《巻頭》エネルギーの宝庫でありつつ電力不足の国(10-42:3-6)
2014年11月03日付 The Voice 紙

 経済発展の進むミャンマーにとって、発展の推進力であるエネルギーは切実に必要となってきている。

 現在、ミャンマーは大変に豊富な天然資源やエネルギー資源を売ることで国家収入を得ている。
 ミャンマーへの海外直接投資(FDI)の最も多い分野は電力とエネルギー分野であり、政府の公式統計によると、今年9月末までのFDIの最も多い2分野は電力分野と石油および天然ガス分野で、それぞれ190億米ドル強と150億米ドル強、全国の分野別投資率にして約39%と約30%強である。
 しかし、ミャンマー国内での電力普及率は未だ30%に満たない。
 エネルギーは経済発展の勢いを滞らせないための主要な推進力であり、未来のエネルギー安全保障のために政府がどのような政策をとっているのか知っておく必要がある。
 国家エネルギー管理委員会の結成、国家エネルギー政策の策定、全国村落電力供給法の制定など、多くの政策、法律、規則の作成と遂行を、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)と日本国際協力機構(JICA)の支援で進めている。
 しかし、アジア開発銀行のミャンマー担当局長であるウィンフリード・F・ウィックレイン氏の言葉に勢いはない。
 「ミャンマーはエネルギー資源が大変に豊かな国家であるが、一人当たりの電気使用量は大変に少ない。一回のエネルギー輸出協定でも永年的な契約になっているのが難題の一つだ」と同氏が語った。

エネルギーの宝庫

ミャンマーにエネルギー資源が豊富であることは、政府がしばしば打ち出している。
 ミャンマーは鉱物が豊富であるとともに、2832kmの長さの海岸線一帯に世界的にも貴重な石油と天然ガスの宝庫がある。
 沿岸の深海、浅瀬、あるいは内陸にある諸鉱区で発見されている天然ガスの埋蔵量は11兆8000億立方フィートであることがアジア開発銀行の調査報告で明らかにされ、他に10兆立方フィート、20兆立方フィートという数値も出されている。
 石油埋蔵量も約5000万バレルから2億1000万バレルと報告がなされている。この埋蔵量のうちには、まだ採掘されていない分が多く残っている。
 ミャンマーの主要な河川は4本あり、全土の総発電電力量10万メガワットをも達成しうる300ほどの水力発電計画が立案可能である。現在、電力供給している計画は60強ある。費用を抑えられる再生可能エネルギーのひとつである。
 ミャンマーは温帯に位置し、乾燥地帯も多くあって、雨季の5ヶ月を除いて太陽の光を存分に受けられるため、再生可能エネルギーの一つである太陽光発電も利用できる。

石油と天然ガスの宝庫

ミャンマーの石油埋蔵量は5000万から2億バレル以上、天然ガス埋蔵量は10兆立法フィートに達すると国際的に推測されている。
 ミャンマーで見つかっている天然ガスの量は世界でもトップクラスであるが、現在の採掘量のままでいくと、今後30年もたたないうちに、見つかっている天然ガスは尽きてしまう。
 ミャンマーはタイに対し、ヤダナー天然ガス鉱区とイェーダグン天然ガス鉱区から30年契約で年に3000億立法フィート強の天然ガスを輸出している。ガスの輸出はそれぞれ1998年と2000年に始まった。
  韓国企業の大宇(Daewoo International)がヤカイン沿岸でシュエ天然ガス田を発見し、2008年にはシュエ鉱区から天然ガス6兆5000億立法フィートを中国に20年契約で売る協定が結ばれた。天然ガス・パイプラインを通じて1日に24億立法フィートを中国へ輸出している一方、国内向けは6000万立法フィート、割合にして2.5%に過ぎない。
 ミャンマーにはヤダナー、イェーダグン、ゾーティカ、そしてシュエの4つの天然ガス鉱区があり、うちヤダナー、イェーダグン、ゾーティカ鉱区から1日に15億立方フィートの天然ガスを輸出しており、毎年の天然ガスの生産量は3500億立法フィートある。
 しかし、天然ガスをエネルギーとして有効に使用するためには技術が必要である。
 天然ガスを運送業分野において役立てるには、圧縮天然ガス(CNG)に変換せねばならず、そのために高い技術が必要になる。
 「ここでは、タイのようにガスを圧縮できる態勢が整っていない。つまり、タイから逆輸入して使わなければいけない。ここで作っている圧縮天然ガス(CNG)よりタイのものの方がだいぶ優れている」とエネルギー省の高級技官が語った。
 毎年の石油生産量も600万バレル強あり、2012-2013年度には619万7000バレル、2013-2014年度には611万8000バレル、今年度6月までで156万6000バレルであることを中央統計局が明らかにしている。
 現状、石油と天然ガスはミャンマーの最大の投資分野であり、国家の最大の収入源となっている。
 しかし、ミャンマー国内で使用するための電気やその他のエネルギーは足りていない。

