Cengiz Candar コラム:「危険なそろばん勘定」―エルドアン、PKK、シリア
2015年08月01日付 Radikal 紙

PKKに対してはじめられた爆撃の連鎖は、本来はHDPに圧力をかけ、近い将来シリアでPYDやYPGをも標的とするという目的をもった「解決策」の序文に過ぎない。

タイイプ・エルドアンがインジルリキ空港を使わせる代わりにアメリカからえた「クレジットカード」の有効期限は、一部の人が考えているように、長くはないかもしれない。(エルドアンは)アメリカと始められたかにみえるISに対する、明らかに限定的で不承不承の協力関係を、本来の意味で、「トルコ対クルド紛争」にかえ、これを内政における自身の権力闘争の道具に替えてしまった。

トルコの側からは非常にはっきりと見えていたこの「すり替え」は、国外からも、徐々により多くの人により認識されはじめた。西側世界の多くの組織との不協和音は、そもそも、蜜月とは言えないような米土の関係の上にも、望むとと望まざるとにかかわらず、反映していくことになるだろう。

権威あるイギリスの週刊誌The Economistは今日発行される号で、この件で先陣をきる。「トルコとシリア」の特集のなかに「エルドアンの危険なそろばん勘定」という記事をのせ、トルコ国内で賢明で良識的な人々がみな考えていたことを、記事にした。記事の最後のパラグラフでは、そのどれもが正しいが、今日のトルコの現実とは符合しえない要望、別の言い方でいれば願望を、列挙する。

「エルドアンの横暴な態度は、トルコを、中東の混迷で煮え立つ炉の上に置くという危険性をはらんでいる。AKPは、大統領の計画に耳をかたむけてならない。中道勢力との連立の道をとるべきだ。クルド人との和平交渉に戻らなくてはならない。PKKは、30年以上にわたり、悲しみ以外は生み出さなかった闘争をやめ、停戦を再び宣言すべきだ。(中略)もしもトルコ人とクルド人が互いに武器を向け合うのではなく、その武器をISに向けたなら、これは、トルコ、中東、そして世界にとってよりよいこととなる。」

では、こうした警告、あるいは希望、願望は、どうして現実的ではないといえるのか?タイイプ・エルドアンが中国までつれていった(彼に近い)ジャーナリストにいったことをみれば、彼が、「MHPの閣外支援をえて、総選挙にむけた少数派政府をつくる、そして一刻もはやく選挙へ」という計算をしていることは、明々白々だからだ。

タイイプ・エルドアンの目論見は、7月7日の夜以来、ずっとそうだったのだろう。そのうちに、この目論見を実現するための下準備をしはじめた。下準備とは、インジルジキ空港の使用とひきかえに「アメリカからのクレジットカード」でクルド人をたたくこと、このやり方で「解決プロセス」と呼んでいた停戦状況に終止符をうつこと、こうした手段を講じMHPの手に「反クルド・民族主義」の駒をもたせ、その一方でMHPをAKPの補欠集団にして、トルコを一歩一歩選挙へと向かわせること、だった。
 こうしたことが進んでいる最中にも、CHPとは「いい関係の」記念写真がとられ、あたかも本気で連立政権をつくりたいと思っているかのような時間稼ぎの連立交渉が行われている。

タイイプ・エルドアンの次のことばは、論評が必要でないほど、明確だ。

「連立の折衝から、前向きの結果がでるにはでた。もしでていなかったら、すぐにも国民の意思をとうところだった。再び、決定を国民が下せばいいのだ。そうすれば、今現在のような状況から一刻も早く救われるのに。
 私が反対するのは、少数派政府が長く続くことだ。選挙まで、というなら、少数派政府だって可能だ。任務を与えられた政党に、他の政党が閣外協力をするというやり方での少数派政府で、トルコを選挙に向かわせることができる。」

トルコの「国家の統合」に責任をもつはずの大統領が、その国で1か月前に600万の票をえ、しかもそれを平和主義的態度を示したがゆえに手にしたトルコのひとつの政党の党首に対し、次のような言葉を述べるとは・・・、しかも、暴力に満ちた2015年の中東とトルコの状況下で!

