Cengiz Candar コラム:トルコはどれほど、戦争に近いのか?
2012年10月06日付 Radikal 紙

<b>「ただ『戦争反対』とだけを叫び、シリアでの内戦に関しては何も言われないような国には、シリアに対する抑止力も残らない。」

有名なアメリカ人学者であるジョン・ミアシャイマー教授は先日トルコに滞在していた。シカゴ大学のミアシャイマー教授が世間に知られるようになったのは、 ハーバード大学の同僚ステファン・ウォルト教授の共同著書「Israel Lobby and the U.S. Foreign Policy(イスラエルの圧力団体とアメリカの外交政策)」がきっかけである。

この著書は、イスラエルの圧力団体がアメリカの決定メカニズムにどのように影響してきたかを、今まで出版されてきた本の中で最も詳細な文章で語っており、 2007年に出版され、特にアメリカで大きな反響を呼んだ。このような著書を執筆することは、特にアメリカにおいては大きな「知的勇敢さ」を必要とする。 また、この「知的勇敢さ」は、その宗教的背景から、ジョン・ミアシャイマー教授にとって普通以上に必要であった。

ブルジュ・ブルトがジョン・ミアシャイマー教授に行った興味深いインタビューが、先週水曜日にイェニ・シャファク紙に掲載された。アメリカの主要「国際関係」学者のひとりであるミアシャイマー教授は、意図するしないに関係なく、トルコのシリア対策にも触れており、その中で以下のように述べていた。

「我々は、本当に混乱した世界に向き合っています。私は次のことをはっきり言わせてもらいます。すなわち、今日トルコが全ての隣国と、同時に、良好で問題の無い関係を築くことは不可能だということです。特に、イラン、イラク、シリアとは深刻な問題が起きる可能性があります。例えば、もしトルコがシリアへの派兵決定を下したら、イランとの関係は悪化するでしょう。今の世界では、各関係において均衡を得ることは本当に難しくなっています。このため、トルコがどの外交政策をとったとしても、必ずそれに不満を持つ国が出てくるでしょう。」

ミアシャイマー教授のこの記事が掲載された日、アクチャカレへの砲撃で子供3人とその母親を含む5人が犠牲になり、トルコとシリアの関係は今までないくらいに悪化した。政府が、シリアも含む外国に対し兵を送る権限をトルコ大国民議会(TBMM)の非公開の会議で覚書(テズケレ)という形で獲得し、さらに国際連合安全保障理事会も招集されたとなると、トルコでは「たいへんだ!戦争が始まる!」という懸念が拡大した。

ミアシャイマー教授の「トルコはどの外交政策をとったとしても、必ずそれに不満なものが出てくる」という発言は、特にトルコ国内の状況にも当てはまる。タイイプ・エルドアン政権は、「戦争という選択肢」を選ばないよう、ほとんど不可能な困難なことを試みているが、世間には、政府がこの選択肢を選ぶのではないかという恐れが広まっており、―オピニオンリーダーも含め―、世論の大部分はアクチャカレでトルコ人が亡くなった砲撃の後さえも、シリア政権に怒るより先に、「たいへんだ!開戦への罠にはまったのでは」と大騒ぎになった。

アクチャカレへの砲撃の後、オピニオンリーダーらが注目し、自問した事項は下記のとおりである。

1-アクチャカレ事件は、もしやシリア反体制派が我々(トルコ)を内戦に引き込むためのひとつの挑発だったのか?

2-アクチャカレ事件は、もしやシリアのアサド政権派がトルコを戦争に引き込んで戦争の長期化を図り、自身の余命を伸ばすための戦略・挑発だったのか?

3-トルコは戦争の罠にひっかかるのか?

4-もしや、アメリカの策略になのか?

5-トルコは、シリアの反体制派を支持せず、今日までと違う政策をとっていれば、このような事件も起きなかった。アクチャカレ事件は、この間違った政策の結果なのか?

