Hasan Cemalコラム:シリアのクルド勢力の権力闘争
2012年11月18日付 Milliyet 紙

クルド人は、シリアのクルディスタンを西クルディスタンとも呼ぶ。250万から300万人のクルド人がその地域に住んでいる。
しかし、900キロに及ぶトルコとの国境にそって居住しているものの、シリアのクルド人はこの地域で、北イラクとは違って一つの地域にまとまって住んではいない。
バアス党時代に何年にもわたって行われたアラブ化政策の結果、シリアのクルド人の居住地には飛び地的にアラブ人が住んでいる。
シリアのクルド人は政治的に分裂している。一方では18の大小様々な組織やグループがある。これらは多くはメスト・バルザーニーに近く、イラクのクルディスタン政府から援助を受けている。
もう一方には民主統一党(PYD)がある。
PKKのシリア(における関連組織)支部である。

シリアのクルド人が住む地域を現在支配している最も強い武装組織がPYDであることには何の疑いもない。ダマスカスのアサド政権から支持を受けていることに関しては様々な見解があっても、このことが真実である可能性は高い。
トルコはPYDとは対立している。
トルコ政府の空気は以下の通りだ。
「シリアにもう一つのカンディルは望まない」
トルコ政府は、シリアのクルド人の中でメスト・バルザーニーの影響力が強いことに味方しているように見える。バルザーニーはシリアのクルド人がPYDに奪い取られるのを望んでいないのは、間違いない。しかし、PYDの力に気づくのに少し遅れたバルザーニー氏は、できることならこの地域でPYDと武力衝突することは避けたいと思っている。

彼は私との会話で、PYDがシリアのクルディスタンにおいて一つの現実であり、トルコも含めた周辺諸国もこの現実を受け入れる必要があると指摘した。
トルコ政府はまだこの「現実」を受け入れていない。例えばダヴトオール外相はアルビルで、シリアのクルド人が一堂に会し、バルザーニーによって編成された代表団と、PYD党員を除外した形で面会した。
一方、シリア軍から離れたクルド人兵士からなるセラハッディン・トゥガユという名の武装勢力がPYDに対抗するものとして利用されるとか、トルコからシリアのクルド人居住地に直接通じる道路を作る作業が行われるとの憶測もある。
以下に、私がシリアのクルド人の二翼を代表する二人の人物とアルビルで行った長い会談の要約をそれぞれ挙げる。

自由党のムスタファ・ジュマ党首:「PYDはアサドと秘密の協力関係にある」

バルザーニーに近く、PYDとは対立している自由党のジュマ党首は、「イラクとの国境はすべてPYDの支配下にある」と述べ、PYDはアサド政権の動きと連動して動いていると話す。


ムスタファ・ジュマ党首は65歳で、シリア・クルディスタンにおける自由党の党首である。バルザーニーと近く、PYDとは対立している。大小さまざまな18の組織やグループの中で二つある大きな政党のうちの一つの党首だ。
46年間政治の世界にいる。
21年間ベイルートで亡命生活を送っていた。
バアス党の監獄を出た。
9人の子供がいる。最も年上は、20歳と21歳の娘と息子で、イラク・クルディスタンのセラハッディン大学で学んでいる。
週の頭にアルビルにあるディヴァン・ホテルで会話した時、トルコ・コーヒーのブラックを頼んでいた。

■「体制の問題」

PYDが現状を支配していることを彼は隠さなかった。
「PYDはPKKの傀儡だ。アサド政権ではなく、一部の地域は完全にPYDの手に落ちた。ここ3‐4日は、ドゥルベスィヤ、テルテミル、ゲレカニの各地区でもPYDが実効支配している。アフリーンとコバーニーも、3‐4か月間彼らが支配している。カムシュルとデリク・ハムコでも実権はPYDが握っているが、アサド政権の機関も機能している。武器があり、機関銃もある」
彼は以下のように続けた。
「PYDは、アサド政権の動きと連動して動いている。秘密裏の、そして水面下での協力関係がアサドとの間にある。PYDは権威主義的で全体主義的な組織で、コバーニーでは私たちを弾圧していて、武器を使っている」

■シリアは非常に複雑

話題はトルコに移った。
「トルコの恐れは、PYDがシリアのクルディスタンにあるということから来ている。PYDにトルコ政府は断固として反対している。二か月前我々はダヴトオール外相と、10人からなるクルド人会議のメンバーとして話し合いの場を持った。しかしダヴトオール外相はクルド人会議のメンバーのうち5人のPYD党員の同席を拒否した」
「PYDはシリアで、どのようなものかはっきりしないが民主主義的な自治政府を望んでいる。私たちは自治区や連邦制を望んでいる」と述べた自由党の党首は以下のように続けた。
「シリアは非常に複雑な地域だ。アラブ人、クルド人、カルデア人、アッシリア人、チェルケズ人、アルメニア人、トルクメン人がいる。アラブ人はスンナ派とアレヴィー派、ドルーズ派、シーア派、さらにはキリスト教徒とごちゃごちゃである。シリアには、それらすべてが平和のもとに、一つ屋根の下で暮らせるような構造やバランスが必要だ。そのようにならなければ、シリアの戦争は終わらない」

