Ismet Berkanコラム:トルコの政治的イスラム、中東の政治的イスラム
2013年07月07日付 Hurriyet 紙

エジプトの軍事クーデターに対し、ムスリム同胞団が平和的な抵抗以外に、なんらかの反発を示すか否か、まだ分からない。

しかし、このクーデターの影響がエジプトのみにとどまらず、さらにクーデターはその様相しだいによっては全イスラム世界に様々な影響を及ぼすことになるのは明らかに見てとれる。

おそらくわれわれトルコ人は、タハリール広場(エジプト)で起こっていることにあまり気づいていないが、トルコではある時から活発に議論される「政治的イスラムは死んだか」論争は続いており、折々に盛り上がりを見せている。
この議論は世俗主義者とイスラム主義者の間で起こっているのではなく、すべてイスラムの伝統を重んじる人々の間で議論されており、新聞や雑誌に記事が載り、自治体は公開ディスカッションを企画し、このテーマについてテレビでも討論が交わされている。
「伝統的(正統)イスラム」を、必要ならば、武力でもたらすという意味での「サラフィー主義」は、トルコではあまり受け入れておらず、したがって否定される潮流である。このため、私の理解する限りでは、この議論の焦点は「多元的な道徳価値観を有する(それゆえ民主主義的な)社会で、政治的イスラムの狙いなどといったことがいまだ議論されうるか?」という問いに対するさまざまな見解から成り立っている。
つまり、我々が知りうる従来の問題は、「イスラムと民主主義は相容れるものなのか?」「選挙で政権を獲得する政治的イスラム政党は、『他者』の権利を侵害しようとするものなのか?」「選挙で獲得した政権を、選挙で再び手放すだろうか?」ということである。
こうした議論は簡単には決着がつくものでも、一つの結論に達するものでもない。
トルコは、もちろん、こうした議論が行われている他の地域と比べ、かなり異なる立場にある。どれほど「人口の99%がムスリム」である国に我々は暮らしていると頭では認識していても、先日のゲズィ公園の抗議運動は再び証明したのだ、この国では多元主義が根強いことを。トルコにおいてはイスラムでさえも多元的である。宗教にルーツを持たない、根強い多元主義の伝統も存在するのである。

トルコの特異な立場と状況はさておき、話をエジプトにもどそう。
エジプトのムスリム同胞団にとっての最大のライバルは、暴力を一度も本当の意味で拒否したことのない「サラフィー主義」の潮流である。そして今日、そのサラフィー主義者らはクーデターを起こした軍人らとともにいる。その傍らにいわゆる「リベラリスト」、「世俗主義者」、そしてキリスト教徒がいる。5つのまったく似つかない集団による連合だ。しかし忘れてはならないのは、クーデターに至るまでにエジプトでなされた議論の本質も、「イスラムと民主主義は両立するのか。多元主義的な社会の中で政治的イスラムはどのようにあるべきか。選挙によって選ばれたものは選挙によって去ることになるのか」ということであった。
現在、クーデター後、ムスリム同胞団内での議論の論点が変わってしまったらしいと聞く。「民主主義は信用できるのか」「我々が選挙で選ばれたからと言って政権を渡してくれるのか」「イスラム社会の理想を民主主義なしに達成すべきであろうか」などだ。
エジプトからリビアやチュニスへ、シリアからヨルダン、カタールへ、パレスチナからイラクにかけて広まっているムスリム同胞団地域で、クーデター後戸惑いが広がっている。こうした戸惑いの一つの重要な要素は、アメリカを筆頭として欧米国家がクーデターを非難しなかったことである。(一番強烈な非難はトルコが行った。しかしアンカラでさえもクーデター後の新しい体制を憲法違反とはみなさず、エジプト情勢への懸念を表明しただけだ)
一方で、タフリル広場で連日集まっている大勢の人々がイスラム同胞団に対して、「多元社会」に反するものであると語っているが、どれほど正しいことなのか、私にはわからない。
エジプトで多元社会が求められていることは間違いない。しかし、国家をクーデターで転覆させその後もクーデターを称賛するような集団が本当に頭を悩ませていたのは、ムスリム同胞団を政権から排除することであり、自らの権利が保障されることではない。
トルコにおける政治的イスラム論争が何らかの決着を見ずともいいと思う、ただ単にこうした議論が存在するということが、ここでの多元的伝統に関し、前向きに考える理由となるのだ。
一方、エジプトを筆頭として広範囲な中東地域における政治的イスラムの議論で最も重要な問題となっていた、「選挙で選ばれた政治的イスラムは選挙で去るだろうか」という問いが、クーデターのせいでこの先ずっと問われないであろうことは確かなようである。



本記事はAsahi 中東マガジンでも紹介されています。

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( 翻訳者:山本涼子 )
( 記事ID:30722 )