何の具体的な根拠もなく、でたらめな一連の問いかけと、これらから生まれる懸念。そして、これらを新聞のコラムで発言するオピニオンリーダーたち。

この種のオピニオンリーダーを抱えている、そんなトルコの世論に対し、政府もまた、簡単な逃げ道を見つけたかのようである。政府は、「報復をした」と発表し、そうなると政府寄りの各紙は「一晩中シリアに砲撃した」などという見出しをつける。こうして、我々は、バッシャール=アサドに思い知らせているのだそうだ。

シリアへの抑止と国内世論の間で行動を制限され、八方塞がりの現政権に、多くを期待しても無理というものだ。セダト・エルギンは昨日、世論が政府のシリア政策にどれほど反対しているかを数値で示していた。

これによれば、ドイツ・マーシャル基金(GMF)が6月にPiar社を通じて行った調査によると、「トルコはシリアに介入すべきか」という質問に対し、回答者 1009人のうち57%が「絶対に介入しないべき」と答えている。「介入すべき」とした割合は32%である。絶対不介入の57%のうちの3/4は、国連の枠組みにおいての介入にも反対である。

Andy-Ar調査社は3251人を対象にしており、政府の対シリア政策を肯定的に見る人の割合は18.3%であった。否定的に見る人は 67.1%である。ヴァタン紙がゲズィジ調査会社を通じて6460人を対象に行ったアンケート、ハベルテュルクがコンサンスュス社を通じて1500人を対象に行った電話調査、その他の同様の調査全でも、上述のものと一致する結果になっている。

さらに、コンサンスュス社が8月24日~9月6日の間に行った調査によれば、「トルコの軍事介入」について、8割の人が「反対」と答えている。

これらすべてを、トルコ世論が「戦争反対」であることを裏付けるひとつの指標としてみることはもちろん可能だが、一般的に政権に近いとされているメトロポル社の調査において、「シリアからの難民をキャンプに迎えること」にさえも「反対」とする人の割合は52.3%に達する。公正発展党 (AKP)支持者の間でも、この「反対」意見の割合は50%である。

政府の外交政策―シリア政策と言っておこう―を認めないのはわかるが、「シリアからの難民」に関するアンケート結果は、トルコ世論が次第に「良心を失い」始めていることを示している。これは全く良いことではない。世論がこのように形成された国では、いいか悪いかは別として、いかなる方法でも外交政策というものがなくなってしまう。現政府は、たとえどれだけ外交政策の誤りを指摘されたとしても、シリア問題については、トルコがシリアに関して、「アフガニスタンと場合のパキスタン のように」なることは防いできた。パキスタンは、1980年代、もっといえば1970年代末から、アフガニスタンを「遠隔操作」することに決めたアメリカの「前線基地」となり、このことで大変な被害を受けてきた。

トルコが、シリア問題に関して、単独行動は望んでいない、という印象を与えているのは、注意深くみればよくわかる。

トルコは、その南部国境を接しているシリアが「中東のアフガニスタン」になることを望んでいないように、自身も「中東のパキスタン」にはなりたくない。

このため、誰も心配することはない。現政権はシリアでの内戦に関わらないよう最善を尽くすだろう。

しかし、空虚に戦争反対を叫んで、政府に反対し、批判する人、「罠にひっかからない」ように警告する人々はみな、次のことを覚えておく必要がある。「トルコは歴史から逃れられない。その地理環境を変えられない。何万ものシリア人の苦難に背を向けられない。」

「戦争をしよう」と言っている人は誰もいない。しかし、シリアに対し何をしてはならないかではなく、何をすべきかについての意見を言ってもらった方が、皆にとってもっと有益であろう。

ただただ、「戦争反対」とだけ叫び、シリア政権に対し何も言われないような国には、シリアに対する抑止力も残らない。このような状況は、トルコをがむしろ「戦争に巻き込む」ことになる。

戦争に反対する人々が、本来気を付けておかねばならないのは、この点だ。

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( 翻訳者:津久井優 )
( 記事ID:27799 )