Sahin Alpay コラム:フラントのために、正義のために-フラント・ディンクの一周忌に
2008年01月19日付 Zaman 紙

今日は2008年1月19日である。政治的殺害の犠牲となったアゴス新聞総編集長であり私の大切な同業者であり、そして親友でもあったフラント・ディンクを、一周忌を期に悲しみと敬意をもって偲んでいる。

アルメニアのヴァルタン・オスカニヤン外相は、1月17日付トゥデイズ・ザマン紙(Today’s Zaman)と本日付のザマン紙に掲載された記事で次のように述べている。
「エレヴァンに来る時はいつも、私たちは短くても話をするための時間を割いたものだった。トルコでの雰囲気を知るために彼と話をすることは大事なことだった。というのも彼は単なるトルコで暮らしているアルメニア人ではなかったからだ。彼はトルコ人とアルメニア人、どちらのアイデンティティにも誇りを感じていた一人だった。そして双方が理解しあえるようにと力を尽くしていた時に『トルコ性を侮辱した』と告訴されたために、自身を侮辱されたように感じていたし、それゆえに怒っていた」

オスカニヤン外相は非常にまっとうなことだが、次のことも強調した。彼に対する攻撃は「ひとりの個人にだけではなく、同時に思想や価値観に向けられた攻撃だった」
それはいかなる思想や価値観だったのか?折に触れてディンクがネシェ・ドゥゼルと語っていたことから思い起こしてみよう。

「オスマン時代のアルメニア人に起こったことが忘れ去られることはありません。ある民族が経験した苦しみ、歴史、先祖たちをどうして忘れることがあるでしょうか?トルコでは、アルメニア人に殺害されたトルコ人のための記念碑が建てられています。この記念碑は過去を忘れるために建てられているのでしょうか?忘却という概念は、好感をもてるものではありません。忘れずにそれと正面から向き合うこと、そして忘れずにいるが敵意を生み出さないという考え方が、人間によりふさわしいのです」

「トルコに対して、また世界のいかなる国家、議会、民族に対しても、『大虐殺を認めよ』と要求すべきではないのです。これはわが民族の悲しみであり、私はこの悲しみを誇りとして自分の肩に背負い、永久にそれとともに生きていきます。ある人たちが私のこの悲しみを共有することも、その人たちの人権や民主主義に対する姿勢に関係していることで、その人たち自身が判断することです。『トルコが大虐殺を認めますように』と私は言っていません。『トルコはこの議論を恐れていないことを、世界にそしてアルメニア人に示す必要がある』 と言っているのです」

「私はトルコで暮らす一人のアルメニア人です。誰であっても自分の国で模範的な国民になることができるのです。そしてまた自分と同じ民族が暮らす独立国家の存在とその幸福を願ってもよいのです」

「トルコを去ることを一時も考えたことはありません。私のルーツはここにあります。私が身を置いているこの社会に何も文句はありません。しかし国家がこれまでしてきた断定的な見方には言いたいことがたくさんあります。この国の中の異なる文化や人々を紹介する授業ひとつさえ学校にはないのです。いいや授業はおろか、説明文のひとつさえないのです。しかし民主化とともにトルコは近年、多様性に配慮するようになっています」

「トルコの民主化は、大虐殺を認めることよりもより重要です。民主化した国だけが気持ちをおだやかにして、歴史を清算し、諸問題を議論するリスクを負い、共感することも出来るのです。そして同じような事件がまた起こることを防げるのです」

「人はアルメニア問題を学び、理解した後にやっと『私にとってこれはジェノサイドだ、またはジェノサイドではない』というようにその出来事を認める、または認めないという判断をするのです。さらに言えば、外圧に強制されて、国家または政府がその問題を認めても、何の意味もありません。なぜなら現実を見る必要があるのは、社会であり、人々だからです。国家が良心をもつことはありませんが、社会や人々にはあります。実際、その問題を認識することは、『良心』と関係したプロセスなのです」 (ラディカル紙2007年1月22日付)

フラント・ディンクは死去したが、彼を代表する思想や価値観はもちろん生きている。裁判の進展は、殺害を決断した者たちが治安部隊の中にいるのではという疑念を強めている。殺害事件が、全関係者とともに白日の下にさらされることが、トルコにおいて法治国家が最初に乗り越えなければならない試練だ。

フラントの友人たちは、宗教、言語、人種、性別、政治的見解の違いを問わず、民族間の友好を信じる全ての国民に対し、ディンクを追悼するために本日(19日)3時に殺害場所への参集を呼びかけている。
国際フラント・ディンク財団は、2007年1月19日から23日の間に撮られた何千枚もの写真の中から選ばれた 「私たちは皆、フラント・ディンク」という写真集を出版した。
情報はこちらを参照のこと。 www.hrantdink.org

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( 翻訳者:幸加木 文 )
( 記事ID:12933 )