■トルコがカギを握る

トルコがカギを握る役割を演じうると自由党の党首は考えている。
「イラクであっても、シリアであっても、トルコであっても、クルド人(問題)はいずれある結論に達する。このことに関して疑いはない。クルド人の大多数がトルコに住んでいることを忘れてないでほしい。トルコが問題解決のカギを握る役割を演じうる。しかしこれには前提条件がある。それは、トルコが自国のクルド問題を解決することだ。そうすれば、PYDも問題ではなくなるということを覚えておいてほしい。オスマン朝時代にはイラク、シリア、トルコのクルド人は、クルディスタンという名の一つの地域に住んでいた。それに加えて、イランに住むクルド人もいた」

■国境の現状

セラハッティン・トゥガイらについて彼に尋ねると、以下のように話した。
「内部にいくつかグループがある。アサド軍から離れたクルド人によって形成されている。武装グループだ。私たちに近く、PYDからは遠い。時々、自由シリア軍と共に行動している。アレッポ地区とアフリーン地区にいる」
自由党のムスタファ・ジュマ党首は私たちとの会話である一点をより強調した。
「イラクとの国境はすべてPYDの支配下にある」

シリア・クルド人のPYD代表レショ

PYD代表ドクター・ヴィジダンというコードネームをもつムハンメド・レショは、シリア政府との提携を否定し、「トルコは間接的な介入を行っている、我々をバルザーニーと争わせようと」と述べている。


■アルビル

名前はムハンメド・レショ、コードネームはドクター・ヴィジダン。43歳。自身は口にしないが、調べた所、1992年にアレッポでPKKに加入した...。公式な肩書きは、PYDの南クルディスタン(イラク・クルディスタン)代表。彼と週の初めにアルビルにある平和民主党(BDP)代表部で長いインタビューを行った。彼はトルコ語を知らないのでクルド語で、私はトルコ語で話した。

■提携はない

PYDは2003年9月20日に設立されたとし、次のように続けた。

「シリア政府との公的な提携はない。対話もだ。しかし地方で問題が発生し、そこで中央政府の関係者と解決に取り組む際には、対話や接触を行う。このプロセスでシリアで蜂起が始まるや、クルド人がそこに赴かないよう指示が来た、ダマスクスから、クルド人と衝突しないようにと。つまり闘いの対象を減らすために。」

次の点も強調した。
「シリアの社会構造は、チュニジア、エジプト、リビアとは異なっているのはわかっている。それに基づいて、準備と組織化を行った。」

PYDとしては、シリアでの第三極を目指した策を抱いているのを、次のようにまとめた。

「第三極とは、自由シリア軍やアサド体制ではなく、クルドの利益のための…。シリアのクルド人たちに圧力をかけてはいない、あらゆる挑発にも関わらず…。時に牽制や小さな衝突はある。」

「トルコとバルザーニーが協力して、PDYに仕掛けてくるのか」と尋ねた。

■第三極

この私の質問に明確には返答しない。この点で、アルビルで私が感じた印象は次のようにまとめられる。

「PYDは、バルザーニーとトルコ政府の関係の深さを認識している。幻想は抱いていない。だが、そもそもバルザーニー自身もPYD同様、第三極を主張している。バルザーニーもイラン(サファヴィー的)、トルコ(オスマン的)、いずれの影響下に収まることも望んでおらず、その影響外にとどまることを示唆している。バルザーニーとトルコ政府との間に密約があるのではとの問いをPYDは無視しているわけではない。だが、忘れてはならないのは、バルザーニーの名前は、今日クルディスタンを巡る政治の代名詞となっていることだ。バルザーニーがPYDに仕掛け、流血の事態となれば、自身(の名声)は失墜し、クルド人らへの影響力にもダメージが生じる。」

■自由シリア軍からは民主主義は生じない

上記の点を、ウイークデーにおこなったインタビューでバルザーニーにぶつけると、彼は注意深く聞き入った。シリアのクルド人と衝突することを決して望んでいないとしたが、また衝突するという選択肢を-最終的な判断で-完全には閉ざしていないということを示しもした。

PYD代表ムハンマド・レショは、再びトルコについて触れた。
「トルコは間接的な介入を行っている、我々をバルザーニーと争わせようと。自由シリア軍内部のセラハッティン・トゥガイといった勢力が、挑発してくる。扇動のためにカミシュリ、アフリーンで、最近ではコバーニーでいくつかの事件が生じた。」

密約に触れ、話を次のように続けた。
「セラハッティン・トゥガイは、隠れ蓑だ。実のところ、バルザーニー(の勢力)であり、背後にはトルコがいる。バルザーニーは表立って行動はしない、クルド人会議の決定もあるので。たとえば、トルコ側のジェイランプナルに隣接するシリアのセリカニ地区では地雷の除去を行っている、トルコからの通路を設けようとしているのだ。シリア自由軍はここからセラハッティン・トゥガイを隠れ蓑に進入しようとしている。」

ムハンマド・レショは最後の言葉を次のように結んだ。
「自由シリア軍とは、ムスリム同胞団のことなのだ。彼らの中から民主主義や民主化は生じない。クルド問題を解決しようという歩み寄りもない。我々は民主的なシリア(国家の建設)を望んでおり、クルド人の権利や(それを擁護する)法律を担保する民主的な連立を望んでいるのだ。」

(本記事はAsahi 中東マガジンでも紹介
されています。)

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( 翻訳者:菱山湧人 )
( 記事ID:28282 )