ベトナムにおけるマイクロプラスチック汚染:汚染レベルと管理政策
2021年05月02日付 VietnamPlus 紙
フークオック県(キエンザン省)ズオンドン町の海岸でのゴミ拾い
フークオック県(キエンザン省)ズオンドン町の海岸でのゴミ拾い

ベトナムにおけるマイクロプラスチック汚染:汚染レベルと管理政策


マイクロプラスチック汚染の範囲というのは、漁業、水産養殖、家庭、ゴミの廃棄場、環境に対する都市圧力、廃水の直接排出といったような人間の活動に関連している。



環境汚染やプラスチック廃棄物による汚染は、これまでも、そして、現在も、持続可能な開発に対して多くの課題を提起している。

特に原材料ごとのゴミの分類、再利用、リサイクル、廃棄物処理がいまだに同時進行的に行われておらず、効果的でもない。日常生活における固形廃棄物を削減するための解決策は重要視されておらず、クリーンで環境に優しい生産技術の運用はいまだに限定的である。

国際自然保護連合の報告(IUCN 2017)によると、石油化学由来のマイクロプラスチックの環境への排出量は毎年約1170万トンに相当すると推定されている。

そのうち320万トンのプラスチックは、その発生源は様々だが、環境に放出される前にはすでにマイクロプラスチックの形態をとっており(「一次マイクロプラスチック」と呼ばれる)、さらに、その他の800万トンのプラスチックは環境内に存在する大きなプラスチック破片が劣化し、細分化されることで生み出されたものである。

世界保健機関(WHO)は、プラスチック汚染防止のため、マイクロプラスチックに関するより正確な評価とマイクロプラスチックの検査を呼びかけている。2019年にWHOが発表した「飲料水中のマイクロプラスチック」に関するレポートによると、水道水・飲料水中のマイクロプラスチックや化学物質による人体への健康的影響はごくわずかであったが、プラスチック汚染された生態系や食物連鎖からくる人体への間接的影響には警鐘が鳴らされている。

海洋環境の汚染

COMPOSEプロジェクト(社会と環境におけるプラスチック観測センターの建設)を通して、フランス国立開発研究所(IRD)の専門家であるエミリー・ストラディ―博士は、ベトナムにおける淡水・海水環境中のマイクロプラスチックの濃度評価を実施して、漁業、水産養殖、家庭、ゴミの廃棄場、環境に対する都市圧力、処理済みまたは未処理の廃水の直接排出など、プラスチックの使用に関する人間の活動に関連したマイクロプラスチックの汚染範囲を示した。

湾で観測されたマイクロプラスチック濃度は、河川で観測された濃度よりも低いものだった。

具体的に各河川において、マイクロプラスチックは紅河の2.3粒子/ m3からトーリック川の2,522粒子/ m3まで多様な濃度変動を示し、大河川では低い濃度を、小河川や都市、特に未処理の排水が流入する区域では高い濃度を示した。湾では、マイクロプラスチックの濃度は、クアルック湾の0.4粒子/ m3からジン川河口の28.4粒子/ m3まで変動した。

環境へのマイクロプラスチックの排出源は2つあり、その一次発生源にはプラスチック粒子の生産、産業用研磨、3Dプリント、化粧品などを含んでいる。一方、二次発生源はより大きなプラスチック廃棄物が紫外線や熱、人間の生活によって分解されたものである。人間の活動や廃棄物の河川への廃棄により、多くのマイクロプラスチックが河川内に存在し、それが河川から海へと流入していく。

マイクロプラスチックは生物や大気に深刻な被害を及ぼす

ホーチミン市工科大学地質石油工学部のレー・キエウ・トゥイ・チュン氏は、同大学の研究によれば、マイクロプラスチックはベトナムの様々な水生生物の各器官で発見されており、その中でも消化器官とエラはマイクロプラスチックの多くが蓄積する場所であると述べている。

ベトナムの水生生物におけるマイクロプラスチック汚染のレベルは、ヨーロッパの二枚貝や地中海の魚類と比べ、比較的高い数値を示している。

さらに、人口過多、工業生産活動、廃水処理工程のような地域での様々な活動の影響により、破片状よりも繊維状のマイクロプラスチックがより多く蓄積される。このことは、マイクロプラスチックが他の汚染物質のように低次生物から高次生物へと拡散、蓄積し、さらには、食物連鎖を通して人体の中にも入り込むことになる。

