「アルメニア法案」をめぐり、米国下院での緊張のかけひき続く
2010年12月21日付 Hurriyet 紙


アメリカ下院議会では昨日、アメリカ政府が批准を期待している重要な新戦略兵器削減条約(新START)と、2011年度予算編成に関わる法案が提出されていた。それにもかかわらず、下院においては、午前中から「第252号アルメニア虐殺非難決議法案」をめぐって緊張が生じていた。下院の司法委員会は、法案を議題に取り上げなかったが、司法委員会の決定を覆す権限をもつナンシー・ペロシ下院議長は、ヒュッリイェト紙に対し、議題化の可能性がなくなったわけではないと語った。トルコ大使館の職員たちは、朝から議会の廊下で状況を注視している。下院議会は、トルコ時間18時から開催される。

昨日のアメリカ下院議会では、第252号アルメニア虐殺非難決議法案をめぐり、激しい緊張が生じた。午前9時からはじまった下院本会議場の廊下では、法案の提出が噂されていた。3月に下院の外交委員会で可決された法案に関し、本会議の議事にあげられる準備が進んでいることが先週の金曜日(17日)に判明した。しかし、法案は先週金曜日の議事にのせられなかったので、事態は火曜日(21日)に持ち越されていた。

■77人の下院議員と一対一で話し合いをもった。

火曜日の朝に投票が行われる可能性があるとの観測をうけ、ワシントンのトルコ大使館は阻止工作を先週の金曜日から徹底して行なった。エルドアン首相はオバマ大統領に書面で警告を伝え、そしてアフメト・ダヴトオール外相はヒラリー・クリントン国務長官と電話会談を行った。また、ナームク・タン在米トルコ大使は、77人のアメリカの上下院の議員達と一対一の会談を実現させた。大使館の職員達は、約60人の議会コンサルタントと話し合い、法案反対を支持するよう求めた。タン大使は、アメリカ商工会議所を含め議会へ影響をもつ人々と接触し、支援をえた。

■「法案の提出はない、注視している」

火曜日の朝、下院の民主党指導部は同法案を議事にもりこもうとしたが、これは司法委員会で緊張を呼んだ。委員会は、昨晩急遽、「緊急」コードつきで召集されたが、トルコ大使館の要請をうけ、多くの議員が早朝から議会にやってきた。そのせいもあり、司法委員会は多くの出席者をえた。司法委員会の13人の委員の一人で、トルコ・アメリカ友好議員連盟のメンバーでもあるノース・カリフォルニア州選出のヴァージニア・フォックス議員は、会議の前にヒュッリイェト紙に対し、「法案の提案はありえない。みなここにそろっている。監視している。もしもペロシ議長が委員会の決定を覆えしたとしても、法案の可決はないだろう。可決には3分の2の票が必要だからだ」と語った。

司法委員会が法案の提出を承認しなかったことから、人々の目は、法案の採決のために委員会の決定を覆す権利をもつペロシ下院議長が、その権利を行使するか否かに向けられた。そして、委員会決定棄却の危機は一日中、続いた。

この問題についてペロシ下院議長と同じ権限をもつ民主党下院議会院内総務のステニー・ホイヤー氏は、「法案が採決されるとは思っていません。しかしまだ決まったことではありません。今日は何が起こるのか、みていきましょう」と答えた。

ホイヤー院内総務の返答から約10分後の15時頃(トルコ時間22時頃)、ペロシ下院議長はヒュリエット紙の質問に以下の様に答えた。「この問題はまだ決まっていません。上院が承認し、すでに議題にあがっている(これ以外の、戦略兵器削減条約批准などの)重要議題に集中しています。政府の活動を続けさせるために、これらの法案の審議を行うのです。その後で、252号法案のために私たちの時間が残っているかどうによります。今日はとても忙しい日です。おそらくは明日になるでしょう!」

■ 議会の外ではロビー活動が続く

昨日の議会では、議員たちが一刻も早くクリスマス休暇に入りたいと審議終了を望んでいたが、その一方で米政府にとっては非常に重要な案件が提出されていた。そうした中、第252号法案騒動は一日中、続いた。アメリカ議会のトルコ・アメリカ友好議員連盟の会長らは、「虐殺」法案について議員らに手紙を送った。ステファン・コーエン会長は、ヒュッリイェト紙に対し、「同法案は、アメリカの安全保障を脅かすものであり、こうした試みは非常識だ」と述べた。

議会の外では、トルコへの最も大きな支援がアメリカ国務省より届いた。フィリップ・J・クロウリー報道官は「法案への私たちの反対を表明します。この問題で下院と折衝しています」と語った。しかしながら、ホワイトハウスは、ある質問に対し、ロバート・ギブス報道官が「オバマ大統領自身がこの問題での見解を明らかにしています」とコメントし、世論の前で政府が法案審議可否の問題に介入することは望んでいないというシグナルを送った。

■休暇に入るか?

