Altan Oymenコラム:トルコの矛盾 オルハン・パムクとトルコ文学(Radikal紙)
2005年10月22日付 Radikal 紙

ドイツ・フランクフルトで開催されたブックフェアのトルコのブースでは「トルコ文学を世界へ」というプロジェクトが掲げられた。プロジェクトはうまく進行していた。しかし誰一人として「トルコ文学を世界に知らしめた先駆者」を思い出さなかったのである。

■私は今フランクフルトのブックフェアに来ている。このフェアは世界最大規模の国際的ブックフェアであり、参加国は101に上る。トルコは代表として今年度トルコ出版協会が力を入れている。他にも個人的にブースを借りて本を展示しているトルコの出版社が22社あるが、ほとんどの出版社が出版協会の大きなブースに本を並べている。そのブースを先日トルコの観光文化大臣アッティラ・コチが訪問し講演を行った。コチはトルコの作家の作品を外国語に翻訳し出版するプロジェクトについて説明した。プロジェクト名はTEDA。すなわち「トルコ文学世界公開プロジェクト」である。このプロジェクトはトルコ人作家の作品が外国語に翻訳されることを奨励し、外国の出版社には文化省が財政援助をするというものである。
 以前にも同様の試みがなされている。そのシステムは、海外の出版社やそのトルコでの代理店が、文化省に「この作家のこの作品を翻訳したい。援助していただけるか。」と申請すると、文化省は状況を調査し、翻訳のために本1冊当たり最大15000ドルの財政援助をするというものである。そのために来年度の予算に1兆トルコリラを確保した。こうした大臣の談話は良い評価を受け歓迎された。このプロジェクトのおかげで、世界各国で、そして英語、ドイツ語、アラビア語、ブルガリア語など多様な言語でトルコの作家、芸術家の作品が読まれるようになることだろう。

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■しかし一つ忘れていることがある。数は少なくとも、公的支援を受けることなく作品が外国語に翻訳され世界で読まれているトルコ人の作家はいるのである。つまり文化観光省が試みるプロジェクトの先駆者である。フランクフルトのブックフェアのトルコ・ブースで、トルコ人作家の作品が世界で読まれることの重要性を語る際、彼らの名前を一言でも出す必要があるのではなかろうか。ナーズム・ヒクメトからサバーハッティン・アリー、ヤシャル・ケマルにオルハン・パムク・・・
 中でもオルハン・パムクの話はおもしろい。パムクは、このフランクフルト・ブックフェアを開催する団体が、今年度の「平和賞」に選んだ作家である。日々数千人の訪問者が出入りするブックフェアの中でも最も有名な人物の一人である。文化省が外国語への翻訳を奨励するトルコ人作家達の中で、何の支援も受けることなく34カ国語に翻訳された作家である。ドイツ語に翻訳され、ドイツの出版社によって出版され、ブックフェアの色んなブースの最も目立つ場所に並べられたパムクの作品は5種類である。(雪、私の名は紅、新生活、黒い本、白い城)
 フランクフルト・ブックフェアでトルコブースで行われた講演会が、この現実を知らずして行われたことは、非常に悲しい矛盾である。一方でTEDA「トルコ文学世界公開するプロジェクト」、一方で「トルコ文学を世界に公開する」にあたって最も成功した人物・・・ブックフェアに来る客人は誰もが見ているのに、ブックフェアのトルコブーズで「トルコ文学世界公開プロジェクト」を説明する人間には全く見えていない。こんなことがあり得るだろうか。
 それはトルコの出版界に様々な見解があるからだ。ある出版社は「見ないふり」を得策とする。また別の出版社は見たとしても、その見たものが気に入らない。オルハン・パムクがああ言った、こう言った・・・その言ったことが意図を超える形で活字にされ、それでもこと足りない。それがノーベル賞を取れなかったためになされているのだろう。今はそれを忘れ、小説が34カ国語に翻訳され、最も価値ある賞の一つを獲得した人物がトルコ人作家であることを思い出すべきだろう。


■ドイツ出版協会の平和賞は1950年に始まった。この基金の選考委員会は以下の原則に従って賞を決めている。「(賞の目的は)平和、人類、民衆の間の理解推進に貢献することである。この賞は、文学、芸術、科学の分野における功績が平和に貢献したと見なされる人物に与えられる。賞は、民族、人種の差別なく与えられる。」ブックフェアの宣伝に見られるように、現在まで賞を獲得した中には、テオドール・ホイス、バーツラフ・ハベルのような作家兼大統領もいれば、マックス・フリッシュ、ソーントン・ワイルダーのような脚本家、ユーディ・メニューインのような音楽家もいる。トルコ人では1997年にヤシャル・ケマルが初めて受賞している。今年度オルハン・パムクが選ばれた理由は次の通りである。「(受賞決定に当たって)今日の作家が全く試みなかったことをなし、東洋における西洋の、また西洋における東洋の歴史観を超えた、知と人々を敬った形で文化に貢献する作家として評価されたからである。オルハン・パムクはヨーロッパとムスリム・トルコが融合した作品を作り出した。‘白い城’、‘私の名は紅’、‘雪’などの小説において東洋の物語の伝統と西欧の型をうまく融合させ、社会が、視野の狭くないヨーロッパに必要とするイメージと概念を作り出している。作家はオスマン朝史にまで遡る一方で、現代起きている事象についても臆することなく取り上げ、人権やマイノリティの権利を主張する一方、国の(トルコの)政治問題に関する姿勢を扱っている。」


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( 翻訳者:大島 史 )
( 記事ID:1142 )