小さなサイズなため、拡散しやすく、しかも短期間で拡散することから、マイクロプラスチックはいたるところに遍在し、そのため、マイクロプラスチックによる汚染は日々拡大し、生活環境にも影響を及ぼしている。

ベトナム海島総局(資源環境省)の調査結果によると、海洋生物や海鳥はプラスチックやマイクロプラスチックを餌と誤って食べることが多く、次第に胃の中に空間がなくなり、プラスチックとマイクロプラスチックで胃がいっぱいになり死に至る。

また、プランクトンがマイクロプラスチックを食べ、小魚がプランクトンを食べてプラスチックで汚染され、大きな魚は小さな魚を食べてマイクロプラスチックに汚染され、最終的には死に至る。そのため、海洋生物の数は著しく減少した。さらに、海洋生物を食べる人間は体内にマイクロプラスチックを蓄積してしまう。

ホーチミン市工科大学のチュオン・チャン・グエン・サン氏によると、ホーチミン市の大気中の埃の中にマイクロプラスチックの繊維や破片があることがすべてのサンプルで確認された。

マイクロプラスチックの堆積フラックス(堆積流束)は、人口密度、空間の占有状況、降雨量や風向といった気候条件などの要因により、一年を通して各サンプル地点で異なる傾向で変化している。

ホーチミン市の大気汚染を引き起こす主要な原因は、人口850万人(統計総局、2018年)および1平方キロ当たり4171人の人口密度という高い人口圧力、地元の繊維産業、 埋め立て地や建設現場などの人間の活動、地元の人々の習慣や廃棄物管理レベルの違い等によるものである。

したがって、空気中のマイクロプラスチックは、その拡散性と人体の健康への直接的な影響により、新しい汚染物質と見なされるべきなのである。

マイクロプラスチックの影響に関する研究事業の少なさ

国連のデータによると、世界のプラスチック管理は依然として不十分であり、リサイクルされるのはわずか9%で、12%が焼却、約70%が埋め立てもしくは破棄されている。科学者たちは、プラスチックが環境に及ぼしている悪影響に対し、人間はそうした状況を変えるために行動する必要があるという。

事実、各種マイクロプラスチックが人間や動物に及ぼす健康への長期的な影響に関する詳細な科学的研究は極めて少ない。

いくつかの研究において、堆積物サンプルと水環境におけるマイクロプラスチックの分布と含有量については確定されているが、その発生源(洗剤や化粧品などの産品、クリーニング、繊維産業、交通運輸などの活動等)や環境内(土壌、水、空気など)におけるマイクロプラスチックの実情に関して総合的な評価はまだ行われていいない。

ホーチミン市工科大学の研究結果によると、サイゴン川の各地点でのマイクロプラスチック繊維の密度は川の水1立方メートルあたり17万2000~51万9000マイクロプラスチック繊維で、マイクロプラスチック破片の密度は川の水1立方メートルあたり10~223マイクロプラスチック破片だった。

タインホア省ハウロック県にある干潟の堆積物におけるマイクロプラスチック粒子の含有量は1キロ当たり0.02〜0.0798gで、平均値は1キロ当たり0.0229〜0.0089 g、堆積物1キロ当たり2532〜6875マイクロプラスチック破片に相当する。ティエンザン、カンゾー、バリア・ブンタウの沿海部では、マイクロプラスチックの密度変動は海水1立方メートルあたり0.04〜0.82マイクロプラスチック繊維で、カンゾー地区で最も低く、ティエンザン地区で最も高い数値となっている。

実際のところ、これまでにマイクロプラスチック汚染を監視するための文書や政策は施行されたものの、その後、十分な更新がなされておらず、そうした文書や政策をチェックする資料や報告は少ない。

資源環境戦略政策院のグエン・チュン・タン副院長は、「2019年12月4日付の政府首相決定第1746 / QD-TTg号によると、ベトナムはプラスチック汚染による危機を解消するために一連の目標を提起している。その目標には、2025年までに海洋環境におけるプラスチック廃棄物の量を半減、2030年までに75%を削減することや、2030年までに沿海部の観光地や海洋保護区において使い捨てプラスチック製品や非生分解性のビニール袋を完全廃止することなどが含まれている」と述べている。

