Cengiz Candar コラム:シリアにおけるトルコ―孤立と、継続不能な過ち
2015年10月01日付 Radikal 紙

エルドアンとダヴトオールによる「シリア政策」は、トルコが「中東におけるアフガニスタンの隣国パキスタン」になるという以外、もたらすものは何もない。

そして、ロシアの航空機が9月30日、シリアへの爆撃を初めて行った。アメリカ当局から発表されたこのニュースは、ロシアの防衛省から遅れて発表された。

「バラク・オバマとウラジーミル・プーチンの間の不和と、月曜日に行われた国連総会のスピーチでの対立は、もっと深い現実を隠している。今日のシリア政策に関し、両首脳は近年に比べて比較的綿密な連携をとっている。この結果、両国間を飛び交う険しいレトリックとは裏腹に、一部ではアメリカがバッシャール・アサド政権の延命を図り、「イスラム国」を名乗るISに対してロシア政府と連携していくのではないかという見方も出ている。」

上記の文章は、先日アメリカのインターネット雑誌『ポリティコ』誌に掲載された、「アメリカとロシアは、シリア政策で対立しているのだろうか?もう一度考えてみよう」という記事からの抜粋だ。

オバマ大統領とプーチン大統領は昨日(9月30日)も、ケリー国務長官、ラヴロフ外相を伴ってニューヨークで首脳会談を行っている。オバマ大統領が国連総会でのスピーチで「シリア問題でのロシア・イランとの連携」についてふくみを持たせ、これを「最も重要なテーマ」としたことは忘れてはならない。さらに、以下の「情報」も注目に値する。

「8月、ケリー国務長官とラヴロフ外相、サウジアラビアのアーデル・アル=ジュベイル外相がドーハで会談した。この会談で3国は、「シリア反体制派の人物」と、「政治的解決を支持し得る穏健な人物」のリストを用意するという決定に至った。これらのリストは、次のステップにおける「政治的過渡期」のためのプラットフォームを築くべく結合させるはずだった。
しかしこの交渉は暗礁に乗り上げた。ロシア側のある関係者は、「私たちは38人の名簿を作成したが、アメリカとサウジはこの宿題をやってこなかった」と述べる。各国の外交官4名が明らかにした情報によると、イランの交渉への参加をロシアが求めたことが、サウジの疑惑を呼んだという。」
(9月28日付フィナンシャル・タイムズ紙より)

これは些事のように見えるが、ここ最近の情勢を考えると非常に重要なことだ。いったい何を示唆しているのだろうか。それは以下の2点であろう。

1. 米露はシリア問題に介入する」2つの「メインアクター」である。両国の間には意見の食い違いがあるが、その一方でシリア問題に関する交渉は継続している。この交渉における「地域的アクター」としてまず、両国はイランとサウジアラビアの参加を画策した。
2. トルコは、シリアの隣国であり、「穏健なシリアの対立国」のひとつで、さらにそれらの国々の中でも家長的存在である。さらに政府与党は自らを「中東におけるゲームメーカー」だと宣言している。そうした事実にもかかわらず、トルコは「蚊帳の外」に追いやられている。

これらは理屈に合わないし、容認できる事態ではない。トルコは、同盟国であるアメリカにインジルリキ基地を提供しているが、アメリカは「シリアにおける過渡期」のための「穏健な反体制派リスト」について、ロシア・サウジと議論し、しかもその場所はドーハだ。「中東におけるゲームメーカー」であるトルコには見向きもせず、したがってアンカラ、あるいは「シリアの穏健な対立者」の中心地であるイスタンブルではない。同じくロシアもこのような態度を取っている。

しかしながら、トルコがロシアとの協力にあれほど意欲的だったのをロシアが知らぬはずはあるまい。2013年9月のG20サンクトペテルブルク・サミットの共同記者会見で、エルドアンがプーチンに向かって「トルコを上海5(上海協力機構)に加えてほしい、そうすれば我々はEU加盟問題から救われる」と発言するほど、トルコはロシアに接近していたのだ。

したがって、シリア問題でのトルコとの協力にロシアが消極的なのは、あのような「お粗末な」態度を気にしているのが理由であるはずはない。ロシアは根本的に、トルコ政府の「イスラム主義」やISに対する弱腰な姿勢といった態度を信用していないのだろう。