「11月6~8日の事件で、現在「いわゆる」国会議員となっている人物が何をしたかは明らかだ。今、彼らは議員特権の剥奪やその他の件で、今までとは違う対応をしている。決めるのは議会だ。この人物に、次のことを聞かねばならない。『アメリカもEUもテロ組織だといっている組織を、君もテロ組織だといえるか?』と。その反対に、連中はシリアも含め、テロ組織を守ろうとしている。」

エルドアンが標的としている人物は、80人の国会議員とともにトルコ国民議会に議席をもつ党の共同党首だ。11月6~8日事件というのが、エルドアン自身が(クルド人にとって、非常に重要な町である)コバーニーについて「陥落するぞ、するぞ」と、いい知らせ知らせるかのように触れ回ったせいで生まれた反感から発生したものであることは、誰でも知っている。エルドアン自身ですらわかっている。しかし、そうしたことを棚にあげ、セラハッティン・デミルタシュを標的にしている。それも、クルド政治を平和的な路線ですすめようとしたために、トルコ人からも目に見えてその信頼を獲得しつつあるデミルタシュに対し。

こうして、「国内の平和」の観点で、トルコ政治のここ何年かのもっとも大きな収穫が、思いもよらないような浪費により、個人的な権力の駆引きのために、失われようとしている。

さらには、シリアのPYDや、ISに対し戦場でもっとも効果的な戦力としてアメリカと協力関係にあるYGPをも、テロ組織のカテゴリーにいれようとしている。

ここからわかることは、PKKに対してはじめられた爆撃の連鎖は、本来は、HDPに圧力をかけ、近い将来シリアでPYDやYPGをも標的とするという目的をもった「解決策」の序文に過ぎない、ということだ。

そもそも、行間を読むどころではなく、エルドアンは次のようなにはっきりいっているのだ。

「いま、北シリアでおきていることも、一つの国をつくろうとする試みだ。北シリアで、東から地中海まで回廊を作ろうとしている。ISは、ジャラーブルスで、彼らのその目的の障害となっていた。それゆえ、戦ったのだ。しかし、トルコは、いいテロリスト、悪いテロリストといった区別はしない。テロリストはテロリストだ。」

良く読めばわかるように、ジャラーブルスやロジャヴァにいるISのことをを、テロ組織だというPYDやYPGを阻む勢力だというのだ。政権寄りのメディアの「PYDはISよりもっと危険だ」という態度が、トルコの大統領の見方からきていることは明らかだ。

この「危険な政治」は、PKKのトルコ国内の武装組織HPGがジェイランプナルで二人の警官を殺害したと表明してことをうけ、急速に現実的なものになった。そして、その表面に掛けられた「合法的なカバー」により、アメリカをも引き寄せ、すくなくとも、欠損なく進められている。

この時点で、アリ・ブラチが昨日、ザマン紙に書いた「いい知らせでない」というタイトルの記事の次の文章は、一考に値する。「PKKは、警官を殺したと発表したという!いったいどのPKKなのだろうか?(PKKのトルコ国内組織である)KCKの25%は、国家諜報局に人間だという話すらある。ほんとうかどうかは知らないが・・。もっと興味深いのは、あれから一週間もして、PKKがあれは自分たちのやったことではないと発表したことだ。カンディルにいるKCKの渉外担当報道官のデミハト・アギトは、ジェイランプナルでの警官殺害はPKKの犯行ではないと発表した。PKKが、以前にも、また、今現在も、同様のテロをしていないとはいわないが、北イラクへの越境攻撃の理由とされた2名の警官の殺害とスルチでの爆弾テロは、国の内か外の組織が意図的に行ったものではないかとの印象を私は受けている・・・・・。」

つまり、
「危険なそろばん勘定」ということだ・・。

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( 翻訳者:トルコ語メディア翻訳班 )
( 記事ID:38338 )