上記目標に従い、ベトナムはプラスチック廃棄物の管理に関する多くの政策や法律を施行している。しかし、現在、使い捨てプラスチック製品の廃棄物削減に関する規定は設けられておらず、プラスチック廃棄物のリサイクルは公式には展開されていない。

さらに、初期発生源から生じるマイクロプラスチック汚染の管理に関する知識、理解、および政策や法律にはギャップが生じている。また、ビニール袋への環境保護税の適用には多くの障害や不十分さがあり、首相決定第16 / QD-TTg号のリストにある製品の回収はいまだに展開されておらず、廃水処理や大気の質の管理においてマイクロプラスチックに関する規定はいまだにない。

プラスチック管理のための政策、法律の整備

グエン・チュン・タン氏によると、ベトナムのマイクロプラスチック汚染を効果的に管理するために、ベトナムはプラスチック廃棄物の管理とマイクロプラスチック汚染の監視に関する、2020年環境保護法のガイドライン文書を作成、発行する必要があるという。また、プラスチック廃棄物の管理とマイクロプラスチック汚染の監視に関する内容を改正海・島の資源・環境法や関連法、および、施行に関するガイドライン文書の規定に含め、各業界、各分野の発展戦略において、循環型経済発展、プラスチック廃棄物の管理、マイクロプラスチック汚染の監視に関する内容を統合する必要があるという。

さらに、プラスチックやマイクロプラスチック廃棄物の環境への廃棄を減らすために、コミュニティの意識を高め、行動を変える必要がある。プラスチックおよびマイクロプラスチック廃棄物の管理とバイオプラスチック材料や環境に優しい製品の製造における研究の強化や技術の応用を進めていく。

同時に、プラスチックおよびマイクロプラスチックの管理に関する国際協力を強化するとともに、査察、検査、監視活動を通じて、プラスチックおよびマイクロプラスチック廃棄物管理に関する政策や法律の施行、遵守を強化していく。

ホーチミン市工科大学のチュオン・チャン・グエン・サン氏は、様々な地域の異なるレベルの堆積度と人体の健康に対するマイクロプラスチックの潜在的リスクについて理解するために、空気中のマイクロプラスチックに関する国の監視が必要であると述べた。大気中のマイクロプラスチックの存在やその潜在的リスクに関して地元の人々に警告をしている。

この政策は、プラスチック廃棄物の量を減らし、廃棄物処理において、より環境に優しい解決法の使用を奨励している。よって、日常生活において、プラスチック廃棄物を削減するとともに、プラスチック製品、特に使い捨て製品の使用を制限し、あるいは、プラスチック製品を他の材料に代えていくことが優先的な解決策になる。

資源環境情報センター(資源環境省)のヴー・ミン・リー副所長によると、ベトナムにおけるプラスチック廃棄物の減少と廃棄物による汚染を防止するため、首相は2019年6月にプラスチック廃棄物にノーと言う全国的なキャンペーンを発動した。

すべての省庁、業界、地方当局は、プラスチック廃棄物、特に使い捨てプラスチック製品や残留性有機汚染物質を削減するための計画と行動を策定した。

したがって、今後、ベトナムは、環境に優しい製品の開発、生産を行う企業を奨励し、ビニール袋や使い捨てプラスチック製品を生産する企業への課税を強化するとともに、生産活動から消費まで、リサイクル技術や有毒なプラスチック廃棄物を処理するための技術の開発に投資していく必要がある。

同時に、責任のある関係機関は、省庁、業界、地方当局、組織の環境問題担当幹部の業務の専門レベルと情報発信技能を向上させるためのトレーニングコースの開設を強化する必要がある。

また、プラスチック廃棄物対策に対するコミュニティーの意識を高めるため、情報発信の推進に様々な資源を集中する必要がある。

それでも、画期的な解決策とは依然、人々の日常生活における使い捨てプラスチック製品の使用に対する意識と習慣を変えることであり、プラスチック製品の生産・経営や環境汚染を引き起こす廃棄という行動を変えていくことである。

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( 翻訳者:國島三四郎 )
( 記事ID:6053 )