ロシアのE40水路計画、トルコに大きな影響

2022年03月27日付 Milliyet 紙

ウクライナを東西に分かち、ウクライナ中央を流れるドニエプル川付近へのロシア軍の進行は、E40水路計画を再び俎上に載せることとなった。ロシアのウクライナ侵攻後E40水路計画の行末はどうなるのか?トルコにとっての計画の重要性に注目するトルコ海運・グローバル戦略センター長で退役少将のDoç.Dr.ジハット・ヤイジュが驚くべき発言をした。

ロシアがウクライナに侵攻して1ヶ月が過ぎた。ロシアが2月24日に開始したウクライナ侵攻により発生した戦争で何千人もの人々が命を落とし、多くのウクライナ人が住まいをあとにせざるをえなくなった。ウクライナを東西に分かち、ウクライナ中央を流れるドニエプル川付近へのロシア軍の進行は新たな議論の導火線に火をつけた。

バルト海と黒海と結ぶE40水路計画は、ロシア軍のウクライナ東部占領により再び話題に上った。E40水路計画とは何か?この計画はいつ浮上したのか?計画の戦略的重要性とは?この計画はロシアのウクライナ侵攻の理由の一つと言えるのか?ロシアはE40水路計画を単独で実行できるのか?イスタンブル・トプカプ大学教員ならびにトルコ海運・グローバル戦略センター長のDoç.Dr.ジハット・ヤイジュ退役少将と話した。

■浮上はいつ?

バルト海と黒海をつなぐE40水路計画は近頃頻繁に議論されている。バルト海の地理と黒海をつなぐとされ、特にここ数年頻繁に取り上げられているこの計画は、ロシアのウクライナ侵攻、特にドニエプル川付近への進行により再び俎上に載せられた。この計画はいつ初めて浮上したのか?Doç.Dr.ジハット・ヤイジュは、E40水路計画は2013年に初めてポーランド、ウクライナ、ベラルーシ政府によって発案されたと述べた。計画が進められる中、欧州連合(EU)によっても支援されたと強調するDoç.Dr.ヤイジュは、「欧州復興開発銀行の本計画への様々な支援の試みや実行可能性調査が行われていたとしても、2014年のロシアによるクリミア併合により本計画の将来性は非常に曖昧になった」と話した。

■「トルコにも利益のある計画」

E40水路計画の目指すものは何だったのか?Doç.Dr.ジハット・ヤイジュは、本計画とともにポーランドの都市グダニスクからバルト海に流れるブーク川、ベラルーシにあるプリピャチ川およびウクライナの都市ヘルソンから黒海に流れるドニエプル川の統合を目指しており、「こうして黒海からバルト海への移動が可能になる」と述べた。E40水路計画に関連してウクライナ、ベラルーシ、ポーランド間の貿易が発展すると言うDoç.Dr.ヤイジュは、本計画とともに、さらに黒海沿岸国の北欧への海路アクセスも著しく容易になると強調した。「船舶は当該水路のおかげで距離、コスト、時間の面で非常に大きなメリットを得ることが可能となる」と話すDoç.Dr.ヤイジュは、「例を挙げると、この計画は中国から出た商船が北欧にアクセスするための通行距離を大きく短縮する。さらにトルコ、イタリア、エジプトといった南に位置する国々のアダラル海、諸海峡、マルマラ海、黒海ルートからの北方諸国へのアクセスが非常に短縮される」と話した。

■「ロシアはこの計画を安全脅威としている」

E40水路計画はロシアのウクライナ侵攻における重要な理由の一つと言えるのか?Doç.Dr.ジハット・ヤイジュは、E40水路計画のおかげで南北諸国間の貿易が非常に発展すると考えられていると述べた。本計画とともにポーランド、ウクライナ、ベラルーシといった国がますます西洋貿易に統合すると述べるDoç.Dr.ヤイジュは、ロシアにとって本計画は安全脅威であり、「カリーニングラード-トランスドニエストルラインから始まる、ロシアの境に位置するウクライナとベラルーシといった国がロシアの安全を西洋貿易にこのように統合することは深刻な脅威という意味になる」と伝えた。「E40水路計画はこれらの国々におけるロシアの経済的影響を減少させるだけにとどまらず、同時に競争的な環境で生き残るためにロシア貿易にもこのルートを使用することを強いることになる」と話すDoç.Dr.ヤイジュは、「そのため本計画はロシアに安全脅威として認識されている」と続けた。