第111回議会はまもなく任期をおえ1月3日に第112回議会へと引き継がれるが、その最後となるクリスマス前の審議では、夕刻まで緊張が続いた。

夕刻、本会議ではホワイトハウスが成立を期待していた諸法案が通過し、水曜日再度招集する必要がなくなったため、これで審議を終了しクリスマス休暇に入るかどうかが審議されている。アルメニア人ディアスポラ・サイドは、最後の瞬間までペロシ下院議長が法案を議事に乗せることを期待していた。

他方、外交筋は、採決にもちこまれた場合でも、ワシントンで強力な力をもつユダヤ系ロビーは、この件に関し中立を維持するだろうとみている。とりわけアメリカの最も強力なユダヤ人組織であるアメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)は、賛成・反対のいずれの側にも組みしないとみられている。

■彼らはとても努力した。

下院議会で審議のなかった月曜日は、1月3日に任期がはじまる第112回議会の新しいメンバーの到着にあわせ、廊下は荷物であふれていた。その中で、2つのオフィスだけが終日稼働していた。ペロシ下院議長のチームは、議会一階の一室に集まった。ハワード・ベルマン外交委員長のチームはといえば、レイバーン・ハウス・オフィスビルの2221号室に集まっていた。二人はともにカリフォルニア州選出で、第252号法案が3月に下院議会外交委員会において23対22で可決されたさいに、最も重要な役割を果たした。議会関係者によると、ペロシ下院議長とベルマン外交委員長のオフィスは、一日中法案に賛成するよう議員達に電話をしていたという。

■同法案の経緯

2009年3月17日、カリフォルニア州選出のアダム・シフ議員によって準備され、下院に提出。
2010年3月4日、下院外交委員会において、23対22で可決。
2010年9月22日、第240号法案として下院の審議予定に入れられる。
2010年12月17日、アルメニア側が法案審議が開始される予定と発表。

■ 決議法案の戦術

所謂アルメニア人虐殺非難決議法案は、1975年以来アメリカの下院議会で、ほぼ毎年、議題に上っている。決議という性格の声明文は、現在まで異なった形で数回、下院で承認されてきた。1975年と1984年には、アメリカ大統領に虐殺を認めるよう、下院で決議された。しかし、これらの法案は、両院共同提案の法案であるため、議会上院での決議がなかったため、法案が国会を通過し成立したとはみなされなかった。

政治評論家によると、以前の二つの法案に比べて、今回の第252号決議法案は、両院提案ではなく、単に下院にだけ提案されているものであることから、重要度としては、以前の2つの例にくらべて低いという。しかしながら、これは、アルメニア人ディアスポラ組織によって意識的に実行された戦術であるともみられている。観測筋によると、アルメニア側はこの法案により、突破口をひらくことを目指している。数年後、とりわけ2015年の1915年事件100周年記念の際に、両院共同提案の法案を承認させるべく圧力をかけることを予定しているという。

■舞台裏での工作

ペロシ下院議長は第252号法案提出のための根回しを木曜の夜11時頃から始めた。タン在米トルコ大使へ法案採決の動きが電話で知らされたのは、金曜日の朝6時。電話をかけてきたのが誰かということについては明らかにされなかった。

■緊急招集

午前7時に大使館は情報を他のルートからも裏付けをとった。これをうけ、大使館で緊急会議を行うことが決まった。そして、午前9時30分にトルコ側のロビイスト達も加わって緊急会議が開かれた。大使館は、このような状況に対し、3月に法案が下院の外交委員会を通過して以来、準備してきたために、会議は30分程で終わった。午前10時には全員が作業を始めた。

■3つの組織の尽力

一方では大使館、一方ではロビイスト達、さらに、もう一方で(そして最も重要な)トルコ・アメリカ諸協会が、急ぎ、法案採決への動きに対抗する活動に入った。ワシントンのトルコ・アメリカ協会連合(ATAA)、ニューヨークのフロリダ・トルコ・アメリカ協会(FTAA)、そして在米トルコ人連合(TCA)が、短い時間で、何千ものトルコ人を法案反対キャンペーンに結集させた。

■危機的な時間帯

最も危機的な時間帯は午前10時から正午までの間で生じた。しかし、正午には、法案がその日(17日)には議事にのぼらない予定であることが明らかになった。同時刻に(12時24分)、ホワイトハウスは法案が議事にのぼる可能性が低いと判断し、それをトルコ大使館職員に知らせてきた。また、オバマ大統領に対する本紙の質問への返答が、ホワイトハウスからEメールで届いた。

■奇襲作戦

情報筋の話から、ペロシ下院議長が作戦を木曜の夜に開始し、投票を金曜日の昼までに終わらせるつもりであったことが判明した。これは、トルコ政府とアメリカ政府の介入を受ける前に、奇襲作戦で投票をすませるもくろみだった。

ペロシ下院議長は、同じ戦術を9月28日に下院議会を通過したキプロス法案でも実行していた。下院議長としての権限を利用し、第1631号法案を本会議で採決にかけ、そして、議場に10人の議員しかいなかった時に通過させた。下院は、その翌日、選挙のため休暇に入った。

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( 翻訳者:濱田裕樹 )
( 記事ID:21025 )