Joost Lagendijkコラム:この裁判はこれで終わりはしない
2012年01月22日付 Zaman 紙

(当初は)他のテーマで書くことを予定していた。このコラムが日曜日に掲載される時には、木曜日に行なわれ、私も参加したフラ ント・ディンクのデモ行進から3日が過ぎ、そしてこのセンセーショナルな行進に関してほぼあらゆる発言が出尽くしているものと考えた。

そのはずだ。だが、何はともあれこのデモ行進について書くことにしよう。なぜならこの行進は悲しみで満ち、且つ心に残るという点で極めて力強いものであった。また、このデモ行進で叫ばれたスローガンの一つも表現しているように、この裁判がこのような形で終わることはない、と信じたかったからである。

フラント・ディンクの殺害と彼を殺害した犯人らの公判の過程が、スキャンダルとなんら変わりのない扱いとなり、且つその結果がなぜこのように深い傷痕を残す事態に至ったのかについて言及したい。フラント殺害の背後にある本当の推進者たちが隠れ、守られたままならば、この裁判は今後トルコや指導者らに常についてまわるだろう。ではそれはなぜだろうか?

その理由の一つは、殺害されたフラントや彼が主張した理想のためだ。悪意に満ちたトルコ民族主義者を除いて、フラントをテレビで見たり彼が話しているのを聞いたりしていた人々の大部分は、彼の中庸さを称賛した。そして、彼の前向きな目的(つまりトルコ人とアルメニア人を和平させる努力)に敬意を示した。フラントは過激な立場に立つ保身的な人間ではなく、仲裁者であった。彼の殺害は、彼を直接には知らず、しかし今日まで平和の使者の殺害を当然とは思わない何百万人もの人々にショックを与えた。

この裁判が、国内外でこのように手に負えないものとなった二つ目の理由は、直接フラントや彼の努力と関わる問題である。つまり、オスマン朝下のアルメニア人らが1915年に受けたアルメニア人虐殺に関する論争である。この問題は払拭されることなく、その真逆に2015年に近づくにつれ論争はより激化するだろう。そしてその度に、フラントの功績は論争の背後で十分に体感されることになるだろう。

三つ目の理由は、(この犯罪を)ちゃんと理解することが容易であることだ。この点に関して、エルゲネコンのような複雑な陰謀について話しているわけではない。トラブゾン出身で民族主義者である数人の若者たちについて、直接面識のないフラントを彼らが殺害したといわれている。この若者たちが殺害を計画しなかったことや、犯行の前後のもみ消し工作に彼らが関わっていないことは、衆目の一致する所である。国家の安全保障装置の中には、この犯罪を計画した人々がおり、この犯罪と国家との繋がり払拭しようと力を行使した(実行犯らとは)別の人間たちがいた。この繋がりが明るみにされない限り、正義が示されたとは誰も信じはしないだろう。

四つ目の理由は、今回の判決が今後トルコの政治的議題の中で、少なくとも白熱する問題に接触することになることだ。(つまり)司法システムを徹頭徹尾改革することである。非常に多くの不足点はすでに議論され、政府はこれらを解決する方向で改革を進めると述べている。では、トルコで検察官や主要な犯罪者らの一人が(判決とは)反対のことを主張する中、フラント殺害の背後に犯罪組織は関与していないと裁判官が判断したことは、とりわけ裁判官自身がその判決後に行なったインタビューにて、そこには腐敗したものがあるということを自分自身も信じていると発言した状況がある中、ことがうまく進んでいるとどうやって信じさせることができるというのか?

最後の理由は、公に出た光景の力である。フラントの殺害、あるいは裁判に関する大きなデモがいつ起きようと、小さな白黒のカートン紙に書かれた馴染みのあるスローガンを携えた何千人もの人々の光景が、トルコや世界でトップページを飾っている。日々のニュースに注意することなく、何が起きているのかわかるだろう。そう、またしてもトルコで殺害された新聞記者の裁判に関して人々がデモ行進しているのだと。何百万人もの人々がこの光景を記憶した状況で、この記憶をゆっくりと忘れさせるには、世界中で非常によく知られ、認識されている街頭での大衆デモを開催する必要性がもはや(地球上で)なくなった時のみに可能だ。

これらの理由から、公正発展党(AKP)政府が隠し通せることは何も無い。約10年間与党であり続け、既存のジレンマを乗り越えることは彼らの責任である。彼らが裁判に関して優柔不断な態度を選びとるなら、これには二つの理由が考えうる。与党は国家内での既得権者と妥協することを選んだために、動き出せないでいる。あるいは、かつての中核勢力の一部の人々に対し、未だに手を触れることができないために、満足いく結果にむけた圧力をかけられないでいるかだ。どちらの場合も、結果としてAKPが倫理的に傷を受け、政治的に弱体化することになるだろう。AKP指導者が選ぶシナリオが、これではないと信じている。

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( 翻訳者:指宿美穂 )
( 記事ID:25297 )