水力発電

 エーヤーワディー川、タンルウィン川、チンドウィン川、スィッタウン川は、ミャンマーを流れる大動脈である。この4本の河川から枝分かれして、多くの支流、分流、湖沼がある。
 バイオマスと呼ばれるオーガニック燃料を、水力から最も多く取り出すことができるのであり[※下記校閲者注参照]、ミャンマーの総発電電力の70パーセントを占めている。さらに、水力から再生可能なエネルギーを取り出して使用することができる場所は[未開発の場所も含めて――校閲者註]300箇所以上ある。それらの場所からは10万メガワット以上の発電能力を得ることができる。
 現在、稼働中の水力発電計画は60以上あり、国内電力のために3000メガワットちかく発電している。さらに、実現の可能性の高い水力発電計画が92あり、4万メガワットの発電が見込まれる。
 ミャンマーの電力需要が毎年10%あがるという予測ならば、未来の消費電力は2030年に2万3000メガワット強、予備電力と合わせると3万メガワットちかくになることを電力省が明らかにした。
 その需要を満たすために水力発電より石炭に頼ろうと政府は考えている

石炭

 ミャンマーでの現在の発電の内訳は、水力が約70%、天然ガスが約30%、石炭が2%となっている。
 しかし、2030-2031年度に全国の電力普及率100%を達成するため、石炭の使用を増やしてゆくことになる。電力省のデータによると、現在の石炭での発電は120メガワットであり、2030-2031年度には石炭から7940メガワット発電できるようにしてゆくということである。
 その数値を見てみると、16年間で現在より66倍以上も石炭の使用が増えることがわかる。全国の総発電電力の33パーセントを石炭で賄うことになる。

