トルコ・アゼルバイジャン回廊確保―世界地図が変わった!
2020年11月29日付 Milliyet 紙


最新報道によれば、44日間のナゴルノ・カラバフの戦闘でアルメニアを破ったアゼルバイジャンはトルコ国境のナヒチェヴァンから直接の往来を確保した。これによりトルコと中央アジアをつなぐ貿易ルートも変わる可能性があり、さらにアゼルバイジャンからより安価な天然ガスを購入できることから、イランでの混乱が引き起こされる可能性もある。イランのイスラム革命防衛隊と密接な関係にある保守系新聞Cevan紙で発表された分析が、変化するバランスを詳細に明らかにした。

写真1:ナゴルノ・カラバフにおけるアルメニア軍との6週間に及ぶ戦闘を経て勝利したアゼルバイジャンは、現在、イラン国境に接する全領土を支配している。さらにアルメニアと署名した協定により、トルコ国境に位置し、アゼルバイジャンの他の国土とつながっていない領土であるナヒチェヴァンと、回廊を確立するという約束も取り付けた。

写真2:イラン北部に暮らすアゼルバイジャン系の人々はこの進展に歓喜したが、この回廊はテヘランでは懸念を引き起こした。その理由は、アゼルバイジャンとナヒチェヴァンの交易は、30年間イランを通じて行われてきたことである。イランはそれによりアゼルバイジャンに対して政治的影響力を持つとともに、交易から収益を上げてきた。

写真3:イランのエネルギーリスク
BBCトルコ語ニュースの報道によれば、イランの保守メディアMaşrekのウェブサイトで、この回廊がイランに多くの負の地政学的影響を与えるだろうと述べられている。 Maşrekウェブサイトは、この点を6つの見出しをつけて分析している。

写真4:アゼルバイジャンは、イラン経由でナヒチェヴァンに輸送した天然ガスの15パーセントを手数料として支払っていた。一方、イランは1996年にトルコとガス販売契約を締結しており、この契約によりトルコは長年、イランから高価なガスを購入していた。トルコは1000立方メートルあたり490ドルをイランに支払っていたが、アゼルバイジャンからのガスは335ドルで購入できる。将来的にこの回廊を通じてアゼルバイジャンからトルコにガス輸送パイプラインが敷設されれば、イランのガスは多大な損失を被る可能性がある。

写真5:トルクメニスタンから始まり、イランを経てトルコに到達するよう計画されたガス輸送パイプライン計画は、財政上の理由で2017年に凍結された。このガスを、今後トルクメニスタンはアゼルバイジャン経由でトルコに輸送できるようになる。さらにイランのアルメニア向け輸送パイプラインの重要性も低下した。

写真6:米国が支援するカスピ海横断パイプライン計画が再び検討される可能性がある。トルクメニスタンの都市トルクメンバシュからアゼルバイジャンまで延伸されるこのパイプラインは、アゼルバイジャンージョージアートルコ間を走る既存のパイプラインを経由しヨーロッパにまで到達可能である。つまり、イランからヨーロッパへのガス輸送パイプライン計画にとっては更なる障害となりうる。

写真7:イラン系メディアがさらに深堀りするところによると、トルコとアゼルバイジャンとイスラエルは、イラン国境沿いのアルメニア領土の占領を試みたが、この地域でのイランの存在感を考慮し実現できず、その代わりに回廊のアイデアへと立ち戻ったという。

写真8:■トルコー中央アジア間の交易ルートが変わる
今日イランは、トルコから中央アジアへ至る陸路貿易において非常に重要な役割を担っている。イラン道路交通省の2020年のデータによれば、今年は新型コロナウイルスによる貿易への影響にも関わらず、毎月1万2000台ものトルコ側のトラックがイランートルコ国境を通過し、これらの大半がテュルク系諸国かアフガニスタンに向かっている。

写真9:これらの取引はイランにとって非常に有益性が高い。トルコから入りトルクメニスタン国境へ抜けるトラックは、1800キロメートルの道路通行料としてイランに700~800ドルを支払う。アルメニアの回廊が開通すれば、この交通量は大幅に減少する可能性がある。

写真10:■鉄道輸送の見通し
帝政ロシア時代に建設された鉄道は、アルメニアの首都エレバンからナヒチェヴァンを経由して、ナヒチェヴァンーイラン国境に沿って走り、さらにアルメニア回廊を抜けてアゼルバイジャンまで繋がる。この鉄道はナゴルノ・カラバフ紛争のため長年稼働していなかった。

