メコンデルタにおける旱魃・塩害との戦い:数百万の農民の二重の苦しみ
2016年04月13日付 VietnamPlus 紙


 広大で肥沃な土地という優れた点をもつメコンデルタは、長い間、国の「食糧安泰ナンバーワン」地域としての地位を確立していた。この地方の重要性は次のような数字によっても示されている。メコンデルタは国土の面積の13%を占めているだけであるが、稲作だけで計算すると作付面積は全国の47%、米生産量の56%を占めている。
 しかしながら、ここ数か月間、長引くエルニーニョ現象と、メコン川上流の多数の水力発電所の建設によって下流域に流れこむ水量が減少している影響により、過去100年の間で最も深刻な旱魃と塩害が起こっている。
 これまでのところ、この歴史的な大旱魃に何か月にもわたって戦ってきたが、メコンデルタの河流域に住む数百万人の農民は、淡水不足のため、困窮した状態に陥っており、「がちで貧しい」少なからぬ家族は今や、収穫がすべて無に帰してしまったため、難儀な生活を送らなけれならない。

1.メコンデルタ:大干魃により稲が焼け、エビが死亡する

 莫大な水量(110億㎥)を誇る、2つ淡水窪地(ロンスエン・クアドラングルと一時期のドンタップムオイ)によっておおわれた広大な田野の至るところに行くと、今や干上がり、地力の死に絶えた土地だらけとなってしまっている。

  穀倉の貧困

 午前11時。西部地方の焼けるように熱い日差しの下に立っている、チュオン・ブオルさん、83歳。彼はソックドン村(バクリエウ省、ビンロイ県、フンホイ社)に暮らすクメール人だ。時々、腰を曲げて、焼けて萎れた稲わらの下にある、まるで墨のように黒く染まった籾を拾い上げている。
 ブオルさん一家は7人家族である。一家の収入源は33コン(33,000㎡に相当)の水田に頼ってきた。これまで、毎収穫期の平均で、この老農夫一家は1コン当たり(訳注:1コンは約1/10~1/7ヘクタール)約900kgの籾を収穫できた。一方今年は、日照りと、水田に塩水が深く侵入したことにより、稲の生命が奪われた。
 「今までに稲を植えた田全体が、収穫がまるでなく、家族の‘米鍋’を救う方法がない」と、ブオルさんはため息をついた。
 隣りの田では、ブオルさんの息子の嫁であるファム・ティ・ランさんと、その12歳の子供の姿が、地表からちらちらと見え隠れし、のどの渇きのために口をぱっくりと開けていた。たびたび、母親は体をかがめて、稲わらを拾い上げもみの種を拾い、袋の中へ投げ入れた。そうする度に、息子は、満腹になるくらいの食べ物をあたかも見つけたかのように、忍び笑いした。
 ランさんたち家族だけではなく、ビンロイ県(バクリエウ省において最も稲作が盛んな地域)の農民の、ほとんど全ての稲田は、現時点までに、もう望みがなくなっている。稲田のいたる所にわたって、緑色は残っていない。それに代わって、干からびた黄色一色になっている。
 ビンロイ県の担当部門の見積もりによれば、現在1万2,000ヘクタールを超える稲が、日照りや塩害の被害を受けている。その中でも最も甚大な被害を受けているのがフンホイ社であり、総面積では1,000ヘクタール以上の稲が枯死している。
 キエンザン省を通る途上では、稲田の至る所で稲が枯れ、地面はひび割れ、農民たちは途方に暮れている。ウーミントゥオン、アンビエン、アンミン、ビントゥアンなどいくつかの県では、人々が移動して土を掘り起こし、耕作するための水を求め、飢餓から「救える」ようひたすら期待をかけている。
 ベンチェー省を見てみると、当地はメコンデルタの各省と比べ、最も大量に田んぼに海水が流入している。今までに、「自然の恵み」の収穫期の稲田の大部分が水の枯渇により枯死している。まだ生きている稲田も、稲は花や実をつけていない。
 「この数か月間、天は私たちを『いじめ』すぎだ。地割れが起きては稲が実らない。わたしの家の田んぼのように運河に接していても、運河では塩水ばかりで使えず、水不足だ」。フーレ社(ベンチェー省バーチー県)に住む農民、トゥートゥーさんは悲しげに語った。

   稲を救いエビを殺す…

 淡水の枯渇による稲の不作だけではなく、メコンデルタの多くの地方にある数千の人工的で広大なエビ養殖池もまた重大な影響を受けている。農民のエビの養殖池すべてが干上がってしまった地方もある。
 バクリエウ省だけを数えても、現時点までにザーライとホンザンの2県にある6,000ヘクタール以上のエビ養殖池が甚大な被害を受けている。その中で干上がってしまった人々のエビ養殖池も多い。原因は多くあるが、根本的には水不足と長引く厳しい日照りによるものだ。
 ザーライ県経済室副室長のチュン・ヴァン・チウ氏によると、海水不足の現象はバクリエウ省が淡水を守る方針を採っていることによるものだという。同省の国道1A北部地方とソクチャン省に隣接する地域の2万ヘクタールの稲を「救う」のに注力するため、海水を引き込む水門を開かせていないのだ。
 「これまでに、淡水を守られている各地域における稲の生産性についてはまだ具体的な統計が取れていないが、ザーライ県の2,600ヘクタール以上のエビ養殖池が海水不足によって重大な被害を受けている」とチウ氏は本音を漏らした。
 海水不足によってエビが死ぬことについてさらに詳しくチウ氏は語った。ザーライ県は海に面している地方であるため、海水と淡水の調節は非常に複雑になる。通常、海水を引き入れるとエビは生きられるが、稲に影響が出る。だが一方で海水を止めるとエビは死ぬ、と。
 「このことで、省の要求に基づき、地方ではエビ養殖者と稲作者の双方のバランスをとり、一つの水利システムのなかで水を調節する努力をしてきた。しかしこれは容易なことではない。それゆえ長期的には、もしこのような複雑な気候条件下で淡水と海水を調節し続けるようなら、エビも稲も生存は難しいだろう」とチウ氏は懸念している。
 ザライ県フォンタインアー社第4村でエビ養殖を営むグエン・バン・ヒエップさんは、エビ養殖のための仮設小屋の中でじっと座っていることも出来ずに、時々さっと走り出して、家の近くの海水をせき止める水門を見に行き、「死にかけている」エビの養殖池に水が引かれるのを待ち望んでいる。
 「わしは十年近くエビ養殖で生計を立ててきたが、水に関してこれほど厳しい状況になった事はない。経験上見てきたことだが、行政側は頻繁に海水をせき止める水門を開けていたので、住民は食っていけた。しかし今年は“稲を守る”方針のために、わしの40コン以上のエビ養殖池は水不足により生きていけなくなってしまった。これまでに、6000万ドン近くを丸損してしまったようだ」とヒエップさんは悲しそうに言った。
 同じくエビの水揚げ期に丸損している、フォンタインアー社第18村のチャウ・ティ・トゥアンさん(78歳)は、火の上に座っているかのように気が気ではなかった。家には広大な10コン以上(10000㎡以上)のエビの養殖池があるという。通常は毎年三回水揚げを行い、利益は1000万ドンに上る。しかし今年は丸損で、養殖しても水揚げなしという状況だ。

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( 翻訳者:尾崎菜南、佐久間彩夏、橋本実穂、森本真由、吉野珠子 )
( 記事ID:2407 )