Mehmet Ali Birand コラム:仏「アルメニア法案」めぐり、トルコが初めて示した冷静さ
2012年01月25日付 Milliyet 紙

すでに過去のこととして水に流れたはずが、予想通りの結果となった。貴重な花瓶がこなごなになってしまった。

フランスで可決された法案(訳注)は、完全に政治的性質を帯びている。私たちは思う存分これに反発し、非難し、糾弾しよう。サルコジ大統領は、意図を達成した。大統領選挙に先立ち、(約60万人を占める)アルメニア系住民の票が(野党である)社会党に流れることを阻止し、また、トルコに対立する姿勢をとる大統領として、極右の票も取り込む合図となった。一方で、トルコのEU加盟の道をも妨害することとなった。つまり、自身がとった政治姿勢で、一石で複数の鳥を得たわけである。

フランス国民議会と上院における議論の過程はおそらくみなさんの注目を集めたことでしょう。(議会では)演説者のほとんど全員が、「虐殺」があり、それは トルコに責任があるという立場を支持していた。だれも席を立ってこれに反対の意志を表さなかった。私たちが実際に見落としていたのはまさしくこの点であ る。フランスだけでなく、国際的世論は、残念なことに、私たちが「虐殺」をしたという立場に立っているのである。現在議論されているのは、これ(虐殺) が、どのように罰せられるかということである。今後、さらに新しい制裁が話し合われることだろう。

2015年はアルメニア人にとってとても重要な年である。彼らには「虐殺」100周年であり、この年に全世界で「虐殺」を認め、トルコに罪を問い、罰しなければならないとしている。つまり、これは私たちトルコにとっても重要な年となる。

今日、私たちは、今後示す態度、踏み出すステップを、2015年を見越して案配し、それを意識して計算する必要がある。今回の反応は、今後の私たちが示すべき態度のサインとして認識されるだろう。

過度の反発は、私たちを孤立化させることになり、理不尽な立場に追い込むことになり、自らの首を絞めることとなる。忘れてはいけない、明日には(法案審議の点で)アメリカが控えている。また明くる日には、おそらく、ドイツあるいはスペインもこの一連の隊列に加わるかもしれないのだ。そのときどうするかについて、今から計算して動く必要がある。

目の前の(今後向かうべき)この細い道を考えると、エルドアン首相が昨日(24日)示した態度は、とても健全であると言える。フランスを糾弾する代わりに、トルコにとって不利益となる禁輸措置の代わりに、冷静な態度をとることが最も適切であると信じている。もちろん、反発はあるだろう。対策もとられるだろう。しかし、「ヨーロッパ」の一国として振る舞うことになる。

■ナンセンスな反発は自分たちを矮小化させるだけ

私が最も恐れているのは、エルドアン首相の冷静なアプローチを理解できず、今後この状況を利用しようとする可能性のある地方自治体、政党組織、NGO、協会などである。

今日まで、私たちはいつも同じ場面に出くわしてきた。路上に流れ出て、手に国旗と黒い花輪を持ってフランス領事館に向かって歩く。フランス国旗を燃やし、頭上 で手を叩き、互いにくだらない罵詈雑言を吐く。肉事業協会によるデモよりももっと大々的に行いたいと考えている毛皮協会、またほかのどこかの労働組合が路上にあふれ出ているといった具合に、(抗議の)競争が始まるのだ。特に、地方自治体が事に絡むと状況は絶望的になっている。

たとえば通りの名称変更について、「いやだよ、私は自分の権利を守りたいんだ」と言っているのにも関わらず、アルジェリア人の像が立てられるといった...。さらに馬鹿げているのは、過去同様に、フランス系学校に調査団が送り込まれるような「反応」があったことである。

識者ヤルム・エラルプが昨日(24日)CNN TÜRKでのコメントで指摘したように、叫んで反発を示すことは、ある点を越えると国際的世論における説得力を失う。しかし、だれもこれについて考えてこなかった。(いわば)内向きのショーが行われてきたのである。そのときから(反発を示すことの無効性について)軽視してしまったのである。

こうした理由により、エルドアン首相による今回の件への対外的な態度はまったくもって適切である。もちろん、今後も何が行われるとしても十分に計算することが必要である。

■しかし、トルコには多くの制裁措置専門家がいるようである(!)

トルコにおけるこの状況にとても驚いている。私たちは、ほぼあらゆるテーマについて考えをもち、何が行われる必要があるかについて話し合うことを好む。ある日審判がどのようにホイッスルを鳴らす必要 があるかを話し合っているかと思えば、次の日にはコーチがどのサッカー選手をどこでプレーさせればよいかについて知恵をしぼっている。

こうした中で最も流行の専門的話題の分野は、フランスに対してどのような態度を見せる必要があるかを説明することである。ああ、だれが何を述べているのか。
記者から学者、政治家から一般市民まで、だれもがある提案をもっている。だれにも知識はないが、だれもが考えをもっている。

私たちコラミストや、特に、すべてを知っているかのように話す同僚記者の数人に、特別なお願いがある。どうか、この社会を挑発しないでくれ。あなたたちが 大げさにするほど、一般市民はより落ち着きをなくしてしまう。そうなれば、結果的に私たち自身に不利益が返ってくるのである。

訳注:2012年1月23日に可決された「アルメニア人虐殺の否定を禁じる法律」

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( 翻訳者:萩原絵理香 )
( 記事ID:25325 )