写真11:イランは、この鉄道の再開と、それに伴いナヒチェヴァンからアルメニアに至る鉄道輸送が行われることを期待している。 これまで両国間の国境を通過できる道はあったが、この国境を越える鉄道はなかった。したがって、イランは、今回の(アゼルバイジャンとアルメニアの)合意から引き出せそうな最低限のものの一つとしてこの鉄道貿易の増加を見込んでいる。

写真12:イランは2018年にユーラシア経済連合と包括的な貿易協定を締結した。アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、ロシアで構成されるこの経済連合との間で締結された協定は、2021年に完全な形で発効する。

写真13:トルコは、トルコのカルスとナヒチェヴァンを結ぶ新しい鉄道路線で、アルメニア回廊を経由しアゼルバイジャンに、そして中央アジアまでつながることを目指している。イランの保守系メディアであるTasnim通信は、トルコはこの鉄道路線によって同地域での影響力を高めようとしていると報じた。

写真14:アルメニアも鉄道貿易による貿易増加を目指している。紛争により、ナヒチェヴァンを通ってイランまで鉄道を通すことのできなかったアルメニアは、同じ理由でトルコおよびアゼルバイジャンとの鉄道接続も休止状態だった。

写真15:アルメニアと世界(国外)を結ぶことができる唯一の鉄道は、ジョージアを通過してロシアに到達していた。しかし、この鉄道が通過する地域にあるアブハジア自治共和国が、ロシアの支援を受けて独立を宣言した。 アブハジア自治共和国の独立は、ロシア、ニカラグア、ベネズエラ、シリア、およびいくつかの太平洋諸島国家によってのみ承認されており、ジョージアはこの地域と交易をおこなっていないため、アルメニア国籍の車両が同地域を通過してロシアに抜けることはできない。

写真16:この問題で声明を発表したアルメニアのニコル・パシニャン首相は、アゼルバイジャン経由でロシアと、またナヒチェヴァン経由でイランと貿易を行うことを望んでいるとし、次のように述べた。「これがターニングポイントになる可能性がある。しかし、これらは交渉の場で取り組んでいかねばならない課題である、実現するかどうかは現在はわからない」

写真17:■国境の町での貿易増加
イランがアルメニアに接続する鉄道を開放すると、それ自体の恩恵に加えて、アルメニアの占領から奪還したイラン国境地域のアゼルバイジャン系集落が再建され、イラン北部との貿易が増加すると考えている。"

写真18:イランはこの国境に税関ゲートを新設することを検討している。イラン国営通信(IRNA)では「アルメニアに小さな回廊が開かれたとしても、イラン国境の重要性が下がることはない。この地域にイランが積極的に関与していくことで、イランとアゼルバイジャンの両方により多くの利益をもたらすことができる」と報じられた。

写真19:■地政学:コーカサスにおけるトルコの影響力の高まり
それ以外に、南コーカサスで増大するトルコの役割と同地域へのロシア平和維持軍の配置も、イランに警鐘を鳴らす。イランはロシアをパートナーとみなしているため、ロシア平和維持軍の配置にはそれほど懸念していないにしても、テヘラン政府がコーカサスで増大するトルコの影響力を容認することは容易ではない。

写真20:イスラム革命防衛隊と近い関係にある保守系新聞Cevan紙は、ナゴルノ・カラバフ紛争におけるトルコの役割を調査した分析記事で、「トルコは同地域でロシアの影響力を減少すべく取り組んでいる。地政学的、経済的、そしてエネルギー分野での利益を狙っている」とし、次のように付け加えた。

写真21:「トルコのアプローチは、米国がロシアを押さえつける戦略と総じて相性がいい。しかし新しい回廊を築いて、イランの地政学的利益を脅かすのは賢明なアプローチではない。イランは、トルコとアゼルバイジャンからなされるこうした試みを容認せず、回廊も受け入れないだろう。」

写真22:イラン議会のマフムード・アフマディ・ビガシュ議員は、議会開会挨拶で、トルコがこの地域の政治地図を変えたこと、そしてNATOやイスラエル、そして米国がカスピ海に進出する道を開いたと示唆した。 (BBCトルコ語ニュース)

Tweet
シェア


この記事の原文はこちら
原文をPDFファイルで見る

 同じジャンルの記事を見る


( 翻訳者:原田星来 )
( 記事ID:50252 )