灰色VS緑色

 電力供給のための短期計画として政府の責任者らが石炭を優先させてきたが、自然環境学者や社会学者たちは反対している。
 「石炭を使用すると二酸化炭素が排出され、環境を汚染するし、国民の健康にも被害をもたらす。しかし、彼ら[政府――校閲者註]は石炭に比重を置いている。環境破壊を軽減できるというならば、受け入れられる」とエネルギー開発委員会のウー・ウィンチャインが語った。
 石炭火力発電所では、高度な技術を要するクリーン・コール(精炭)を使い、海外の基準値に合わせ、環境破壊を最小限にしてやっていくと電力省は語る。
 「クリーン・コールというのは、実際のところ、作るのが簡単ではないということを理解しなければならない。また、私たちの国にそのようなものはない。買って使わなければいけない。石炭のために環境破壊が進むというのは否定できない。どれほどクリーンであると言っても、100%保証することができる技術だとは思わない」と気象学者ドクター・トゥンルィンが語った。
 石炭の使用によって環境を破壊するほか、付随する問題として、異常気象、自然災害、生態系全体の変化などが起こり得ることを自然環境学者たちが懸念している。
 しかし、電気需要が高まってきているミャンマーにおいて、石炭は安価でかつ市場で確保しやすく、短期間で発電できるようになるため、最も都合がよいと電力省は言う。
 環境破壊を小規模に抑えるために高度な技術を使って石炭で発電するならば、所要経費が膨らむほか、基準を満たす火力発電所1基を稼動するのに最低5年の時間がかかるとウー・ウィンチャインが語った。
 「私たちは、天然ガスで稼動するガスタービンと小型・中型の水力発電の計画を優先して進めるよう提言した」と同氏が語った。
 ミャンマーは世界で異常気象の影響が2番目に酷い国であり、自然災害の被害も同じく2番目に酷い国である、しかも、21世紀末には気温が5℃上昇し、気温上昇の度合いが世界で最も大きくなるとドクター・トゥンルィンが語った。
 しかし、電力需要を特効薬の石炭で解消しようと政府は考えているのである。
 現在、ミャンマー全土への電力供給のために火力発電所を設置するよう力を注いでいると政府が発表している。
 ミャンマーで発見されている石炭の量は約4億6500万トンであると、鉱山省は見積もっているが、正確には、採掘可能なのはその内の1%ほどだけである。
 ミャンマーでは2つの火力発電所が稼動中である。シャン州にあるティーチッ石炭火力発電所が主力であり、120メガワットを発電している。もう一つはコータウンにある。
 目下のところ、石炭火力発電所を9基建設するため、2010年後半から国内外の企業と同意文書を調印しており、ヤンゴン管区域で4つ、タニンダーリー管区域で2つ、エーヤーワディー管区域で1つ、ザガイン管区域で1つ、シャン州(東部)で1つ、計画がある。
 それらの計画が決行される地域の住民たちが強く抗議していると同時に、自然環境学者たちも批判をしている。
 「国民が信じられるように説明することだ。説得できるならやればいい。これ(石炭)に関して言わなければいけないのも疲れた。無理矢理にするべきでない。きちんと進めていく必要がある」と自然環境学者のウー・ウィンミョートゥーが語った。
 石炭以外のエネルギー資源を利用して発電する手段がいくつもあり、特に、ミャンマーにおいては水力、太陽光、バイオマス燃料などをバランスよく使うことができると同氏が述べた。
 エネルギー資源のなかで温室効果ガスである二酸化炭素の排出が最も多いのは石炭であり、自然環境だけでなく、社会生活や健康にも甚大な被害をもたらす。したがって、石炭の使用を増やそうというのは、安価であるという一点だけを取り上げて、その他諸々を犠牲にすることである。
 「民主主義国家において、決断を下すのは国民である。国民の賛同や承諾のないまま推し進めるべきではない」とドクター・トゥンルィンが語った。
 ともかく、環境破壊を最小限にするために高度な技術を駆使し、質の良い石炭で発電を行うと電力省は約束をしている。
 豊富な天然ガスで発電できるガスタービンは、2年以内に完成させられるうえ、大規模に発電できるのであるが、ミャンマーの天然ガスは近隣諸国のためだけのものになっている。
 ミャンマー国民のためにはというと、輸出分と調整して得られる限りの余りのガスだけを20年、30年と使い続けていくことになる。
 緑色のエネルギーより灰色のエネルギーを使うことに力を入れている政府の責任者らは、近隣諸国や域内諸国における現在の石炭の使用状況と比較して見せつつ、ミャンマーでも石炭をバランスよく使用してゆくと言う。
 石炭に関して、多くの疑問がある。
 日本で使用されているクリーン・コールのようなものを使うとすれば、採算がとれるのか、近隣国で閉鎖された工場から機械を安い値段で買い入れて運営するのか、それらの工場ではクリーン・コールを使うことができるのか、石炭の純度を保証することができるのかといった多くの疑問があるとドクター・トゥンルィンが語った。
 世界で石炭による発電は30%強であり、世界全体の石炭消費量の70%はアジア太平洋地域の国々である。
 石炭消費量トップの国々には、ミャンマーと国境を接している中国とインド、域内国家の一つであるインドネシアが含まれている。
 中国とインドの二国の石炭消費量は世界全体の石炭消費量の約60%にあたり、両国の都市部では煙害が発生して、多くの人々の健康を害しており、石炭工場を閉鎖したり、技術を向上させたりしていかなければならなくなっている。
 隣国であるミャンマーも、タバコを吸わないのに煙を吸わなければならないように、石炭の害悪に長年、苦しまされている。
 ミャンマーで石炭使用量をさらに増やすというこのたびの政府の発言は、国家を暗い未来へ導いていないか、計画大綱をつくる知識人や企業家たちの動きをよく見ていなければならない。
 石炭のために、肺の病気になったり、腎臓を患ったりというような悪い影響がでてきたならば、誰が責任をとるのかとドクター・トゥンルウィンが疑問を呈した。
 「これは、人間も蝕むだろう」と気象学者のドクター・トゥンルィンが淡々と語った。

※校閲者注:原文のママ。ここでは、バイオマス燃料に関する理解に誤りか混乱があるものと思われる。通常、水力発電をバイオマスとは呼ばず、またバイオマス燃料の生産に水力が用いられることも考えづらい。

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( 翻訳者:松浦 宇史 )
( 記事ID:1157 )