シリア:「アンサール・スンナ」とは何者なのか
2025年07月16日付 al-Mudun 紙


■「アンサール・スンナ」がスワイダーを脅かす…宗派主義的なタクフィール言説の再来

【本紙】

混乱と分裂の渦中において、「アンサール・スンナ旅団」はシリア南部の緊張地帯へと介入し、自ら「イデオロギー的浄化」と称するものによって、スワイダーのドゥルーズ派コミュニティを脅かしている。

2日前に発表された同グループの声明は、長きにわたって、この地域のジハード主義組織の遺産の一部であった宗派主義的なタクフィール(背教者宣告)の言説を再び前面に復活させた。

しかしそのタイミングとレトリックは、文言それ自体を超えた疑問を投げかける。なぜ今なのか?ネット上の影から現実の脅威へと変わり始めているこのグループの背後には誰がいるのだろうか?

〈最新の声明:崩壊の瞬間の血塗られたメッセージ〉

「アンサール・スンナ」の司令官であるアブー・アーイシャ・シャーミー師が署名した声明において同グループは、アラウィー派やキリスト教徒を標的にしてきた過去の記録を想起させるかのように、はっきり殺害や拷問によってスワイダーのドゥルーズ派を脅迫した。

声明は、「数か月前、我々のムジャーヒディーンはヌサイリー派グループの殺害、拷問、追放を行った。神の許しが得られるのであれば、我々は近日中にこれを再び、スワイダーの地で、ドゥルーズ派という背教者らに対して行うだろう。彼らに、彼らが安全だと思っていた場所まで我々の手が届くことを知らしめよう。神は守護者であり、至高なる支援者である」と述べた。

この脅迫は、同グループが今年2月にダマスカスのドゥワイラア地区にある聖マール・イリヤース教会の爆破実行を主張して以来、同種のものとして2度目である。この事件では25人が死亡し、シリアでキリスト教徒を標的にした宗派主義的な攻撃としてはこの数年で最大のものとなった。

しかし、最新の声明の文言は異なる。それはより過激で、シリア南部を襲っている政治と安全の空白という状況のなかで、ドゥルーズ派だけでなくシリアの社会全体に向けた二重のメッセージであった。

〈スワイダーでのエスカレーションの背景:なぜ今なのか?〉

今日のスワイダーは、その近代史上もっとも危険な瞬間のひとつを迎えている。ここ数日で、かつて直接的な暴力から比較的距離があることで知られていたこの街は、ドゥルーズ派武装集団とベドウィンの諸部族の間の開かれた戦場へと変貌した。突如としてぼっ発した衝突は、民間人と双方の戦闘員を含む30人以上の死者を出し、シリア軍がコントロール回復のために正規軍が投入する事態となった。

しかし軍の介入はスムーズなものではなかった。暴力的な衝突が地元の諸派閥との間で発生し、そのうちのいくつかはヒクマト・ヒジュリー師や地元の軍事評議会とつながりがある組織だった。事態は治安部隊や軍の死者の遺体を晒すほどまで悪化した。これは、過去の戦争期に国が経験した、道徳と安全が崩壊した時期を思い出させる光景であった。

それと並行して、スルターン・バーシャー・アトラシュのような、ドゥルーズ派の国民的象徴に対する侮辱を表した動画が拡散した。これらの動画は社会の亀裂を深め、怒りに火をつけ、嫌悪に満ちた環境を作り出した。この環境こそが、「アンサール・スンナ」のような過激派組織が復活できた肥沃なる土壌となり、混乱や宗派主義的な応酬が、彼らの言論に栄養を与える酸素となったのだ。

〈アンサール・スンナ旅団とは何者なのか?〉

アンサール・スンナ旅団は、2025年初頭、アブー・アーイシャ・シャーミー司令官によって設立された。彼は「シャーム解放機構」の元司令官であったが、自ら「他宗派に対する寛容」と表現したものによってそれを離脱した。アンサール・スンナ旅団は、ダマスカスのドゥワイラア地区にある聖マール・イリヤース教会を爆破したとき、はじめて自身を公表した。それ以来、その名はシリア人たちの間で、厳格なタクフィール主義計画を掲げる新たなジハード主義勢力として繰り返し言及されてきた。

しかし、我々の前にあるのは本当に伝統的なジハード主義組織なのだろうか?それともいまだ形成過程にあるのだろうか?