月曜日(9月28日)に、プーチンは国連でのスピーチでもこのことについて言及しており、ロシアのメディアでは連日、「ISには2000人ものロシア連邦出身者がいて、彼らは帰国後ロシア国内で武装活動を行うだろう」ということが強調されている。ロシア連邦内のチェチェン、ダゲスタン、北カフカス地方や中央アジアからISに合流するルートは、トルコだ。

ロシアが軍を集結させているシリアのラタキアを脅かすのは、武装勢力「ファタハ軍(征服軍)」だ。「ファタハ軍」はトルコが支援するサラフィー主義の「シャーム自由人運動」、それと同盟関係にあるアルカーイダのシリアにおける下部組織「ヌスラ戦線」から成り、ロシアはこれらをすべて「テロ組織」と認定している。

トルコが求める「安全地帯」は、すなわち、ISとはつながっていない、そしてロシアがテロ組織と認定するこれらの武装勢力が支配する地域となるだろう。これを実現させるべく「飛行禁止空域」を設けるためには、アメリカ空軍の協力が欠かせない。しかしロシアは最近、大量の地対空ミサイルをシリア政権側に給与したばかりだ。

アメリカも一連の理由から、そして自国に与えるリスクが大きいとして、トルコが要求する「安全地帯」と「飛行禁止空域」の設置には冷淡な姿勢を貫いている。

さらにトルコが掲げるシリア政策に対して、ドイツのメルケル首相が新たな「冷たいシャワー」を浴びせた。9月29日(火)、ベルリンで開かれた与党(キリスト教民主同盟)の集会で、トルコの提案する「安全地帯」の欠点を指摘し、「もし(安全地帯における)安全が保証されなければ、スレブレニツァよりもさらに凄惨な状況を生んでしまうだろう」と述べたのだ。

このメルケルの発言の意味はこうだ。
①われわれは「安全地帯」の安全を保つことができず、陸軍の派遣もままならない。特に最近ロシアが軍を結集させてから、その可能性はまったくなくなったと言っていい。
②こうした状況下で「安全地帯」に移住させられるシリア人たちは、1995年ボスニアで起きた「スレブレニツァの虐殺」の時のような、常に虐殺と隣り合わせの危険にさらされることになる。

トルコのシリアに関する主張が現実的になるためには、国際的な協力を広く取り付けなければならない。ロシアとイランの姿勢はこの時点で障害だ。それだけではなく、アメリカをはじめEU、ドイツの後ろ盾も必要だが、これもない。

このような状況下でこの政策を実行するためには、トルコ軍をシリアに派遣し、広範な地域をコントロール下に置くしかない。これが「唯一の策」だが、可能性はあるだろうか。これもないだろう。
トルコによるシリア政策のハンデとして、まず「現場との乖離」という大きな欠陥があるが、国際政治の構造とそぐわない「意図の不一致」が挙げられる。
シリアと中東の運命を左右しうる国々、世界の大国の多くは、「ISとそれに類似した集団」を「最優先に対処すべき最も大きな脅威」であるとし、それらの集団を「現場で食い止めているクルド勢力」を好意的に見ているのだ。

しかしトルコの考える「脅威の順序」はそうではない。「クルド勢力」そのものが、トルコ政府にとって「最大の脅威」なのだ。エルドアン大統領は、PKK(クルディスタン労働者党)とつながっているとしてHDP(国民の民主主義党)を「悪魔化」するのに腐心し、ダヴトオール首相もニューヨークで、PYD(シリア民主統一党)をシリアにおける「悪魔」だと説いた。冷静な人々の誰も説得できなかったが。

エルドアンとダヴトオールによる「シリア政策」は、トルコが「中東におけるアフガニスタンの隣のパキスタン」になるという以外、もたらすものは何もない。悪い結果しか待っていないだろう。
こんなことになる必要はまるでなかったのだ。なぜこうなったのか?
理由については次回の記事で議論することにするが、これだけは今知っておくべきだと思う。
シリアに対するトルコの立ち位置は、とうの昔から「維持できる」状態ではなくなった。これ以降、徐々にトルコは災難に引きずり込まれていくだろう。

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( 翻訳者:今城尚彦 )
( 記事ID:38788 )