■「最初にベラルーシが計画断念」

ロシアのウクライナ侵攻後、E40水路計画の行末について何が言えるか?本計画は保留されたのか?Doç.Dr.ジハット・ヤイジュは、現状を踏まえると、計画は現在保留されていると述べた。まず計画の中間国であるベラルーシがE40を断念したと言うDoç.Dr.ヤイジュは、「2019年にベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領はウクライナ訪問時にE40水路計画のメリットに関して話をし、計画についてベラルーシがやるべきことは全てしたと言い、残りはウクライナに委ねられたと述べている。2020年にはベラルーシでルカシェンコが選挙で不正を行ったという疑惑によりプロテストが行われ、ベラルーシ大統領はかなり苦境に立たされた。周知のようにプロテスト制圧のためロシアに支援を求めたルカシェンコは、このおかげで政権に残ることができた」と話した。

■「ロシアの標的があの都市であることに注目すべき」

その後ベラルーシは本計画についての意向を保持することに関して何も説明していないと言うDoç.Dr.ジハット・ヤイジュは、計画のキーとなる国はベラルーシだと強調した。Doç.Dr.ヤイジュは、「今日ロシアがウクライナに対して行っている侵攻でベラルーシ国土を輸送支援や供給活動のために積極的に使用していることを知っている。そのため、ベラルーシなしにはこういった計画の遂行は不可能であることから、現況では本計画は到底可能ではない」と話した。本計画を不可能にさせている反ルカシェンコプロテスト、クリミア占領およびロシア・ウクライナ戦争といった情勢でロシアが重要な役割を担っているとするDoç.Dr.ヤイジュは、「今起こっているロシア・ウクライナ戦争でロシアが攻撃した最も戦略的な地域の一つは、E40水路が黒海と合流するとされる都市ヘルソンであることに注目すべきだ」と述べた。

■「トルコ海峡の重要性が高まる可能性」

黒海沿岸国であるトルコにとってのE40水路計画の重要性とは何か?トルコにとっての本計画の重要性に注目するDoç.Dr.ジハット・ヤイジュは、「まず公海から黒海への海路アクセスは現在トルコ海峡でのみ可能である。E40水路計画による黒海へのアクセスはトルコ海峡を無価値化させると考えられている」と言うDoç.Dr.ヤイジュは、「しかし全く逆のことが起こるとも言える。なぜなら東から来る船が北欧にアクセスするために地中海を通ってジブラルタルに到達し、そこからポルトガル、スペイン、フランス、オランダ、ドイツといった国々の近海を通る代わりにトルコ海峡を通ってE40水路にアクセスするということは非常に短い距離だという意味になる。そのためトルコ海峡の重要性が増すと考えられる」と続けた。Doç.Dr.ヤイジュは、本計画は黒海の北に位置する国々に経済的メリットがあり、黒海沿岸国の間の貿易量に前向きに貢献するだろうと述べた。

■将来ヨーロッパ-ロシア間の境界線に変わるのか?

E40水路計画は将来ヨーロッパとロシアの間の境界線に変わるのか?Doç.Dr.ジハット・ヤイジュは、本計画がヨーロッパおよびロシア間の境界線に変わると言うことは非常に独断的な主張になると話した。この計画はポーランド国境を通っていると述べるDoç.Dr.ヤイジュは、「ロシア自身がベラルーシおよびウクライナで安心感を持てるか、これらの国々で親露政権が立った場合にモスクワは本計画を前向きにとる可能性がある」と話した。「ベラルーシとロシアの連合政府プログラムをウクライナでも適用できた場合にE40水路計画の大部分をコントロールするであろうロシアが本計画を前向きに検討することで計画実行の可能性が増す」と言うDoç.Dr.ヤイジュは、「もちろん本計画はポーランド、ウクライナ、ベラルーシがロシアとは完全に独立した国家である場合、それがモスクワにとって脅威であるならば、モスクワの影響下にある国家により実現された場合はモスクワにとってはそれだけメリットがある。本計画が技術面で限りなく可能かつ代替案に比べて費用対効果があるということも、将来さらに取り上げられることを示している。ロシアは自身の視点から状況を評価しこの計画を自ら実行する可能性もある」と話した。


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翻訳者:安井 悠
記事ID:53109