電子メールのメッセージが、私を嫌いという趣旨をさまざまな形で、もちろん全く丁寧でない表現で伝えるものか、嫌悪感に加えて私が殺されなければならないと書かれたものであった。

前にこの件については放っておくと書いたが、注意して見てみるといくつかの共通の特徴があることに気付き始めた。
例えば、こうした嫌悪と脅迫のメール全ての共通の特徴は、書き手の名前が分からないことである。
こうした人たちになぜ名前がないのか、なぜ名前やら何やら、どこにいそうなのかなどといった基本的な社会生活上の情報を与えないのか、理解の及ぶところではない。

より正確に言えば、脅迫の内容を含むメールであることを考えれば、これは理解できることだ。私がメールを検察に持っていけば、確率は低いもののもしかしたら司直による捜査が行われるかもしれず、書いた人は災難に巻き込まれるかもしれない。
一度などトルコ共和国のある省庁の、その人の名前の入ったアドレスから来た中傷のメールを検察に送ったところ、メールに名前のあった人物は「私は書いていない。恐らく私の利用者情報を使って誰かが書いたんだろう」と言っておとがめを逃れたのは愉快なことだった。

どうあれ、こうした嫌悪と中傷のメールの他の共通の特徴は、ホットメールやヤフー、ジーメールのようなウェブベースのもので、利用者がほとんど匿名のまま使える電子メールサービスから来ているということだ。
こうしたメールの書き手はほぼ、新聞の読者でさえないインターネットカフェの常連で、さらに同じ人物が複数のメールを書いていると考えることさえできる。

もう1つの共通の特徴としては、(メールの書き手が)フラント・ディンクが刑法301条によって、つまりこの国で生活するアルメニア人としてトルコ人であることを侮辱したということで罪に問われる原因となった(もとの)条文を理解できていないということだ。もちろんこのことについては彼らを非難しないでおこう。最高裁判所たるものが条文を誤って理解したことにより、そもそも自分と同じ考え方でない人に対して自制心を失っている人々に正しく理解するよう期待することは馬鹿げている。

共通の特徴ではないがよく見られる傾向があるのは、戦死者やASALA(アルメニア解放のためのアルメニア秘密軍)によって殺された外交官に哀悼の意を示したかどうかをそれとなく尋ねるグループだ。彼らはフラントが殺された後に悲しんでいる人が、(ASALAによって)外交官が殺されたときには喜んでいたと思っている。悲しまず、テロを恨めしく思わず、そのテロを生み出す不穏な空気を作り出すものに怒りを感じないことなどできようか?

***

他の人のことは分からないが、私はこのコラムで社会の見方を受け売りするようなやり方で、特定のカテゴリーや集団を直接標的にし、糾弾し、罪を問うような言い方は常に避けてきた。フラント・ディンクが殺された後でさえ、怒りの感情を抑えて、民族主義をひとまとめにして責めたりしなかった。そうしなかったためにラディカルの読者から批判を頂戴したほどだ。

残念ながら、社会(全体)として、深慮のなさや考えの蒙昧(もうまい)さ、寛容のなさ、どんな問題も「勝った」「負けた」の二分法でとらえる考え方、勝つためには手段を問わない不道徳さに向けて急速に突き動かされているように思える。
私を嫌う人や私を殺したいと思う人とは面識がない。そもそも彼らの名前すらない。彼らとの間に貸し借りもない。
私の唯一の望みは、よりよい国で暮らしたいということであり、より多くの人々が等しく民主主義の恩恵にあずかれるようになるために努めることだ。

ここで憲法を引用をしてみたいと思う。
「全てのトルコ国民は本憲法の定める基本的権利と自由の行使によって平等と社会的公正を享受し、国民文化、文明、および法秩序のなかで誇り高き生活を送り、物質的および精神的気質を発展させる権利および能力を生まれながらに有する」「集団としてのトルコ国民は、国民的名誉と誇り、歓喜と悲嘆、国家の存続に対して、権利と義務、幸運と困難、そして国民生活のあらゆる局面を共有する。また、相互の権利と自由の確固たる尊重、相互の友愛の精神をもって、『国内で平和、世界で平和』の願いと信念に基づいて平穏な生活を要求する権利を有する(※)」。

何か他の言葉が必要だろうか?


(※)引用箇所はトルコ共和国憲法前文。日本語訳は日本国際問題研究所の下記のものを参考にした。
http://www.jiia.or.jp/pdf/global_issues/h12_kenpo/07turkey.pdf

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( 翻訳者:穐山 昌弘 )
( 記事ID:10057 )