ジャーナリストでジハード主義組織の研究者でもあるスハイブ・インジュライニー氏は、この質問に以下のように答える。「私たちが話しているのは、一連の組織やはっきりとした構造ではありません。既知のヒエラルキーや、公開された意思決定メカニズムもありません。グループはまだ形成段階にあり、一部の人々が目下組織化を試みている、いわば偶発的な状態に近いものです」。

インジュライニー氏によると、グループはその活動をいわゆる「ローンウルフ」の手法に頼っている。つまり、支持者らに単独作戦を実行するよう促し、実行者が形式的に組織に所属していなくても、メディア上でこれらの作戦の犯行を主張するというものだ。同グループの「テレグラム」上のチャンネルには、後日発表するために作戦の写真を受けとるための専用のボットがある。

〈歪んだイデオロギーか、それとも「イスラーム国」の模倣か?〉

「アンサール・スンナ」が発表した声明を分析すると、「イスラーム国」の明白な影響が見て取れる。彼らの発表物では、イスラーム国の元報道官であるアブー・ムハンマド・アドナーニーの言葉の引用が繰り返されている。その言説は「忠誠と信任」、「イデオロギー的浄化」などにあふれているが、明確な政治的プロジェクトを欠いている。

インジュライニー氏は以下のように述べる。「今のところ、同グループは首長国の建国や土地支配のための計画について話していません。グループの根本的な目標は、将来のシリアの混乱における居場所を確保することのようです。治安の不備が長期間続けば、彼らの状態は現場での地位を確立した実体的な組織へと変貌するかもしれません」。

〈実際に軍事力を有しているのか?〉

推測によれば、アンサール・スンナ旅団はハマー、ヒムス、沿岸部の一部の山岳地帯といったシリア各地に配備された約1,600人の戦闘員を擁しており、南部での活動を増加させている。しかし聖マール・イリヤース教会の爆破を除き、彼らが大規模な作戦を実施したという現場上の有力な証拠はない。

彼らが、以前沿岸部で起きた火災やその他の虐殺の犯行を主張していることは、彼らが実際に関与していることを必ずしも意味しない。インジュライニー氏は以下のように述べる。「彼らは、メディアでの存在感を高めるために、自らと関係のない事件の責任を主張することもあります。沿岸部の火災に関する彼らの投稿は、そのあとに環境破壊と森林焼却を理由に政権を非難する投稿をし、自らの言論の矛盾を露呈したために嘲笑の的になりました」。

〈スワイダーの声明とは?〉

スワイダーにおけるドゥルーズ派への脅迫は、危機的な瞬間に行われた。内部的衝突、軍事介入、集団避難、社会的崩壊、これらすべてが宗派主義的な言説をエスカレートさせる温床を提供した。同グループは、舞台上のプレイヤーとしての存在を確立するためにこの状況を利用しようとしている。

今日多くの人が抱いている疑問は、「アンサール・スンナ」は単なるメディア上の張りぼてなのか、それとも機能を持つ実体なのかということだ。もしくはそれは、将来的に、新生シリア国家を脅かすような実際的な組織に変貌しつつある組織なのか、ということだ。

専門家らによれば、実際には答えは両方かもしれないという。このグループは現段階では、混乱を利用するメディア上のぜい弱な組織かもしれないが、治安と政治の崩壊という状態が続けば、真なる脅威となる可能性がある。

〈新国家は存亡の危機に直面〉

アフマド・シャルア大統領率いるシリア移行期政権は困難な試練に直面している。「アンサール・スンナ」のようなグループに対抗することは、安全保障上の対立だけではなく、アサド政権崩壊後にシリア国民に約束された民政国家の計画にも関係する問題だ。

スワイダーにおいては、状況はより深刻だ。ドゥルーズ派はシリア社会にとって不可分の存在であり、彼らを包摂する社会的な合意なしに安定した国家の実現をイメージすることは困難だ。しかし「アンサール・スンナ」が投じるタクフィールの言説は、このバランスを脅かしており、簡単には終わらないであろう紛争の扉を開こうとしている。

〈形成されつつある危険〉

この種のグループに対抗するための明確な戦略がない状況で、もっともも重要な疑問が残されている。移行期政権はこの危機を未然に防ぐことができるのか?それとも、「アンサール・スンナ」の声明は、シリアを最低の悪夢に引き戻しかねない、血塗られた混乱の新たな連鎖の始まり以外の何物でもないのだろうか?答えを知るには時が経つのを待つほかない。しかし確かなことは、今日シリア南部が新たな爆発の瀬戸際にあり、おそらく「アンサール・スンナ」の声明はそのもっとも危険な兆候のひとつであろうということだ。

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( 翻訳者:鈴木美織 )
( 記事ID:60500 )