Semih Idiz コラム:欧米におけるエルドアン・イメージの変化
2011年06月07日付 Milliyet 紙

政権が公正発展党(AKP)の手に渡ったとき、エルドアン首相は「イスラム推進派」として広く知られているにも関わらず、欧米ではすぐに「トルコの新しい望み」と評された。首相に就任してまもなく、EUとキプロス問題においてその力を発揮し、従来の首相のイメージを覆した彼の手法は、欧米の国々に大きな驚きを与えた。

9月11日の衝撃が残る西側で「トルコがイスラム推進派のものになった」という恐怖は、すぐに過去のものとなった。エルドアン首相は「わたしたち(AKP)は、現状を維持するために立ち上がったわけじゃない」と発言し、国内外を問わず歓迎され、あっという間に「世界に影響力のあるリーダー」の仲間入りを果たしたのだ。

その後も、トルコ国軍との民主化闘争や、クルド問題について彼独自の発言は、名声を高める理由の一つとなった。そしてついに「改革者」と噂する人や「エルドアンはアタテュルクの後継者だ」と大げさに言う人まで現れた。

この間、イスラム的側面が濃厚な政治家であるにもかかわらず、民主主義に対する発言をもって「穏健イスラム」と呼ばれ、エルドアンはその代名詞となった。つまり、エルドアンは、長期的に見てアメリカからもEUからも支持されていたのだ。確かに疑問符がつくような発言もあったが、総合的に見て、彼は高い人気を維持した。

(デニズ・)バイカル氏が党首を務めた共和人民党(CHP)は公正発展党へ厳しい態度を取ったが、西側諸国はこれを「“改革異論者”や“アタテュルク信奉者(ケマリスト)”たちの“無駄な努力”」であるととらえた。

この状況はつい最近まで続いた。だが私たちは、エルドアン首相と欧米の関係に悪い兆候が見え始めたと考えている。

公正発展党の施策の多くは賞賛されるのに、首相は以前にも増して欧米で「神経質」「政敵に対し過剰反応」「批判に不寛容」「報道の自由に無理解」といったレッテルを貼られるようになった。クルド問題に関しても、現状維持的発言にかわることで、さらなる疑いを招いている。

このような現象は、エルドアン首相をここ最近批判した「エコノミスト」誌のみでなく、一時首相を褒め崇めてきた「タイム」誌でも顕著なのだ。同誌の最新号に載っているコラムで、首相は「人気絶頂にみえるが、トルコ史上最も分離主義的性格の強い指導者の一人の立場に至っている」と批判された。

タイム誌は、エコノミスト誌とまったく同じ論調を展開した。エコノミスト誌は「総選挙後に公正発展党は世論を無視し、自身の理念に沿った憲法改正を断行し、トルコにとって不利益な状態に陥る」と批判した。タイム誌も「新しい」共和民主党を支持する見方を示した。

しかし、エルドアン首相に関する欧米の論評が、彼のトルコ国内の政治権力やイスラム諸国において高まる人気に水を差すようなことは少ない、と見ている。首相が欧米を「歯の抜け落ちた怪獣」と見ていることが、何よりも如実にこれを示している。エコノミスト誌への激しい反発も、総じて内政への懸念によるものである。

エルドアン首相が今のこうした立場に至ったのは、明らかに「サルコジ=メルケル同盟」のためであり、アメリカがずっと盲目的にイスラエルを支援し続けたためである。エルドアン首相は、激しい発言を用いることで、これらの状況に対する怒りを自覚的に表にしているのだ。

トルコを真に理解できるかという点でわれわれが常に疑いを抱いてきたヨーロッパの側に、この問題の責任がないとはいえない。つまり欧米は、トルコを以前のように「適当な距離」ではあるが「味方」に付けられると信じきっているが、実は、そうはいかないだろう。「マハティール・ビン・モハマド(元マレーシア首相)」に手を焼いたのと同様、やがてエルドアン問題もおきてくるだろう。

前述のとおり、影響力があり、かつ「退任する」と発言しながらも政治において今後何年間も様々な形で影響力を行使することが確実視されるエルドアン首相が、欧米の目を気にするとは思えない。しかし、このままではトルコが西側のコミュニティの信頼を集めるメンバーであり続けることもできないだろう。

世論調査や調査結果からみても、トルコ世論の中の決して過小評価できない、公正発展党を高く評価している支持層が、欧米的価値観をもつということに関し、さして気にかけていないことがわかる。

つまり、トルコの「軸のずれ」が選挙後にさらに加速化していくという恐怖が欧米諸国を包み始めた。欧米のメディアで、(前述のような形で)エルドアン首相が取り上げられ始めたことも、何の影響はなくともトルコ人有権者に誰々に投票すべきか訴え始めたことも(注)、すべてこれに起因するのである。

【訳者注】英エコノミスト紙が、トルコ有権者に対しCHPへの投票をよびかけたことを指している。

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( 翻訳者:池永大駿 )
( 記事ID:22793 )