Meral Tamer コラム:トルコの絵画、ヨーロッパへ渡る
2007年06月16日付 Milliyet 紙

リスボンのちょうど真ん中にある、さまざまな種類の緑やカラフルな花々、樹齢100年の木々がまるで最も巧みな芸術家によって描かれたかのような広大な敷地の公園。そしてこの公園の美しさを基にデザインされた、天井から地面に達する大きな窓のある、自然と一体になった美術館。そもそも「美術館」という言葉では役不足である。ここは文化、芸術、学問を結集させた1つの世界なのだ。

イスタンブルに生まれ、ロンドンとパリで生活し、第2次世界大戦が起きると戦火を逃れてトルコに戻ろうとしたが、我が国が冷遇したためイスタンブルによく似ているという理由でリスボンに移り、人生の最後の13年間をこの街で過ごしたカルスト・サルキス・ギュルベンクヤンの遺言に基づいて作られた美術館に来ている。サバンジュホールディングのギュレル・サバンジュ代表取締役、サークプ・サバンジュ美術館(SSM)館長のナーザン・オルチェル教授、SSM収蔵のギュルベンクヤンが暮らしていた時代のイスタンブルを描いた絵画38点と、新聞記者の一団とともに・・・

今日は大切な日である。トルコの絵画芸術が初めてヨーロッパの主要な美術館で自らの居場所を見出だした。ちょうどトルコはヨーロッパなのか、違うのかという議論がなされている時代に、これは我々もヨーロッパの一員であることを人々に示す展示である。

■収蔵庫の絵画

展覧会を開くというアイデアは次のような形で浮上したそうだ:オルチェル教授の話によると、ギュルベンクヤン美術館の50周年記念で昨年SSMで開かれたギュルベンクヤン展が閉幕し、作品を片付けているときに収蔵庫で「寝かされた」ままになっているいくつかの絵がポルトガル人キュレーターの目に止まった。キュレーターは「これらは大変重要な絵だ」と言う。チャルル世代(※)やアヴニ・リフィジ、サーミ・イェティクとともにパリの同じアトリエから同じ時代に育ったポルトガル人画家たちがいたという。そして(今)、SSMからギュルベンクヤンの暮らしていた時代のイスタンブルの光景が描かれた38枚の絵と、ギュルベンクヤン美術館にある同時代のポルトガル人画家のサインの入った10枚の絵が、向かい合わせの壁に掛けられ対面している。ハリフェ・アブデュルメジト・エフェンディ、オスマン・ハムディ、ダヴィド・チュラジュヤン、イブラヒム・チャルル、アイヴァゾスキ、ファウスト・ゾナロ、スレイマン・セイイドという具合に...

■EUの今期議長国

ギュレル・サバンジュが強調したように、ヨーロッパの東の端はイスタンブルで、西の端はリスボンだ。(この展覧会では)2つの文化が合いまみえている。「2つの都市に、2人の重要な人物。サークプ・サバンジュはイスタンブル好きだった。ギュルベンクヤンもイスタンブルを愛していたらしい。2人とも大収集家だ。これは重要な出会いだ」。
まさにそうだ... その上ポルトガルは、2週間後にEU議長職をドイツから引き継ぐ。したがって首脳サミットを含め数多くの会議がリスボンで開かれる。やって来た人々は、世界で最も重要な美術館であるギュルベンクヤンに必ず立ち寄り、最初の1.5カ月はトルコの絵画も観賞するだろう。
ギュレル・サバンジュはとても満足しており、また我が国が1000点の巨大コレクションをトルコへ送るというギュルベンクヤンの申し出を拒否したことを嘆いている。「アルメニア人だといってギュルベンクヤン(の作品)を求めず、ヨーロッパとの文化交流を行うことを許可しなかったらしい。もし許可されていれば、今日違った地点に立つことができたのに。こういう訳で我々はまだ事を成し遂げることができないでいる」と話している。
CNNトルコのフェルハット・ボラタフ編集局長はといえば、「もしトルコが当時ギュルベンクヤンに『イエス』と言い、美術館を建てていたら、1924年の教育統一法(Tevhid-i Tedrisat Yasası)で国有化され、国民教育省に引き継がれていただろうに」と苦々しい皮肉を口にした。

今日の世界で文化と芸術によって存在感を示すことは、軍事的、経済的領域での成功と同じ位重要である。リスボンでこのことをいま一度思い出した。


(※)20世紀初頭、美工芸学校(Sanayi-i Nefise Mektebi)で学び、絵を学ぶためパリにも渡った芸術家の総称。1914年に第1次世界大戦が始まるとトルコに帰国し、絵画芸術に新たな潮流をもたらした。イブラヒム・チャルル、アヴニ・リフィジ、ナズミ・ズィヤー・ギュレンなどがいる。14世代(14 Kuşağı)ともいう。参考:イスタンブル大学芸術学部

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( 翻訳者:穐山 昌弘 )
( 記事ID:11163 )